第135話 あがく。

「ほらほらっ、どうしたどうしたっ。ホントどうしたんだい? あの業を……僕のこの砕術すらも止める神域。あれをもう一度創り出せば良いじゃないかっ! 君たちが隠れて這いずって暮らす、あの狭い巣穴で使ってみせた奴さっ!」



ヒュンっ!


ドォオッ!



「……っ!? そっ……そんなもん使わんでもっ! クッ!?」


イチイチ揺れる足場にひるむマッデンっ!


何度も氷壁が壊れ、必死に張り直している。



「ほらほら、虫でももっと激しい動きができるぞっ! ブタは実際もっと軽やかだっ。それにも劣る君は一体なんなんだい? そうか……マッデンという名のゴミ虫かっ! 女に飽きられやすい腰使いの神の使徒だっ! なるほどね……くくくっ。げこっ」


レキがあざ笑う。


「ふぅ……ふぅっ! 舐め腐りおってこの、泣き叫ぶだけが能の人形がーーっ!」


顔を赤くしながら、攻撃と防御を繰り返し続ける水の長っ!



「くくっ。どうやらその様子だと、神域と嵐の両立は無理みたいだね。さすがの君でも、それはできない、か。何せただの家政婦だからねぇ~」


そう言って止まり、ビシリっとマッデンを指さしたレキっ!


「この下賤っ、口を慎めよっ。我は神の使徒なりっ! 偉大なる神の使徒を家政婦呼ばわりとはーーっ! 万死だっ、万死に値すると知れーっ!」


レキに集中し、魔力を練るマッデンっ!



「そらっ! 砕術1式っ! 貫っ!」


マッデンの攻撃と同じタイミングで、レキがクナイを投げ込んだっ!


「無駄だっ! そぉらっ! ぺちゃんこになれぇいっ!」



スッ!



「……っ」


その時マッデンの真上にいきなりアサシンが現れたっ!


レキとの口論に紛れて近づいた彼女は……マッデンの真上から奇襲っ!


砕術で亀裂が入った障壁を破りそして……脳天めがけ、自分のナイフを差し込んだっ!



ガキィッ!



「ぐぬっ!?」


唇を噛んだローラっ!




「ふっ、効かぬわっ! わしの障壁はいつでも完ぺきに2枚重ねておる……。貴様のような卑怯者に恐れる事はないっ!」


「ローラ、僕が援護するっ! ハッ! 砕術1式2式っ!」


連続で投げられるクナイっ!


自分が持つクナイを惜しみなく投げ込むレキが弾幕を張って、氷の障壁を崩そうともがくっ!


そのいくつかは目標から外れ、どこかに飛んでいった。


だが……っ!



「無駄無駄ぁっ!」


「くっ……ダメだ。レキの攻撃より早く、マッデンの氷が分厚くなっていくっ!」


なんとかスキを伺おうとローラが攻撃を続行するが、スキが見当たらないっ!


レキの砕術の弾幕ですら、スキを作る事すら難しいのだ。



「そこの女……ちょうど良い。手近な貴様から血祭りにしてやろうっ」


そう言うとマッデンは、〝エイクリアス・ソリダリティー(水の宝珠)″を握る。


そして力を発動したっ!


溢れだすマナ。


ローラの黒の髪が、体がっ!


飛ばされそうな程はためくっ!



「くうっ!だが……今っ!」


数千の氷の波動を前に、その場から消えるアサシンっ!


「ふふっ」


笑うマッデン。


そして目の隅……〝エイクリアス・ソリダリティー(水の宝珠)″にアサシンが手を伸ばした瞬間だったっ!



「がっ……あぁ」


ローラが喉を押さえて倒れこむっ!


「この中は絶対冷気じゃよ。肺が凍るほどの……な」


蔓延する冷気。


その中はマイナス60度を超す、冷凍世界になっていた。


一瞬でローラの肺が機能不全にまで持っていかれるっ!



「ク……ォ……がっ!」


苦しそうにローラがのたうつっ!


彼女は視界が白む中、レキからあらかじめ借り受けていたクナイをマッデンの足元に投げつけたっ!



ドォンッ!



「ちぃっ!?」


必死に避けるマッデン。


すぐ下の足元には大きな穴が開き、足を焦がし転げてしまったっ!


その間にローラは自分を取り巻く氷の障壁の空いた部分を見つけ、四つん這いでなんとか逃げ出そうともがくっ!


しかし……っ!


「ふっふぅ……カハッ!?」


動きが遅い。


未だマッデンの射程内っ!


その中でローラが苦しそうによたよたと、這いつくばっている。



「急げっ、そこから逃げろローラァっ!」


援護しようと手近な物に魔力を込めるべく、地面を探すレキっ!


もうすでにレキは、手持ちのクナイが底を打っていたのだ。


「ふふっ、苦しかろう。開放してやるぞ、それよっ!?」


氷の柱を出し……マッデンがローラの心臓を狙うっ!



ザスっ!



「……っ!?」


「ローラぁああっ!」


刺された物の、なんとか腕でカバーするローラっ!


だが……大きな深手を負ったそのまま、荒ぶる津波の中へと落ちていったっ!




「……」


バシャっ!


水の奔流は激しい。


その姿は一瞬にして消え散ってしまうっ!



「しっかり聞けローラっ! 君には任務に出る前に水を渡してあったはずだっ! きちんとそれを使えっ! 私はお母さんだ、お母さんを信じろーっ!」


大声で叫ぶレキっ!



……。


だが……返事はなかった。



「くそっ……」


豪雨の中で残ったのは……武器を全て失ったレキと、足元に少々の火傷を負っただけのマッデン。


「ククッ、浅はかなっ。次はお前だレキ。だが……いくら負けず嫌いのお前でも、もうわしには勝てない事に気づいておるはず。なぁ、どうじゃあレキ。わしの専属娼婦になって、各国に回らんか? 貴族の舞踏に出て、優雅に暮らせっ! わしのそばはお前が思うよりはるかに……そう。傭兵などという薄汚い世界などすぐに忘れるくらい名誉じゃぞっ!」


「ごめんこうむるね、豚。お前何を勘違いをしているのか知らないが……。どんなに金があっても、お前のような汗ダルマの相手なんぞご免だっ! 言っとくが娼婦でもなんでも、世界の女はお前をパスするよっ。どうせヘタクソなんだろ? さっきも言ったはずさ。お前は女を上手くイカせられない勘違い男だとっ!」



ビキキッ!



「きっ、貴様……っ!」


一瞬マッデンの脳裏に、自分の妻が吐き捨てた言葉が浮かんだ。


「貴様から神を取れば、犬もションベンかける腐敗肉さっ。不細工なそのブタ面を肉屋ででも整形して来いよ。……ペッ!」


レキが罵り唾を吐いた。


男の〝ソレ″を馬鹿にする女の目。


そしてその言葉。それは本当に、真の意味で自殺行為だった。




「……下賤の娼婦がっ! 確実に殺してやるよーーーっ」


吼えたマッデンっ!


そして〝広域″に氷の槍を展開させる。


「……」


50を超える氷槍に取り囲まれ、レキが目線を右往左往させたっ!


もう……あとは無いのだ。


逃げたくとも、手近な家は全てマッデンにつぶされている。



「ふひひっ、終わりだメスがっ! もう容赦はせぬっ」


そしてマッデンがそのまま容赦なく、死の宣告を発射したっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る