第139話 戦いの終わり。
「へへっ、よせやい照れる。それじゃあ次はぁ……。お待ちかねの良い事の方。お前が勝てないってのを実践しよぅぜ、なぁ?」
薄ら笑いを上げながら、ヴィン・マイコンが剣を持つ手に力を込める。
「そうですね。良い話……そう、ノーティスさんが勝てないので、あなたとのお別れをする事になります、ヴィン・マイコン。あなたのせいで私はとてもとても苦しむ羽目になった。そして……計画が大きく狂ってしまう。悲しい……話だ」
笑うノーティスが右手を……ヴィン・マイコンに向けた。
その手からはいつまで経っても何も生まれない。
そう、生まれるのではない、『元』に戻るのだ。
「っ!? ちぃっ……」
ヒュンっ! グサッッ!
「申し訳ないが、あなたでは勝てないみたいよノーティス。なので本当の私で戦おうではないですか。くくっ」
バキバキっ!
変わりゆく姿……。
すると苦痛に歪む顔でその物体は、大きな胸を揺らして笑って見せた。
「じゃあ今度はヴィン・マイコン……。私を見抜いて見せて? 私の本当の名前を言い当てて見せたら……そう。ご褒美をあげる。気持ちよくしてあげても良いですよぉ?」
その変わりゆく姿を見ながら、ヴィン・マイコンの脳裏に強烈に……記憶の断片が浮かんだっ!
そして呆けるようにソレを口にする。
「あぁお前……どっかで見たマナだと思ったが、あれだ……。ヴェサリオ教会の特殊部隊が焼き尽くした村、そこで見た……」
ヒュンっ!
「……つっ!?」
見たこと無い速さで、ヴィン・マイコンに襲い掛かる〝元″ノーティスっ!
「ココからは本気です。頑張ってみなさい、ヴィン・マイコン。神の愛無き世界を知る者よっ。我が兄の力に抱かれて死ねる事を誇りに思いなさいねっ!」
再誕したその物体が笑う。
そしてゆっくりと近づく黒い物体。
それが戦闘態勢を取る。
「そっ、そうか……。ゴディンが俺に去れとしつこかったのはこれか……。あぁ……くそっ。ゴディン、お前が綺麗な女だったら良かったぜ……。レキ……お前だけはこっから逃げろ。今すぐに……な」
ヴィン・マイコンの目には絶望。それだけが浮かんだ。
ヒュンッ!ヒュンっヒュンっ!
次々と飛んでくる氷の刃っ!
なんとか逃げ惑うが……。
ザスっ!
「ぐふっ!?」
その一つが横腹に突き刺さり、彼女はうめいて転がり苦しんだっ!
だがそれでも続く槍の乱舞っ!
「くくっ、愚かなメス犬よ。傭兵のままで死ぬなどとこれこそ本当の犬死によなぁ。女なんてそれこそ、惨めな生き物じゃ。理屈もなくかき乱し、その癖脆くてすぐ壊れよるっ。愛だのなんだの五月蠅い割りに、一貫性が無い。わしはお前みたいになりとうない。心底そう思う」
豪雨の中、惨めに血を流しながら槍と踊る女を見るマッデン。
半裸になりながら必死に戦うも、神の使徒に与えたのはかすり傷程度。
それが全力でそして、限界のその女傭兵に彼は目を伏せ……笑う。
「はぁ……はぁ、まだだっ。何終わった気になっている、マッデンっ! 僕は勇者になる男なんだよっ。お前のような……グッ、人を不幸にするだけの人間を倒す……なっ!」
レキはピンクの髪を振り乱しながら数十の氷槍と舞踏し、その狭い屋上で舞い続けるっ!
息は切れ、唇からは白い息が止まらない。
「勇者ぁ? 貴様……それはわしの事じゃ。神に選ばれたわし。神の加護が勇者などおらん。だがお前ではどう頑張っても、わしになるのは不可能じゃのぅ、低能。勇者は生まれた時から勇者なのじゃよ」
「ふふっ……お前が勇者だと? 笑わせ……るなっ! くぅ……っ。不幸しか生まないじゃないか、貴様はっ。それじゃあアイツを……。はぁ……はぁ。ヴィンを助けれないっ! 僕は……っ!」
グサッ!
「くぅっ!?」
崩れ落ちるレキっ!
槍が手のひらに刺さり、レキが刺さった勢いで吹き飛んでしまったっ!
「がふっ!?」
氷の槍に遊ばれ続け、疲れがピークでもう立つのも難しい。
だが……っ!
「だから……っっ。だから僕は全ての勇者に勝って、真の勇者になるんだよっ! ふぅ……ふぅ……」
止まない槍の中、それでも気丈に立って見せた彼女は1つ、指で天を穿ち叫ぶっ!
「勇者は1人だっ! 4柱全部の使徒を僕らでやっつけるのさっ。そうすれば僕が真なる神の使徒になれるっ! それがお前にできるかっ!? 4柱に配慮しかできないお前にっ! 政治しか興味がないお前にっ! 世界を壊せる真の勇者になる資格があるかマッデンっ!? 僕は……僕こそがっ! カッコ良い真の勇者さっ!」
汗と血を振りまきながら言葉を紡ぐ彼女。
その目は本気だ。
神の使徒全てをほふり、頂点に立つ。
それがレキの……彼女達の望みの一つ。
「……。頭でもおかしいのか、お主は」
その言葉に途方もない絶句。
全人類を冒涜する、神への言い表しがたき究極で至上で、空前でそして……とびきり〝イカレた″物を感じるマッデン。
手の施しようのない駄犬におぞましさを感じ、目を丸くした。
「ふふ……っ。動きが止まっているぞマッデンっ!」
ニヤリ……。
笑うレキ。ココで、起死回生の策を発動したっ!
「ジキムートーーっ! 、今だーーっ!」
「なっなぬっ!? 奴がまだおるのかっ!」
マッデンが驚き焦って体を氷と化し、辺りを見渡すっ!
だが建物はほぼ全て、マッデン自身が破壊済みだ。
見渡す限り、荒れ狂う津波の渦だけ。
「ウォオオッ。砕術2式っ、貫っ!」
直後レキが跳躍する姿が、マッデンの視界の中に飛び込んできたっ!
目の前にグングンと迫る彼女る。
その手にはナイフ1本っ!
恐らく住民が置いていたであろう、銅のナイフだ。
「ちぃっ!? まだ武器を持っておったかっ!?」
1本目をレキが障壁に打ち付け……蹴り飛ばすっ!
バキンっ!
障壁が壊れたっ!
「ぐぬぅっ!? だが障壁はまだっ! 2枚あるのだ忘れたかメスがぁっ!」
マッデンは少しひるみ、後ろに下がるっ!
だがすぐに反撃の氷の刃を用意し……っ!
「マッデーーンっ! 僕は僕を焔に変えれるんだよっ! アアアァッ!」
レキは吠え猛り腕で……。コブシで障壁を叩くっ!
バキィッ!
「なぬぅっ!?」
グシャッ!
飛び散る赤っ!
レキの血が吐き出され……。
「……っ!?」
虚しく終わった。
どうあがいても破れぬ力の差。
その分厚い大きな差はハッキリと、彼女を阻んだのだっ!
ヒュンっ!
ザスっ!
「ヒギッ!?」
肩に氷の刃が刺さるっ!
ザスザスっ!
続けて2本が腕と足にっ!
「これで貴様も水に還る事ができるなっ! このアバズ……」
ザスッ!
「ガッ!?」
ニヤッ。
「砕術……1式、爆……だっ! このぶ……たっ」
最後の最後、彼女は笑いながら叫んで……荒れ狂う波に飲まれていった。
ドンっ!
「グアアアッ!?」
絶叫っ!
マッデンの足の肉が凄まじい音を立てて粉砕するっ!
クナイがどうやってかマッデンの足に刺さり、破裂っ!
そして……。
ガシっ……ズリリズシャッ!
あっという間に地面から生えた腕が、マッデンを掴んで引きずり下ろすっ!
マッデンは屋上から室内に一気に引きずり落とされ、頭から落下っ!
「ウラアアァッ!」
「ひっ、ひぃいいっ!」
そこに居たのはジキムートっ!
気が動転するマッデンが叫び、氷の障壁を展開っ!
そこに……。
「甘いぜ……マッデーーーンっ!」
バシャリ……。
「なっこれはまさかっ、ブルー……っ!?」
バリバリ……っ!
「はぁ……はぁっ。終わりだこの、間抜けのデブ野郎っ。ペッ! 臭い息を吐くんじゃねえよ」
ぺっ!
「あが……あ……」
唾を顔面に吹き付けられたマッデンは、ヨダレを垂らして……笑う。
声も出ない程嬉しかったのだろう、きっと。
なぜなら……。
「おいデブ、この〝エイラリー(異形鱗翼)″が一体何でできてるか、脳足りん豚のお前でも分かるよな? コイツを使えばお前の口の中に一発ぶちかます事ができる、ワンボタンでな」
ジキムートがそのマッデンの口の中に、大きく大きく手を突っ込みながら笑った。
指は固いガントレット覆われている。
それで一気に歯を数本へし折り、舌の根を掴んでいたのだっ!
「ふぅ……ふうぅ」
ヨダレを垂らし放題にしながら、そのジキムートの言葉に真摯に耳を傾けるマッデン。
恐怖に怯え……っ!
ガシャンっ!
「ふっ!?」
マッデンがウロコが異様に動くのを見て、涙を流すっ!
グシャッ!
「あがっ……がぁっ!?」
ナイフが頬を貫通したっ!
マッデンの分厚い頬の左から、細いスティレットナイフの先端が出ている。
「そう言うこった。すぐに頭を胴体から引きはがしてやんよっ。まぁお前にはまだ、神について聞きたい事があるから生かすが……な。あんまふざけた事やると千本刺しにするぞ?」
「ふぅ……ふぅぅうっ!」
起動した時点でマッデンの命は終わる。
例え氷になろうとどうなろうと……だ。それを悟ったらしい。
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