第123話 才能。そして才能。
だが……。
「はぁっはははーっ! 消えろ消えろぉっ!」
マッデンが笑いながら全てを薙ぎ払うっ!
その一撃一撃は広範囲でその上、物量としても極大。
マッデンが腕を振るうたびに、騎士団から悲鳴が聞こえてくるっ!
「ぐあぁあっ!?」
あまりの物量に騎士団も傭兵達も歯が立たないっ!
マッデンが次々と仲間もろとも敵を吹き飛ばしていく。
そしてジキムートも……。
「規格外の魔力しやがって……畜生っ! 今の俺じゃ……クスリが」
次々と飛んでくる呪文に、逃げるのが精いっぱいだ。
クスリの効果も切れ始めていた。
「くそっ……ヴィン・マイコンはどうしたよっ。お前がさっさと片付けねえから、俺が大変な目にあってんだっ!遅ぇんだよ伝説の傭兵様よぉっ!」
そう他人に責任をなすりつけながら、自分の手に持った剣をやおら……ぶん投げるっ!
「うわわわっっ!?」
その質量に驚き住民が目をつむり、尻もちをついた……瞬間っ!
ザスッ!
「ガッ……あぁ……」
ジキムートが投げたナイフが喉をしとめたっ!
苦しそうにもがいて倒れる住民。
「くっ、コイツっ!」
別の住民がジキムートをしとめようと呪文を唱えようとしたっ!
だがまた、ジキムートは地面に落ちていた傭兵の亡骸が持つ剣を拾うべく……っ。
「させるかっ!」
「そうだなっ、知ってる!」
ヒユッ!
薄ら笑いが光るっ!
ジキムートは直角に進路を変え、ナイフを投てきした。
「ぐひっっ!?」
腕に命中するナイフっ!
魔法士が先読みしようと気を取られた瞬間に、ジキムートが攻撃に転じたのだ。
その策にまんまとひっかり、ナイフが刺さった住民に……。
「おらおら、どけよっ!」
スパっ。
「ぐあっ!?」
一気に距離を詰め、頭をはねたっ!
彼のペテンは戦場慣れしてない人間にはドンピシャの、テキメンに効いてくれる。
住民は心配の種にもならない。だが……。
「そこにおったか羽虫っ!」
荒ぶり猛るマッデンとジキムートの目が合った瞬間……っ!
ヒュンヒュンっ!ヒュッ!
「ぐぅうっ!?」
百に達しようかという氷刃、それがジキムートの目の前にっ!
次々に氷の殺気がジキムートを襲う。
「クソっ、目の敵にされてんなっ!」
先ほどの恐怖が忘れられないのだろう。
マッデンは常にジキムートの所在を確認している。
とてもじゃないが近づけそうに……。
「おいっ、そこのお前……。仲間の傭兵かっ!? 何をしたか知らないが、マッデンに狙われているなっ。時間を稼いでくれっ!」
「はぁ!? 馬鹿かテメェっ。デブとダルマさん転んだでもしろってのかっ!?」
いきなり話しかけられ、不機嫌に返すジキムート。
話しかけた主は先ほどの……ラーメン大盛りレンゲでどうぞ部隊の、隊長らしき人物。
「そこをなんとか頼むっ。魔法を使う時間だけで良いんだっ!」
騎士団になんとも情けない相談を持ち込まれ、ジキムートが一考し……。
そこいらを見渡すが、どう見てもこのままいけばじり貧だ。
「ひぃっ!? なんだよあの桁違いのデブはっ!? こんなの聞いてねえぞっ!?」
「ありゃダメだっ!? 近づいちゃいけねえって奴だ、やっべっ!?」
特に目立つのが傭兵達の士気低下。
明らかに肉の壁の役割を失いつつあった。
騎士団が来た途端に他人任せになった事と、ジキムートが仕留めそこなったのが要因か。
前線を後退させ始めている。
「こっちも手詰まりか、くそがっ。かぁ……っぺっ。早くしてくれよぉ、たくっ! うらぁマッデン。行くぞっ!」
しょうがなくジキムートがタンを吐き、願いを引き受け前に出るっ!
「神様のションベンありがたく飲めやっ! デブ公っ!」
ジキムートは……〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″を投げたっ!
そして一気に近づくっ!
「何っ!?」
その言葉にマッデンは焦りながら〝ソレ″の軌道を注視したっ!
ジキムートが真っ直ぐに、こちらに向かって投げるソレ。
マッデンはそれに向かってマナサーチをかけるっ!
「くっ、偽物かっ! やはり貴様はもう持ってはいないのだなっ!?」
ヒュンっ!
「おっとっとっ!」
怒りと喜び、双方をにじませ反撃に転じるマッデン。だが……。
(マナサーチか。原理は知らんが今の感じ……。やはり他人が何を持っているかまでは、開けてみるまでは分からんらしいっ! だったらなんでも〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)〟の代わりになるじゃねえかっ。)
そう、これは実験だ。
マッデンのマナサーチ能力の実験。
「ならこれは本物だっ! これかもしれないぞっ。これも……そうかっ!?」
「くっ」
次々に投げ込まれる多量の〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″もどきっ!
実際は全部マッデン自身が魔法で作り出した氷の刃の一部だ。
だがマッデンがそれにいちいち反応してしまうっ!
「さぁマッデン、頑張ってこれの中から本物を探せよっ! へへっへーっ」
バキリと握力で氷を折るっ!
そしてこれ見よがしに笑って、明らかに〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)〟が入ってない氷を見せつけ投げ始めるジキムートっ!
「このクソ傭兵がーーっ!」
挑発に力一杯に憤怒し、激昂の声を響かせるマッデンっ!
ナイフを投げるより、雪合戦したほうが効果的なようである。
ジキムートは必死にマッデンの周りを回りながら、氷カスを次々と投げて注意を引き続けた。
すると……。
「木々よ……万人の声となり、法を超越せよっ!」
マッデンを襲う複数の樹の刃っ!
その刃はあの、氷を食らう特殊な樹々だ。
ゴディンにもそうだったように、マッデンの分厚い氷の障壁も見事に食い破って行くっ!
「くっ!? これは……〝ディセクレト(神話、そして咎人)″かっ」
マッデンは叫ぶと氷のつぶてを浴びせ、飛んでくる無数の〝ディセクレト(神話、そして咎人)″を駆逐したっ!
「黙らしてやろうぞこの不届き者がっ! 神よ……お助けをっ、〝アーク・エンクレイヴライト(聖域現出)〟っ!」
マッデンは片手間に神へと祈りを捧げ、その恩寵により全てのマナを水に変化させてしまうっ!
「これが報告にあったという聖域……っ。ならばっ!」
騎士団は手の中の木のマナが消えたと見るや否や、すぐに水のマナを協力して集め出す。
かなり大きなマナの躍動っ!
精鋭の集める魔法は強力……だがっ!
「甘いわっ! わしの前ではどれ程マナを集めようと無駄無駄ぁーーっ!」
片手を握り、デブが咆哮っ!
その瞬間魔法士達が動揺し、顔を見合わせたっ!
「おいおいマジかっ!? こっちは10人超えてんだぜっ。しかも全員軍人魔法士だってのにっ。ヤバいぞっ、早く逃げろお前らっ!」
ディスペルに感づき、信じられないと言った顔でうろたえる魔法士達に叫ぶジキムートっ!
「ふはぁあっっ!」
マッデンの攻撃に飲み込まれ、魔法士達はあっという間に窮地に陥ってしまうっ!
「クッ!?」
その吹きすさぶ氷の嵐の中、なんとか前衛の騎士団が前に立って耐えるっ!
だが続々と脱落者が出始めていた。
(こんな簡単にディスペルされんのかっ!? 想像以上にまずいぞコレ。魔法はもう100パーセント使えねえっ!)
ジキムートに汗がにじむ。
そして喉の奥からふっ……と、決して言いたくなかった言葉が咳を切ったように漏れ溢れるジキムート。
「くそっ……やっぱ才能だクソっ。姉さんのみたいに……才能の前に俺は逃げ回るしかねえのかよ」
右の手のひらに穿たれた穴を押さえながら、ジキムートは唇を噛む。
体は満身創痍。
心は涙が出せない程にもう……枯れつくした。
どんなに武装しても、どんなクスリに手を出したとしても、彼には逃げ回る事しかできないのだ。
「神の前でひざまずいて……乞えっていうのかよ。クソっ、じゃあ乞うぜ神様よっ! ケツの穴もささげるからっ、だから……越えさせてくれっーーっ!」
絶望。どんなに頑張っても覆せない、才能という悪魔。
「生き残れるならなんでもしてきたってのに……。神様……助けてくださいっ! 不公平な神様、助けてくれよっ。ひざまずいたって良いっ! なんであんな奴をえこ贔屓すんだよっ! 俺に笑ってくれっ! 俺が……俺がアイツの代わり……に?」
ジキムートの頭の中にふと、考えが浮かぶ。
「マッデンは傲慢で、一人で物事を……。この町を動かしてる。それにイラつくのは俺だけじゃねえハズっ! 反抗勢力がいねえ? そんなはずがねえんだっ。そうか、じゃあ俺は〝神じゃない物″に懺悔してみるかっ!」
ジキムートはいくつかの記憶をたどり……ある事に気づき、声を張り上げたっ!
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