14話3Part 化物(?)襲来③
......そして場面は移りもう立冬も近い11月2日、朝晩の寒暖差の激しさに絶望する気持ちすら忘れさせてくれるような暖かな日差しが粛々と降り注ぐ神戸市中央区·東遊園地。平日は人もまばらで散歩等に最適な神戸市民の憩いの場だが、週末はなかなかに混む。
ファーマーズマーケットが毎週、そして冬シーズンになるとイベント事も多数開かれて、都会の喧騒を別の意味で忘れさせてくれる。
阪神淡路大震災の慰霊モニュメントが美麗な建物ながら平和の大切さとあの惨劇を忘れないことを、移り変わっていく時代と街並みの中で唯一変わらないまま説き続けている、そんな都市公園だ。
その場所の一角に用意されたプラスチック製の椅子に座り、2人から揚げを頬張る少年。全5種の唐揚げのうち美味しそうだなと思った3種類を5個づつテイクアウトして、そのうちの10個は葵雲が平らげた。
それと途中で立ち寄ったコンビニで買った1700円型のお菓子も一緒につまみながら、都会の雑音が微かに耳に届く1面の緑芝生の中で穏やかな午後を過ごしていた。
「ふぃ〜......あ、それとって」
「これ?」
瑠凪は大きく伸びをして、ちょうど机を挟んで真向かいにいる葵雲の直ぐ前のチョコを取るよう葵雲に言った。これ?と聞き返す葵雲の持つホワイトチョコを見て満足気に頷きそれを受け取る。
「そそ!......はむっ......んふふ〜......」
小気味よい"パキッ"とチョコを噛み折る音と共に美味しそうに目を細めて笑みを浮かべる瑠凪に、葵雲は口を開いてこう言った。
「ほんと、瑠凪ってば美味しそうに食べるよね」
「そお?」
「............望桜の前でも、そうやって素直ならいいのに。あと帝亜羅の前では別の意味で素直でいいと思う」
「どういう意味だよそれ!!......僕はいつだって素直だろ......」
「嘘つけww」
少しだけ決まりが悪そうに視線を逸らして頬をふくらませる瑠凪に葵雲は草を生やしながら思ったことを言った。 瑠凪がテーブルに置いたスマホの画面には、『白色の謎の閃光の目撃情報が多発!──兵庫県神戸市』というネットニュースの記事が表示されている。
「にしても、ほんと今日人少ないねえ......」
「平日だからじゃないの?」
「そゆことね......あー、休みっていいなぁ〜......」
「働いてたらたまの休みが活きるもんね〜」
「いや年中休みのお前が何言ってんの」
「人をニートみたいに言わないで!!.......それを言ったら沙流川でしょ」
「まあそうだけど......」
瑠凪と葵雲は今も家でゴロゴロして惰眠を貪っているであろう瑠凪と或斗の同居人·沙流川太鳳ことサルガタナスを思い浮かべて苦笑いした。或斗の部下でありながら仕事のほぼ全てを或斗に任せて、一応私立聖ヶ丘學園高等部のバレー部のマネージャーでありながら部活の公式試合にしか顔を出さない怠けっぷり。
よくもまあそこまで怠惰なのに學園を退学にならないかというと、成績が全国学力調査の全国順位で堂々3位だからだろうか、はたまた強豪·聖ヶ丘學園の敏腕マネージャーだからだろうか、どちらにせよ普通ではない。
......刹那、瑠凪は見慣れた少女の姿を見つけて、その少女の名前を叫んだ。
「帝亜羅ちゃん!!」
「......なさーん!!瑠凪さーーーん!!!!はあっ、はあっ、はあ......」
「ど、どしたの帝亜羅?」
「あ、あれ......!きゃっ!!」
「おわっ!!」
べキッ、バキャッ!!!ペキ、メキメキメキ......
突如2人の元に駆け込んできたのは、普通の女子高生であり唯一下界の事情等を知っている
そしてその帝亜羅の後ろを大きな黒い"謎の生き物"が追っかけてきている。全速力で帝亜羅が逃げ切れる程なのでそこまで足が速くはないが、何にせよ危険な生物であることに違いはない。
帝亜羅は葵雲に勢いよく体当たりしてしまって小さく悲鳴をあげた。葵雲は少し唖然としたまま帝亜羅と謎の生き物の間で視線を行ったり来たりさせている。
『グルルルルルルルルルル......』
「うわっ、キモ......」
それは電柱や街灯をなぎ倒し、ビルや地面に亀裂を走らせながらこちらに向かってきている。
そして3mほど向こうで止まると体長15mはありそうな巨体が町中に轟くほど大きく唸り声を上げた。黒い体は所々ねっとりしていて、地面との接地面は糸を引いている。"気持ち悪い"という言葉が1番しっくりくるそいつには大きな口が1つだけ付いていて、真っ白な歯と赤々とした歯茎が本当に気持ち悪い。
「何あれ、
......その見た目の特徴的にいえば、人間界西方に広がる広大な森·メロウフォレストとその付近にてよく目撃される食屍鬼そのものだ。しかし......
「な、なんですかそのおぞましい響きの名前は......」
「下界の、主に人間界に生息する魔獣の1種だ。でもあそこまで大きいのは見た事ない......」
「よ、弱いんですか?」
「本来は、ね......」
......本来は名前の通り
そして体長は1mあれば大きい方の食屍鬼の中で、目の前の15mはありそうな化け物はどう考えたって規格外だ。
「おっきー!!日本ってすごいね!!あんな大きな食屍鬼僕見たことない!!」
「と、とにかくあれがずっと追いかけてくるんです!助けてください!!」
「任せて!!」
それくらい大きな食屍鬼を目の前にわくわくしている葵雲をよそに、警戒態勢をとる瑠凪と帝亜羅。
「......よし、かかってこい!!」
『ヴァオオオオオオオオオオオ!!』
「五月蝿いな......おい葵雲!!さっさと片付けろよ!」
「わかった!!......雷光型攻撃陣展開 《ライトニングセイバー》!!」
そのままのテンションで葵雲は右手を上に掲げ魔法の詠唱を行った。それが終わると同時に葵雲の右手から紫色の激しい閃光と電撃が展開されていき、周囲の金属でできたありとあらゆるものが電撃の餌食となり形を変形させていく。
バチッ、バチバチバチッ............トンッ......ガガガガ!!!
『ヴァオオオオオオオオオオオ!!、ヴルルルアアアァア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!』
ドガッ!!バキ、メキメキメキッ,バキャッ!!
そこから電撃の中心部......紫色の核のようなものが葵雲が右手を一気に振り下ろすと同時に黒巨な食屍鬼の元へと移動した。それを皮切りに変形していた金属でできたものが食屍鬼の方へと豪速で飛んでいった。
そして無惨にもそれら全てが食屍鬼の体を貫き、食屍鬼の赤色の体液がグロテスクにごぷり......と溢れ、流れ落ちている。......気持ち悪さが倍増したその光景は、その部分だけを切り取ればまさに地獄絵図だ。他に人が少数しか居ないことに瑠凪は胸を撫で下ろしながら、食屍鬼の様子に再び気を引き締めた。
......周りの14、5本はありそうな金属片やらで勢いよく身を貫かれたのに、動きを止めるどころか先程より活発な気もする。逆上なのか、はたまた"やっと目が覚めた"状態なのかは定かではない。
そのさらに活発になった状態で葵雲と交戦していて、葵雲の手から放たれる豪速の弾幕を移動することで器用に避けながら(それでも体が大きいため大半は当たる)自身の黒い体の一部を飛ばしながら戦っている。......活発にはなったが、移動速度は先程までとそれほど変わらないようだ。
「見たか!これが僕が日本で編み出した金属操作d「はーいすごいねー」
「ちょっと瑠凪!少しぐらい自慢させてよ!!」
「後にしろ!!今はあいつ黙らせるのが先だって言ってるだろ!!」
「あの、私は何をすれば......」
「帝亜羅ちゃんはこの場から離れて急いで家に帰ってて、あれは葵雲が何とかするから。あいつの速度的にも追いつけはしないよ」
「わかりました」
葵雲が誇らしげに自慢しようとするのを瑠凪は遮って指示を出し、不安げに尋ねてくる帝亜羅にも指示を出した。
......全速力で帝亜羅が逃げられるほどの移動速度、なら今は葵雲と交戦中で10mほど遠くにいるし、幸か不幸か帝亜羅の家はその反対方向だ。葵雲に食屍鬼が集中しているのを確認して、帝亜羅は返事をして直ぐに走り出した。
「はあっ、はあっ、はあっ......あと少し、あと少し......」
ザッザッザッザッザッ......
「うわっ」
「え?」
バキ、バキバキバキ............
「............?」
そして走り出したあと、帝亜羅は着々と近づいてくる公園の出口に瑠凪達のことを考えて不安ではあるが嬉々としながらも足を動かし続けた。......ふいと、遠くで小さく聞こえる葵雲の悲鳴と瑠凪の素っ頓狂な声を耳にして後ろを振り返ると、食屍鬼の体が薄く拡がっていてその周りが薄黒く染まっている。
......距離はもう200mくらいあるし、追われ始めたとしてもすぐに追いつかれはしないよね......?
と考えて前に向き直り全速力で駆け続けた。
「............あれ?」
......刹那、自身がなにか大きいものの影に覆われている。そしてその影は段々と大きくなっていく......あれ、なんか落ちてきてない......?
そう思って上を向くと......
「へ?え、え、ちょ......」
ヒュウウウウウウウウ......
......そこにはまさしく先程まで帝亜羅の200m後方で葵雲と交戦していた食屍鬼の巨体が、どんどん迫ってきている。
その事にパニック状態になった帝亜羅は足をもつれさせ、
「え、えっ............きゃっ!」
ドサッ!......ュウウウウウウウウウウウ
盛大にずっこけてしまった。それに構わず上からどんどんと巨体が迫ってくる恐怖......あのおぞましくベチャッとした質量のある黒色の巨体と赤色の体液に塗れて押し潰されるのだと思うと、帝亜羅はこんな状況下だが吐き気がしてきて口を手で押えて、そのまま死を覚悟してぎゅっと目を瞑った。
......死にたくない、まだ、死にたくない......鐘音くん......!!
そう思いながら身を縮こまらせながら自身の想い人の名前を頭の中で叫んだ。
───────────────To Be Continued──────────────
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