15話3Part 対面オンパレード③
......神戸市、ヨシダパークハイムの331号室にて、緑丘望桜と西原的李、聖火崎千代、早乙女鐘音、御厨葵雲は宇宙樹·ユグドラシルの"果実"が寄生して生存する生命体となった幼女、フレアリカを取り囲んで口々に思ったことを言い合っていた。
「こりゃ一体どういう事だ......?」
「ふむ......望桜、とりあえずこれは後回しにして、先に例のMINEを片付けるのだよ」
「いやフレアリカの件のが先だろ......」
「......フレアリカって成長するんだ」
「......前に或斗に言われたことあるのよ、フレアリカが話す言葉が一語文が減ってはきはきと喋るようになってないかって......あの時は何おかしなこと言ってんのって思ったけど、今になってみるとあいつがフレアリカの細かい変化を読み取って、保護者である私に伝えてくれたってだけだったのよね......言い方はちょっとあれだったけど」
「僕も驚いたなー!!身長、鐘音とあんまり変わらないんじゃないかな?」
「それは僕がチビだって言いたいわけ?中身老人なショタ」
「ろ、老人ショタって......言っていいことと悪いことがあるでしょ......!」
「ニート、不良債権の塊、火力バカ」
「うっ......べ、別に好きで怠けてるわけじゃないもん!!」
「最後だけ悪口の傾向違くねえか?......てか多少なりダメージ受けてるってことは思う節があるってことか」
「違うもん!!」
「あなた達静かにしなさい......!フレアリカが起きちゃうじゃない......」
「「はーい......」」
しかしフレアリカはそれが全く気にならないようで、あどけない寝顔を晒しながら口から垂れている涎をそのままに眠っている。
......聖火崎が望桜と言い争いかえって仲良くなった(?)あの後、聖火崎は大急ぎで緑丘宅を後にしフレアリカが1人で待つホテルへと向かい、1人でいい子にして待っていたフレアリカに金魚の飴細工を買ってあげた。
そこから神戸ポートタワーに行き、どうしても瑠凪に会いたいと駄々をこねるフレアリカに根負けして南明石市の瑠凪達の住むマンションに行って、ホテルに帰りついたのが午後11時。もうすっかり夢の中のフレアリカと共に聖火崎は疲労困憊を少しでも軽くするためにベッドで睡眠を取った。
そして翌朝フレアリカを望桜宅に預けて、ホテルのチェックアウトを済ませて戻ってきたところだった。予約は昨日までしかとっていなかったにも関わらず、"まだ神戸に居たい"というフレアリカの願いを聞き入れてしまった聖火崎は、主に或斗に無理を言って瑠凪宅に泊めて貰うことにし、午前中は望桜宅に居候することに決めた矢先にこうなった。
ガチャ............バタン......
「にしても......」
「マジで何があったんだ、これ......?」
......フレアリカは今まで、身長は120cm位で、幼い4歳くらいの子だったはずだ。けれど......
「ん〜......むにゃぁ......パソコンって美味しいの......?むふ、ふふふ......」
「ひえっ」
「安心しなさい、パソコンは食べさせないから」
「そ、そーだよね!よかった〜......」
セピア色の髪の少女の寝言に葵雲は自身の腕でパソコンを保護してフレアリカから遠ざけた。パソコンって美味しいの?という内容に若干恐怖を感じている所に聖火崎はぴしゃりと言い放ち、分かりきっていたことだけれど葵雲はその言葉に安堵の表情を見せ、フレアリカに占領された定位置の真向かいに座った。
......158cm(人間の時)の鐘音とあまり身長差がなく、今まで掠りもしなかった望桜宅の食器棚の上から2番目の棚から楽々コップを取り出せるようになった。そして何より"IH式炊飯器は、強い火力で炊飯するため、機器内部を冷却するためのファンが作動します。作動音は、本体の故障ではありません。"という炊飯器の注意書きをすらすらと読み上げた。
身体的特徴と基礎学力の著しい向上に、望桜宅に住む4人(1人は仮)の悪魔達は閉口することしか出来なかった。そして後からやってきた聖火崎も同様に、頭の中で朝までの彼女の姿を思い起こしては目を白黒させていた。
「うーむ......的李、とりあえずなんか出前取っとけ」
「分かったのだよ」
「むふ......ふ、ふわぁ〜......」
「あ、起きた」
「え?」
望桜が的李に指示を出した直後にフレアリカが目をこすって伸びをし座り直した。その動作を見て葵雲は声を上げ、聖火崎は慌てて2個目の飴細工と水を差し出した。
「ふ、フレアリカ......おはよう?」
「あ、千代おかえり!!おはよう!」
「はい、これ......金魚とセットだった猫ちゃんよ」
そしてフレアリカは聖火崎から差し出された猫型の飴細工をまじまじと見つめ、
「ありがとう!いただきまーす!!」
「うーわぁ......」
「うわっ」
バキバキバキッと音を立てながら猫とお腹の上までを、非情にも歯で砕き食べた。
「わああーおお......」
「容赦ねえ......」
「......50点ですね」
「わっ!!!!」
「おわっ!!!......ちょ、驚かすなよ......!」
......そしてその様子を見ているだけなのに苦しそうに眉を顰める望桜と、フレアリカの容赦の無さに、店頭で見た猫と金魚のセットを思い出して心の中で黙祷を捧げる聖火崎。その後ろから薄紫頭の青年が声をかけた。その声に驚いた(元)魔王と勇者は飛び上がって驚いた。
「或斗、何が50点なんだ?」
「あ、いえ......お気になさらず」
「あー......」
或斗の口ごもった返事に望桜は何となく彼の考えている事を察し、ただ間抜けな声をひとつ上げて水出し緑茶をクイッと一気に飲んだ。
「どーせ飴細工を本物の人間に見立てた時の
「別に貴様から俺がどう思われていようと俺は困らん、だが主様を侮辱するようなら......」
「あーはいはいわかってるわよー」
「ところで、今日は1人できたの?」
「いや......そこで出会った帝亜羅さんと一緒だ」
「た、聖火崎さん......望桜さん......おひゃようごじゃいまふ......」
そう言って或斗の後ろを面々は一気に見やり、日本の女子高生でありなぜか少し強力な魔力耐性を有している
明るい茶毛のハーフアップツインテールと緑色のビー玉の付いた髪飾り、そして"私立聖ヶ丘學園高等部"の校章入りの制服に2年生の証である薄緑色のリボンを付けており、コーディネート的に全体的な色合いは明るい。......しかし彼女の顔色は少し"一般的に見て健康的な肌"の色と少しズレた、土色混じりの顔色だった。
少しやつれているようにも見える彼女の様子に、望桜は気遣わしく声をかけた。
「帝亜羅ちゃん?憔悴しきってっけど......どした?噛み噛みだったし......」
「あ、えと......ちょっとそこで......」
......帝亜羅がコンビニに寄って手土産用のプリンを購入し、足早に望桜宅に向かっていた時のこと。望桜宅も目前......という所で帝亜羅は右肩から後ろに勢いよく引かれ後ろをばっと振り返った。
そこには茶髪のロングヘアを横で1つにまとめた全身白色コーデの男と、蒼銀の肩上丈の髪を優美に揺らしながら帝亜羅の方をがっしり掴んでいる真っ黒のロングコートの人物が立っていた。え?え?と慌てふためく帝亜羅を蒼銀の髪の人物は冷たい視線で射抜いた。その瞬間、帝亜羅はプリンを持つ手に力が入らなくなって袋ごと落としてしまった。
......これは、逆らってはいけない、絶対に。そう本能的に感じたのだ。......帝亜羅は下界の事情を鐘音や聖火崎を筆頭とした"下界の生物"達に尋ねることで少しでも理解しようとしたのだ。その中で"魔力"と"神気"についてしっかり学んだことがあった。
魔力は起源が不明な力であり、悪魔や人間の中で"魔人"や"奇人"と呼ばれる者達が使う"正しき行いをこなす人間達"を堕落させる力だといわれている。逆に神気は天界の神"唯一神"が全ての力の元で、"人間の信仰心"や"神を現したもの"から発生している"正しき人間"と"天使"が扱う力とされている。
その2つの力が帝亜羅の頭の中にぱっと思い浮かんだ。蒼銀の髪の"謎の人物"は身体にかなりの量の神気を溜め込んでおり、それをどこか他人事のような表情で見つめる茶髪の男もまた多大な神気を有していた。
「っ......あ、の............なん、ですか......?」
「......見つけた」
「......え......?」
「......"ユグドラシルの果実"」
「......え......」
そう口にした蒼銀の髪の人物は帝亜羅の方を握る力を強めた。
───────────────To Be Continued─────────────
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