6話4Part 堺アオンモールの乱④

「爆炎術式......はっ!まさか!!」


「やっと勘づいたんだね!高位爆炎術式 《エクスプロージョン》っ!!」



 ドォー......ン......ビュオオオオ......



 ......爆音の後、先の日にならないほどの暴風が吹き荒れた。アオンモールが、爆炎術式を受けて爛々と紅く輝いていた。酷く熱を帯びて、その紅からは煙がもくもくとたっている。



「その胸っ、撃ち抜く「ジャンヌ!!」


「っ、何よこんな時にっ!!」



 涙を振りまきながら振り返る聖火崎。そして聖火崎を呼んだ張本人のルイーズは、いまだ紅紅としているモールを指さした。......否、モールの上に、半透明の壁のようなものが出来ていた。紅紅としていたのはその壁であった。



「なっ......」


「あれは......結......界......?」



 そう、結界だ。モール全体を包み込む、超大型の、防護結界。


 そしてモールの上に霞がかってはいるが、数人の影が見えた。......望桜、的李、そして鐘音だ。



「望桜さん......」


「あいつらっ......うう、ううう......」


 バサバサッ


「あるきゅん!勇者達!!」


「おまっ......沙流川!!今までどこで何していた!!」


「さっき来てからもっかいあっちに帰って、結界を強化してまた帰ってきたんだよ〜!!またまおまおのこと迎えに行くけどね〜っ!10分くらいかかりそう!」



 防護結界がアスモデウスの爆炎術式を受け止め、モールには一切なにも影響なかったようだ。市役所屋上の皆は、全員心から安堵した。



  ......本当に、良かった。



「望桜っ......たまには、やるじゃないっ......」


「ああ......やはり、あれでも元魔王だな......」


「......にしても、悪魔に貸しを作るなんて勇者の恥ね......ふふっww」


「ま、確かにそうだな......でもまあ、一件落着だ、良しとしよう」




 敵ながらあっぱれと、清々しい笑みを浮かべる勇者に、



「......疲れた〜、働きすぎたよ......」


「主様、今晩は何が食べたいですか?」


「八咫烏の卵焼き」


「こっちでは売ってないです!......でも、今日くらいは高めのいい卵を使った晩餐に致しましょうか?......あ、丸ごと桃ケーキ作りますね」


「やった〜!!」



 いつもの調子で晩御飯のメニューを決める堕天使。



「......そんな......失敗......した......?」

 


 そして唯一ガックリと肩を落とすアスモデウス。



「......アスモデウス、まだあなたのことを許したわけじゃないわ、帝亜羅ちゃんの腕の分よ」


「ああ、しっかり狩りとってやる......覚悟し「失敗、しちゃった......」


「は......」



 全ての主犯である少年悪魔は......なんとうつむき加減で、しゃくりあげながら泣き始めたではないか。



「うっ、ひっぐ......うう、次は、絶対にっ、失敗しないって......しない、から、捨てないでって......言った、のに......ひっぐ」


「あなたね......人の腕を切っておきながら......」


「どういう、ことですか?」


「帝亜羅、ちゃん......」



 その場にいる皆がアスモデウスの事を非難の目で見る中、1人だけ、彼の話を親身に聞く者がいた。......帝亜羅だ。この爆発事件唯一の怪我人である帝亜羅だけが、心を柔軟にもって、話を聴いた。



「うっ、ひっぐ......うあ......ああ......」



 ただ、もう彼には話せる精神力が残ってないようだ。......刹那、彼の体に紋様が浮かびはじめた。時雨の色の、薔薇の紋様だ。



「うあ......あ、ああ......はは、あはは......あはははは!!!!」



 そして高らかと笑い始めた。紋様はあっという間に身体中に広がった。そして彼はなにかを唱え始めた。



「......我が色欲たる龍胆の鬼よ。聖の生気を堕落させ、世を我が意のまま躍らす力を我に与えたまえ。」


「うっ......」


「てぃ、帝亜羅ちゃん!?ちょっと大丈夫!?どうなってんのよ......なによ、あれ......!」



 見た目こそ紋様以外は特に変わってはいないものの、溢れ出る魔力のオーラが先程までとは桁違いだ。


 そのオーラに当てられてしまった帝亜羅は、口許を押さえて、意識を失ってしまった。......結界内ですら意識を失わなかった帝亜羅が、倒れた......?



「......あは、はははははははは!!!」


「あれは......」


「リストレイント·コントローラー......人を操る魔法の1つだよ。幻影師が得意とする魔法だよ」


「なっ......」



 リストレイント·コントローラー......その言葉の意味通り、人の心を束縛し、コントロールする魔法。


 そして、その"束縛"とは......



「術者が最初にやれって命令したことを、死ぬか精神崩壊するまでやり続けるんだよ、無理矢理にでも止めない限り。あの魔法で長時間操られ続けた人は、最終的に精神が崩壊して、ほんと生きてる人形みたいになる......」


「そのまま死ねばいいのよ」


「その結論に至るのは分かるが、まずは話を聞こう......ルシファー、どういうことだ?」


「さっき説明した通りだよ。まあ害がないことを命令されたんならまだ止めるのも楽だろうけど......」



 アスモデウスは、詠唱を唱えた後から俄然静かなままである。



「主様、詠唱を唱えたということは......」


「決まってるだろ、厄介な命令されたってのは確定だよ」



 詠唱。下界の民ならば誰でもあると言われる咒文で、唱えれば全てのステータスが一気に爆発的に上がるが、身体に一気にガタがくる。いわゆるリミッター解除だ。



「......これは......修羅場になりそうだね」


「ですね......」


「関係ないわ、さっきまでと同じように対処するだけよ」


「なにもできてないくせに何言ってんのさ〜」


「ぶっ〇すわよ」


「わー怖ぁーいww」


「なによ!!あなたなんて見た目と性能だけ良いくせに!!」


「はあー!?」


「ま、まあまあ......」



 様子が変でも、1度心から安堵した影響か、どうしても油断が抜けきらず、互いを貶し合う聖火崎と瑠凪。その最中、或斗がなにかを感じ取ったようだ。



「主様、様子が変です」


「......は......はは」


「邪弓を構えときますね、一応」



 バッ、



「うん、そうしt「はい油断したっ!!」


「!?」


「君に直接ヴァナルガンドを振り下ろすのは初めてかも......ねっ!!」


 ズバッ


「がっ!?」


「主様!?」


「ルシファー!!」



 視界からまたも急に消えたかと思った次の瞬間、少年悪魔は瑠凪の真上に居た。



 帝亜羅の腕を切り落とした時と同等か、それ以上の力で振り下ろされたヴァナルガンドは、瑠凪の右鎖骨を綺麗に真っ二つに折った。



 瑠凪は人間に身を落としているとはいえ、流石の硬さを発揮した。流石は元熾天使である。......でも重症なことに変わりはない。



「う、ぐ......」


 ズ、ズズズッ


「ぅあ、つっ......」



 ズブズブと刃先が突き進んでいき、内蔵に届くか否かという所まで深く刺さろうとした時、致命傷直前の間一髪で或斗が横槍を入れた。



 ヒュンッ、ヒュンヒュンッ、カカカッ!!


「......邪弓の矢、邪魔だよ......?」


「主様への不敬、たとえ7罪であっても赦さんっ!!」



 ヒュンッ、シュババババッ、カカカカカッ



「或斗、瑠凪の怪我の様態を見てなさい!!警護出来るかは分からないけど、やるだけやってみるわ、 《クライン·シールド》!!」


「私も手を貸そう、死なれると後々面倒だ」


「主様!!」


「あ......ると......?」


「喋らないでください!!高位回復魔法 《リザレクション》!!」


「つっ......けほ......」



 傷口から血がとめどなく溢れ出る。自身の手が汚れるのなど一切気にせず、高位回復魔法をかけ続ける或斗。


 傷はかなり深かったが、幸いにも臓器には届いていなかったようだ。だが、治療が遅れれば十分死に至ることができる深さ。......やられた。



「ルシファー!!大丈夫なの!?」


「後ろにいるよ〜」



 ドガッ



「なっ、きゃあああああ!!!!」


「ジャンヌ!!な、なんて速度だ......」


「おいポンコツ勇者」


「こんな時になんだアスタロト!!気でも狂ったか!?私はお前だけは悪魔の中でもまともな方だと......」


「聞け!!......アスモデウスは凶獣族の頭領だ」


「凶獣......族?」


「凶獣族......壱弦聖邪戦争にて南方を襲撃した種族。凶獣族の特徴は、ここの身体能力が全悪魔の中でずば抜けて高いことだ。特に頭領は......本気を出せば隔離結界すら力のみで破るらしい、ただの噂に過ぎんが」



 隔離結界は、世界の空間自体から結界を使い、特定の存在を隔離するための結界だ。隔離された者は、まるでそこから居なくなったかのように消えてしまう。魔法を使えば破ることも出来るが、それを力のみで破るとは......



  ......とんだ規格外の悪魔化け物、それと退治することになるとは。



「ただ、お前も見た通りの化け物だ、俺は援護しながら主様の傷を癒す。任せたぞ」


「なんでこんな時まで上から目線なのだ......でも、やることはもう決まっている......」



 そう言って聖槍を構え、振り返った。そこには聖火崎をヴァナルガンドの刃でじわり、じわりと斬っていき、時折弾幕も打ち込んで、少しずつ半殺し状態にしていく少年悪魔の姿が。まさに悪魔の所業だ。



 グサッ、ガッ、ザクッ



「あ"っ、ぐう......」


「あは、はははは!!この程度で瀕死状態に陥るとは......人間は、僕達にあんなことしておきながら......さっ!!」



 ザクッ



「いづっ」


「さて......トドメといくかっ!!」



 そう言って、少年悪魔はヴァナルガンドを振り下ろした。




 ───────────────To Be Continued──────────────




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