微笑みを数える日
人類が住んでいる地上の、ずっとずっと高い所。
天界はそこにある。
「他界者15名入るよー」
ここは、
進路は4種類あり、良い人順に、天国、天界で働くorすぐ転生(この2つは定められた人自身が選べる)、地獄。
自分の判断によってその人の行き先が決まるという仕事、これが意外に重労働なのだ。
まず、その人の記憶を隅々まで見る必要がある。次に、マニュアルに従い理由を探り、最後に係長に提出する。1日のノルマは2人、それを年中無休。
けっこうブラックだとは誰もが思っているはずだが、かといって他に働き口がある訳ではないので、辞めるような事は滅多にない。
「どんどん待ち人数増えてるから、できるだけ速くこなそうね、でも間違いはないようにー」
気持ちが緩み始めた今、爽やか係長の声を聞いて、僕は仕事に集中した。
昼休憩。僕は最近、新しく入ってきた
「いやー今日も疲れましたわ。ふー。
「まだ午後があるけどな」
休憩スペースの椅子に勢いよく座る彼を横目に弁当の蓋を開けた。白米とツナ入りサラダという地味なものだが、仕事が一段落した時に食べる弁当は充分な程癒しだ。
「あの、岳さん」
「なんだ?」
いつもは僕から話し始めるが、珍しく彼の方から話しかけてきた。何か言いたい事がありそうな瞳が僕に向く。
「何人もの記憶を覗き込んで思ったんです。人の一生ってホントに十人十色なんだなって……まぁ他界後の行き先が分かれてるんだから当然ですけど、差別やいじめで苦しい思いをした人もいれば、最初から最後まで恵まれた環境で生活して逝った人もいるんだなって。そう考えてたら、岳さんの一生を聞きたくなってきちゃって。良ければ教えてください」
彼はチャラくて若い。失礼かもしれないが、早死にした僕より年下で、見た目もしっかりしていると人柄に見えるとは言い難い彼がこんな話をしてくるなんて思ってもいなかった。
僕は彼のランク付けを担当したのでうっすらとは覚えているが、そうか、栄は僕の一生を知らないのかと思い、口を開いた。
「そうだな、若い時に死んじゃったけど、幸せな人生だったな。会社員の両親の間に生まれて……」
記憶を辿りながら話を進めた。幼少期から時系列に沿って思い出していく。
……話し終わる頃には、いつの間にか泣いていた。
「だ、大丈夫ですか!? 俺、なんか酷い事しちゃいましたかね……?」
「否、君は何にもしてないから、僕が勝手に泣いてるだけ」
そっと差し出してくれたハンカチを借りて涙を拭う。
ずっと忘れていたけれど、僕の人生は良いものだった。
他の人の人生を高速で処理する日々が続いていて忘れていたが、誰が生きる道だってかけがえのない宝物だ。様々な学びがあり、喜びがあり、涙もある。
彼にそれを教えてもらってから、仕事が楽しくなった。
責任は感じるけれど、それよりも、自分はこんなに学び考える機会があるのかと感謝している。
いつの間にか昼休憩になった。
「岳さーん!! はやく食べましょ!!」
「今行くー」
かけがえのない友とかけがえのない思い出を胸に、僕は此処で確かに生きている。
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