22話4Part 異世界生物達の日常④
「......はむ、はむ......んく、兎逹さん、話逸れてから結局すぐに用事で出ちゃって、クリスマス限定メニューについては話して行かなかったじゃん。だから......む、話だけ聞いとこうと思って、誘ったんだけどさ」
目の前でファストフード店の皮のような質感の椅子に座って、手に持ったハンバーガーに視線を寄せて。数口はむっと食した後、瑠凪はそう一言、望桜に向かって言い放った。
「もうちょっとロマンチックな店に行くのかと思ってた〜......聖夜直前にくっついて、聖夜にはマジの性なる夜を......」
「ちょっと、深夜の
9割9部9厘、合コンやデートで言ったら間違いなく引かれるであろう言葉をしれっと口にする望桜に、しらーっとした視線で文句を訴えつつ、咀嚼音を小さく鳴らしながら激辛スパイシーホットチキンバーガーを頬張る。
シャキシャキして爽やかなレタスの食感も、香辛料香るスパイシーなソースの風味も、今の一言で全く脳が感じてくれなくなった。どうしてくれるんだ。瑠凪はそれを口に出さず、無言で目の前の変態に訴えかけた。
「別に、どこの店でも良かったんだけどさ。遅くまで開いてて、万が一で話が重くなっても周りの空気がどことなく明るいとこっていったら、ここくらいしかないじゃん」
「駅前のノスは?」
「うちからだと遠いし、望桜ん
「それもそうか。......で、何だったっけ」
瑠凪からの結構どうでもいい質問は流し、会話を続ける。
「さあ。今ので忘れた」
「おい」
おどけて小悪魔っぽくにやっと笑ってみせる瑠凪を、不覚にも可愛いと思ってしまった。いや、普通にめっちゃ可愛かったんだが。
......今は心底どうでもいい事かもしれないが、望桜は少し前から自身に、小3の頃から夢見ていた"中性男子ハーレム"的な現象が起き始めている(?)ことを自覚している。
瑠凪、的李、鐘音、葵雲、我厘、晴瑠陽etc......皆尊い。150年前に異世界召喚されてよかった。そうしみじみと思い返している望桜に、瑠凪は怪しい人を見るような視線を浴びせている。
「......まあ、限定メニューについては後で或斗に聞けばいいからいいんだけど......僕と或斗の天使時代についてだったっけ?」
「ああ。お前が話せる範囲のことでいいから、話だけでも聞いとこうと思ってな!」
「ホログラム見せる方が僕的には楽でいいんだよ?まあいいけどさ。てかなんで話聞きたがるわけ?」
「最近、天使が俺達......まあ、主に聖火崎とフレアリカなんだが、やたらと襲いかかってきたり殺そうとしてきたりしただろ?それに5唯聖武器が関係してるってのは分かるんだが、肝心の"天界"自体でそれがどんな立場っつーか何つーか......まあとにかく、そこら辺の話が聞きたいんだよ。あとできれば人間界と天界の癒着についても」
「まあ何となく分かったよ。とにかく、天界と地上界について僕が知ってることを話せばいいんでしょ?」
そう言って、瑠凪ははるか昔、人間がまだ勇者という"英雄"達の存在を生み出す前の話をし始めた。
......僕と或斗は、天界ではかなりの重役だった。僕は熾天使で、神の次に偉かった。或斗はその御付き人の、智天使っていう位に就いてた。
唐突だけどさ、お前は"7大天使"って聞いたことはある?まあ、今後は天使や人間の聖教教徒の勇者軍の奴らからの襲撃やらなんやらで聞かざるを得なくなる話だろうから、寝らずに聞いてよ。
先に、どの天使が7大天使なのかを言っとくよ。昔の7大天使は、僕、ある......アスタロト、ウリエル、アザゼル、ミカエル、イェグディエル、ラファエル。で、現7大天使が、ミカエル、ウリエル、イェグディエル、ラファエル、ガブリエル、セラフィエル、バラキエルってことになってる。
7大天使は主に、天軍......まあこの際だと天界で主に戦闘職についてる天使をまとめる職務に就いてる奴と、作戦立てたり戦闘以外の事を色々こなす職務の奴がいる。大まかに分ければだけどね。細かい役割的なやつは僕も知らない。ちなみに、僕はセラフィエルとバラキエルには会ったことないから、どんな奴かは知らない。
ユグドラシルの立場......は、天界の力を保つための依代、神気の容器みたいなものだ。ユグドラシルには神気が超濃縮された液体状の樹液が流れてて、"幹"→"枝"→"果実"の順で神気が多く入ってる。"果実"は1番少ない。覚えといてね、これ。
んで、人間界との癒着だよね?人間共が天使を崇拝し始めて、聖教を国教にして国中をあげて天界の神と天使を崇め奉るようになったのは、およそ8000年前のこと。
こないだのサリエルの話とも繋がってくるんだけど、丁度戦争が起きて終わって、下界の人間界大陸に文明が築かれて、たくさんの国ができて。それを1つの国が次々と負かして大陸中を統べて、大陸1つが1つの国......ウィズオート皇国になったすぐ後から。
恐らくあのタイミングで、ミカエルかイェグディエルあたりの奴を天界の神が寄越して何かしらしたんだと思う。詳しくは知らないよ、だってその頃既に僕は、天空摩天楼に半分幽閉されてた状態だったから。
御付き人......という名の監視係の天使が110数人くらい常について回ってくるし、周りに天使が居なくなる時には決まって天界の摩天楼最上部の天空牢獄に入れられた。何かやった覚えはないのにね、何でだろ。
......話が逸れた。とにかく、神のヤローが大天使を介して、ウィズオート皇国の人達に自分にとって都合が良くなるように何かを吹き込んだんだよ。
基本的には神って奴はこの世界で唯一の傍観者枠の生物だ。地上で人間や悪魔や天使が戦争やら何やらするのを
天使も時々地上に寄越しては、
それから、人間達は天使を崇拝しつつ、敵である悪魔に対抗するための武器を探し続けていた。そこで......僕とアスタロトが魔界に"堕天"という形でやってきた。僕はアスタロトより少し先に堕天したんだけど、その時にユグドラシルの"枝"を5本と、"果実"を結構たくさん、一緒に落としたんだ。
その時の"枝"は僕が飛び降りた方向と同じ方向に落としたはずなのに、何故か
そして、その"枝"を拾った人間共は、当然ユグドラシルの立場や力を知っているはずなのに、武器に加工して"5唯聖武器"として世に知らしめたんだ。きっと欲が勝ったんだよ。天使に護ってもらえるけれど、自分達自身も強大な力が欲しいという欲が。
そしてそれを知った天界の神は、天使達の最重要任務として""枝"を取り返す"を掲げた。"枝"は基本、誰かが折らないと折れることがないし、それなりに溜めてる神気も多いから、奪われたままでは天界の力が弱まった状態が続いてしまう。そしたら、神が世界の色々を"傍観"するための安地が揺らぐ。それを防ぐための任務だ。
んで、その時に一緒に落とした"果実"についてだけど、"果実"は熟れたら自然と落ちる。天界の陸の端にあるから、陸側に落ちたやつは天界に残るけど、陸がない方に落ちたやつの1部は下に落ちていく。だから初めは、"果実"の回収はしてなかった。でも最近してるってことが聖火崎から聞いた話で分かった。これもなんでかは分からない。
そこから、天使は崇拝しつつ"枝"は返さないという、何とも矛盾した人間界と天界の関係が出来上がったって訳。そして
んで......僕と或斗についての話?それは......その......
「えーっと......」
「どした?」
つらつらと説明を口にしていた瑠凪が、自身の出自を話す番になった途端口篭り始めたため、望桜は心配そうに訪ねかけた。
「やー、よーく考えてみたんだけど、言ったら或斗に怒られそうだなーって。スマホ取り上げられでもしたら嫌だし」
「なら、秘密にしとくから......」
「そこんとこお前信用できないから嫌」
「な゛っ......」
さらっと瑠凪から告げられた言葉に、今の言葉めちゃくちゃショックなんだが!!悲しい!!信用出来ないって悲しい!!と、心の中で慌てふためき悲しむ望桜。それが若干顔に出ていたようで、
「え、なに、別に全面的に口が軽いとかそういうこと言いたい訳じゃないよ?」
と、一言付け足した。
「お前、多分だけど或斗に"教えろ"って鬼の形相で迫られたら口滑らせるでしょ」
「まあな。でも、可愛いやつ限定だから」
「或斗は見た目良いもんね」
「お前も可愛いけどな......」
「なんか言った?」
「何も言ってないぞ!!」
瑠凪からまた向けられた懐疑の視線に満面の笑みで応えた後、
「そろそろ帰るか!!」
と、無駄にハイテンションに帰路に着こうとした望桜。だが、
「......あ、あとさ」
「ん?」
望桜に向かって発せられたであろう瑠凪の声が後ろから聞こえてきて、足を止めて振り返った。
「聖火崎達勇者の暗殺と天界の5唯聖武器回収作戦は無関係じゃないってこと、忘れるなよ」
周りに聞こえないように小声で、でも妙に力のこもった言い方に望桜は視線で応える。
「まあ、そりゃー勇者暗殺に関連してる奴らの大半が聖教教会の奴らなわけだし、何となく分かるけどな。でも今は......「表立った動きがないのは、裏を返せば僕らの知らないところで計画が進んでるってこと。甘く見ちゃダメだからな」
「......おうよ。んじゃ、また明日」
「ん。またね」
......勇者軍兵の大半と聖教教会による勇者の暗殺。それと、天界の5唯聖武器回収。
切っても切り離せないこの2つの"計画"。本来はあってはいけない事であるはずの"暗殺"と、例えればお金を借りた人と借金取りのいたちごっこのような、ごくありふれた事例と状況は酷似している"回収"。
......その2つの共通点といえば、"目的達成には勇者の命が犠牲になる事が必要不可欠"である事。
それに、次の勇者が立てられるとはいえ"勇者が内輪揉めで死んだ"としたら、今結成され始めているかもしれない"14代目魔王軍"や悪魔にとっては、敵から塩どころか敵のお頭の首が送られてくるのと同義。瑠凪や鐘音、或斗や葵雲等の悪魔にとっては本来ならばかなり嬉しい出来事であるはずだ。
......それなのに、どうして彼らは"勇者が殺される"という近いうちに起こるかもしれない出来事をあんなにも危惧し、止めようとしているのだろうか。
「......元々平和な世界の住民だった俺に、んなこと分かるわけねえか」
何か彼らにとって不都合があるのかもしれない。
それか、本当は聖火崎達の暗殺計画を影で喜ばしく思っていて、それを隠すために行動しているのかもしれない。
いや、それはねえな......とぱっと頭の中で思いついた後者の考え方の可能性を、すぐに揉み消す望桜。年末の寒気は風に乗せられて、望桜の体を服越しに撫でて冷やして、また誰かに寒い思いをさせに足早に去っていく。
深夜の、人もまばらなNcdonald'sから、立ち尽くして白い息を吐く望桜の元に薄く光が届いている。
「......世界って色々と、皮肉なもんだな」
皮肉だ。聖火崎は、世界を救うという大義は"ついで"で背負った。本当は、兄の背を追って騎士になった。
騎士として闘っているうちにいつしか勇者という大義身分を持つ1人の戦士、英雄として世界に名を
そして、それを世に公表して暴き世を平和に導くという志を持って日々を過ごすようになった。
......全く、皮肉でしかない。今まで聖火崎や翠川ら勇者の背におんぶだっこ状態だった奴らが、2人が人類を救うと今度は平和の上に胡座をかき、2人の名誉と業績を羨み、皆で2人の足を
......命を散らす覚悟で戦場に出て人々を救い、もう安心していいぞと鎧を脱いで振り返った瞬間に、英雄は短刀を胸に突きつけられた。
ウィズオート皇国西方の小さな村に行った際に、寂れた山小屋の中で望桜が見つけた日記に遺してあった、短い1文である。
その短い文は、今の人間界を風刺するような内容を的確に書き表したものだった。日付は5月1日、いつのものかは分からない。ただ、大昔のものであると一目で分かるほど古びていたのに、そこだけしっかりと綺麗な状態で保管されていた。
「本っ当に皮肉なもんだな」
ネオンとイルミネーションで飾られた神戸の街を眺めながら、再び一言呟いた。
......英雄は、この世に存在してはいけない。
遺された先程の短文の下に、書き残しを記すようにぽつんとあった。余程力強く書いたのか、1部紙が破けていた。
英雄は、世界を救うと共に次の厄災を遺す。望桜はその言葉の意味を、そう捉えている。
「......」
無言のまま、スマホのGoogleを開いて検索欄に"英雄とは"と入力して、
「......やっぱいいや。どうせ関係ねえだろ、仮にも敵だった相手の危機なんて」
その4文字を消しもしないまま、画面を落とした。
──────────────To Be Continued─────────────
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