24話3Part 道化達のお茶会③
「今の、何か変な放送だったな。需要あんのか?あれ」
「し、知らない......」
......フレアリカが青年......こと、14代目魔王(仮)·オセと別れた頃、望桜と瑠凪はまるで"不思議の国のアリス"の世界のような、可愛らしいノスタルジックな世界にある森の中を歩いていた。
大小様々なキノコに世界見事にマッチしている広葉樹、生き生きとした草木に時折目を向けながら、まじまじと互いの動向を目で見ていた。
どこか落ち着かない様子で、ひょこひょこと歩く瑠凪。その様子を望桜は、
(やばいっ......!なんであんなに縮こまり気味なのかはわからねえが、とにかく可愛いっ!!)
と、密かに悶えながら眺めていた。そんな中、望桜はふと、瑠凪の頭上に乗っているふわふわな何かを発見した。
(え、なにあのぴこぴこしてる猫耳......触りてえ、触って可愛く鳴いて貰いたい!!それにあのしっぽも撫で回してみたいし、何なら口のなかだって撫で回したい!!猫って確か口の中が性感帯なんだよな......って、あ゛ーっ!!不埒すぎんだろ俺!!でも可愛い!!)
そして、発見した愛らしい耳と腰から生えているであろうしっぽで、早くもぐるぐるとほのぼのしたものから破廉恥なものまで、ずらーっと大量に妄想を繰り広げ始めた。
(......ん?)
......と、一通り妄想した後で、ふと重要な事に気づいた。
(......なんで俺達、こんな格好なんだ?)
自分も瑠凪も、なんともメルヘンチックな格好をしている。それに瑠凪の頭上に猫耳って、どう考えてもおかしくないか。
そこまで考えて望桜はふと立ち止まり、自分の頭上に手をやった。すると......
ふよ
「......ん?」
ふよふよ
「......ええ!?」
どういう事だろうか。頭上に長くてふわふわした耳、おそらくうさ耳であろうものが生えているではないか。
「望桜、どしたの?」
素っ頓狂な望桜の声に反応してふいっと後ろを向いた瑠凪に、望桜は慌てて適当なことを口走った。
「いやーあ、まさか同じ場所で気を失っていたとはな!運命だろ、これ......!」
「っ......んなわけないじゃん」
「さすが森、空気が綺麗だな!!」
「きのこの匂いしかしないけど......」
「空も青いな!!」
「薄紫色じゃない?あれ」
慌てふためいてもはや変な事しか言っていない望桜は、瑠凪から発言を
「っつーか、遠くからなんか聞こえてたよな?」
「あー、確かに。なんか変な音してたね」
望桜にそう言われてから瑠凪はすぐ近くを流れる川の、その向こうに視線をやった。......その方向から、どがががとか、ばきばきばきとか、なんか変な音がしていた。でも今は静かだ。
「......この......異空間?ってやつは、基本的に常識が通じない世界なんだよな?」
「どしたの急に......まあ、そうだよ。あとは空間の主が招き入れたやつしか入れないかな」
「ほーお」
森を抜けるべく、だべりながら2人で並んで歩く。 ざくざくざく、という枯葉と草を踏む音が妙に耳について仕方がなかった望桜は、 わざと大きめに相槌を打った。
「だから......僕ら、多分招き入れられたんだよ」
「招き入れられた?」
瑠凪の妙な言い回しに、望桜は思わず聞き返す。
「うん。理由とかは分からないけどね。ただ、強いて言うなら......」
「なら......?」
「......僕らを、どうしても
「......そうか。やっぱり俺にはわからんな〜」
手を頭の後ろで大袈裟に組んで、望桜は大きめにそう答えた。どこか不安を抱えているようなその反応に、瑠凪は軽くピクっと反応した。
「やっぱり?やっぱりって......何が?」
「や、俺さ、補正かかってたりうっすーく魔力保持できても、日本人っちゃ日本人なんだよ。魔界やウィズオート皇国とかと違ってめちゃくちゃ平和な世界で生まれ育った、そんな俺に、勇者軍の奴らが
「望桜......?」
いつも明るい望桜が、珍しく尻すぼみになりながら話した。それを受けて心配そうに顔を覗き込む瑠凪に、望桜は不安げに言葉を紡ぐ。
「......明るくやってたし皆を率いて戦争もできたけど、ずっと不安だったんだよ。人間が悪魔の中に混じっていいのかとかそういうことじゃねえけど、悪魔にやられて死ぬんじゃないかって、内心怯えてた。人間だってバレないように取り繕ってはみたものの、やっぱり匂いやらなんやらでバレるんだろうな。襲いかかってこられるとかもう、しょっちゅうだった」
「うん」
「でもずっと側近として仕えてくれてた的李とか、鐘音とか、あとファフニールは話が分かるやつだったからそういう奴らからは守ってくれたし、色々な面でサポートしてくれたから不安は薄れてくんだけどな」
「......そっか」
話しているうちに、いつの間にか近くにあった大きな岩の上に腰掛けていた。尻がひんやりする感覚と、横に推しが座っているという現象からくる胸の高鳴りで、しんみりとした湿っぽい話をしていたはずなのに、望桜にはどこかほのぼのとした空気が流れているように感じられた。
「......望桜?どしたの?どこか具合でも......「可愛いがすぎるっ!!」
再び心配そうに顔を覗き込んだ瑠凪に、望桜は勢いよく抱きついた。「わっ」という小さな悲鳴と共に瑠凪は望桜の腕にすっぽりと収まったまま、
「ちょっと、やめてよ!!」
と、あまり大きな抵抗はせず、口だけで反抗している。
「あ゛ーっ!!がわい゛い゛っ!!」
「離してよ......」
「いーやーだー!!」
「僕は抱き枕じゃないよ......」
半泣きで縮こまる瑠凪を愛おしそうに眺めながら、望桜は腕の中の瑠凪を優しく撫で続けた。
「っ............ね、ちょ、やめて......」
「んふふ〜、俺至福のひととき〜......でもな、魔王業は普通の人間には正直キツかったけど、これがあるからどちらかというと楽しかったぜ!!」
「あっそ......」
興味なさげに目を伏せる瑠凪の赤くなった耳を望桜はしっかり視認しており、瑠凪からは見えないように顔を背けて満足気に目を細めた。
「わしゃわしゃ〜!」
「ん、うぅ......」
「可愛いねぇ〜......んふふ」
「......む、う......ぅあ、あのさ......」
「ん?」
か細い、震える声でおそるおそる訊ねかけてきた瑠凪に、望桜はにやけつつ視線を向ける。
「......ま、望桜はさ、じ、女子に興味、とか、ない、わけ......?」
「ああ、それ色んな人に聞かれるんだよな〜。まあ、うん。ない。全くないよ」
「な、んで......?」
「俺さ、生まれつきそうだったっぽい。ゲイっつーのかな、女子の事、友達としては良いな〜とは思うけど、いざそういうお付き合いするってなったら多分心のどこかでずーっと"なんか違う"って思うんだろうな、俺。だから、女子は眼中にない。でも、嫌いでもない」
「そっか」
けっこう衝撃的なカミンングアウトではあったのだが、瑠凪の中には何故かストンと落ちた。
「え、なら......なんで"中性的な男の子"好きなの?」
「え、だって可愛いじゃん。ギャップとか色々。それにさ、同性だって点で色々と気兼ねなく話したりできるだろ?そこがいいんだ」
「ふーん......」
ちょっとしんみりとした話かと思って、少し身構えてた僕が馬鹿だったよ......
そう瑠凪は心の中で軽く自信に腹を立てつつ、望桜の話に耳と全神経を傾けた。何故か森がざわつき、気味の悪い風が吹くこの場所の空気に惑わされて話を聞き逃さないように。
「にっしっし、ほんと可愛いな〜お前」
「か、可愛いって言うなぁ......!」
「体は素直だな!!」
「は、はあ!?ちょっとそれどういう意味っ......」
「だーって、しっぽがぴーんって立ってるもん。それって嬉しい気持ちの現れって言うだろ?」
「なっ......」
望桜からの指摘に瑠凪が恐る恐る自身の背の方に視線をやると、
「なっ、なにこれなにこれ、ちょ、やだ!!」
望桜の言った通り、上にぴーんと立った藍色のしっぽが自身の腰からしっかりと生えていた。手で触ってみると温かいし、いつも店で見る猫達のしっぽのようにふわふわしている。
「な?言った通りだろ?」
「う、うぅ......」
「しっぽって便利だな!!」
「うるさい黙れバカ!!」
「あだっ!!」
望桜の満面の笑みに向かって繰り出された瑠凪のグーパンチは、望桜の鼻にクリティカルヒットした。
「ってーな!!何すんだお前!!」
赤くなった鼻をさすりつつ望桜が不満げに文句を言うと、
「望桜の自業自得!!余計なこと言うな!!ばーか!ばーーーっか!!」
「いたっ」
と、ぷっくり頬を膨らませて怒る瑠凪から、2発目のグーパンチを食らったのだった。
「ってえ〜......まあ可愛いからいいけど......」
「3発目もくらいたいわけ?」
「いやあ〜、瑠凪は凄い神々しいしなんかこうかっこいいし世界一ですはい!!」
「......」
不機嫌そうな声と共に瑠凪の手が軽く握られたのを受けて望桜は慌ててごまをすりまくったが、それが余計に瑠凪のイライラゲージを溜めていっていることにはまだ気づいていない。
「ったく............あ、スピーカーだ」
「ほんとだ。......なあ、森にスピーカーって......おかしくねえか?」
「確かに......でもま、さっき変な放送入ってたし、この世界自体色々おかしいから、今更スピーカーが森の中にあるとかその程度のことは驚くほどでもないかなー......『ビビビビビビビビビビビー!!』
「「っ!!」」
2人でぼちぼちとだべりながら進んでいる時だった。近くにあったスピーカーから、というよりこの空間全体にある全てのスピーカーから、けたたましいブザー音が鳴り響いた。
───────────────To Be Continued─────────────
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