第118話 真なる役目。

「ヴィン・マイコン……貴様、よくも私を原初化してくれたな。わっ、私は、神に仕える為に……うぅ」


「原初化でその様子……なるほど、な」


苦しむゴディンを前になんとなく、言葉にできない物を理解するヴィン・マイコン。


創造主ダヌディナはこの水の民を作る時のタタキ台、OSとでも言うべきか。それを継承しながら形を変えているのだろう。


そして大型アップデートを繰り返して、生物として水の民を仕切りなおしている。



「じゃあ今もお前らは、あのお馬さんとほぼ同じなんだな? 馬子にも衣裳って話、そのまんまじゃねえかよっ。そんなの……へへっ」


原初化はそのアップデートプログラムが入った記憶領域のフォルダ、それが一気に壊れて別のプログラムのフォルダに紛れ込んだ、と。そう考えれば良い。


今ゴディンは、連絡用ツールフォルダに突如写真加工機能が紛れていたり。思い出フォルダには何故か節電ボタン。そんな悲惨で乱雑な状況だ。


「くっ……だが、神に願えばきっと原初化もすぐに直してもらえるっ。ソコをどけ、下民っ!」



……。



「んー……? いや待てよゴディンちゃん。待て待て」



ヴィン・マイコンはゴディンのあの異様な感覚。


水の民の真の姿と呼べた状態で放たれた言葉をしっかりと、脳みそで精査し始める。


そう、予感がするのだ。とても面白い話が聞ける予感。



「あれ? お前さっき、神は自分の事を好いてはいないと言っていたぞ? 俺の直感だが、原初化されちまったお前を見てもダヌディナ様はなんとも思わないんじゃね? へへっ」


ペロリと唇を舐めたヴィン・マイコン。


「そんな事は無いっ! かっ、神はっ。神は私。いやっ、ゴディンの事……をぉ……」


未だ足元がおぼつかないゴディンは必死に、まるで自分に言い聞かせるように言葉を続けている。


かなり不安定なようだった。



「それにお前、トゥールースには名前など意味がないって言った。それってゴディンだろうが、そこらの一般の水の使徒であろうが、名前の違いに意味はないって事になる。それを繋げれば……」


それはまるで、トゥルースという一族を一つのモノのような感覚で扱う神の意向。


彼らは金太郎飴であって個人では……。


そしてその上……。



「自分、トゥールースの一族全体の事は好きでも嫌いでも無いって事になんぜ? そうだよ……な」


笑うヴィン・マイコン。


今彼は頭を急激にフル回転させながら、ゴディンと言う獲物を観察している。


その様子に気づいた住民達が恐怖するっ!



「ゴディン様ーっ! これ以上はダメですっ! おさがり下さいっ!」


叫んだ水の民はヴィン・マイコンに向けて魔法を射出っ!


だがあっさりとヴィン・マイコンが避け、話を突き詰めようとゴディンにじり寄った。



「そうだ人間よ……。だが何故そんな些末な話をする。我はここを奪還せねばならぬと言っている。去れ。去るのだ……人よ」



びゅおっ!



「ぐおっ!?」


ドタっ!?


すさまじくキレたゴディンの攻撃に、思わず恐怖で尻もちをつくヴィン・マイコン。



「邪魔だてするようだな、人間。しょうがあるまい……ヴィン・マイコン。処分する」


ヒュンヒュンヒュンっ!


「くっ!? くそっ!? コイツ」


立て続けに降ってくる氷から逃げ回るヴィン・マイコン。


原初体にするとどうやら、戦闘力が段違いに上がるようだと気づいたが、それでも……。



「……」


逃げ惑いながらも指を騎士たちに向けてモニョモニョさせ……そして、グッと親指を立てたヴィン・マイコン。


「よっ、よし全員っ! ヴィン・マイコンを援護だっ! 水の民を黙らせろっ! 近づかせるなーーっ!」


騎士団達がその好機と覚悟を察知し、住民達を叩き伏せにかかるっ!



「おいゴミンっ! 神様はお前達の心っつうか、精神は作らなかったのかっ!? だからお前に興味ねえんだなっ!? ボーフラみたいに湧いたお前達の心にっ!」


ダヌディナにしてみれば全体であり、結果として個人に分かれた水の民。


その一つの末端であるゴディンの事を、好いても嫌いでも無いという事は、だ。


水の民の個体自体には、あまり興味がない。そういう事だと解釈可能だ。



「肯定しよう」


「おいっ……待てよ待て待て。肯定だとっ!? そうなると……だ」


するとヴィン・マイコンは……自分が話している自分自身の言葉で、とある重大な事に気づいた。


「神が自分に興味が無いのを知っててなんでお前、神に原初化を治してもらおうとしたんだよゴディンっ!?」



……。



「それは私の……。私の願いでは……。だが一理、神は今の私を望んでは……」


原初体の苛烈な攻撃が止み始める。


「おっ、おいゴディン……いや、トゥルースっ! よしんば治してくれるって神様が言ったならなんで、お前は〝カムイ(神威)〟があったっ! って言わないっ」


原初体は一度として、〝カムイ(神威)〟を語らなかった。


その事を思い出すヴィン・マイコンっ!


「そのような事で……うぅ。我らは神のご意向を聞くように私達は作られてはいない」



ヒュンっ!



「ぐおっっ!?」


鋭く激しい攻撃が飛んでくるっ!


「ぐぁっ、ちっくしょっ!? いってんだよっ!?」


いくつかの氷がヴィン・マイコンを貫き、小さいながらも傷が視認できるようになっていく。


だが傷ついた腕にツバをつけながら、それでもヴィン・マイコンがヤイバの雨を降らす原初体に向き直った。



「なんだよ……それ? はぁ……はぁ。それともお前らは、自分都合で〝カムイ(神威)〟は聞けないとでも? じゃあどうやったら神託は下るんだよっ!」


そのヴィン・マイコンの言葉に騎士団達も耳をそばだてている。


この話は普段、ベールに包まれた部分であった。


こういった神託については一切、水の民ならず他の聖域の守護者は言及してこなかったのだ。



「お前が言う、神託……とは?」


「俺らの願いや神への質問やらへの答えだよっ!」


「不答。その言葉への返答は禁止されている……。そ、それは……水の民の戒律に……。は……反するんだよ、下民っ!」


攻撃モーションに入るゴディンっ! だがっ!



「チッ、るっせぇトゥールースっ! トゥールース、トゥールース~っ! や~いお前の母ちゃんトゥールースっ!」


あえて剣を投げ捨て、ゴディンの周りを踊り狂うヴィン・マイコンっ!


どうやらヴィン・マイコンは自身の殺意を否定する為丸腰になり、それでも続けるようだった。


「トゥールー……ス? そうだ……私はトゥールース。脅威を排除し、奪還を開始する」


丸腰のヴィン・マイコンを見やると即時、神殿の方へと……。



「おっっとっとっ!? まだ行かせねえぞっ!」


「邪魔だヴィン・マイコン」


びゅおっ!


丸腰で対峙するヴィン・マイコンに眉根を寄せながらも、すぐさま攻撃を始める原初体。


「よしよし……っ! しっかり用があるぜトゥールースっ!」


「今でなければならぬモノか? 剣も持たずに邪魔だてとは……。なぜ去らぬ。おかしな……ヴィン・マイコンよ」


冷静に殺しにかかりながら、訝しそうに見てくる原初体。


人間の姿でこれをやると、本当にただの殺人人形のようにしか見えない今のゴディン。



「そうだっ! 追い込まれたゴデ……お前じゃなきゃなぁっ! じゃあ質問だっ! もし人間が100万人で質問したとするっ! そうなればダヌディナは全部返答するのかっ!?」


「ゴディン様ーーっ! お答えになるのはおやめくださいっ、ゴディンさまーーっ!?」


「ぬっ!? 全力で攻めろお前たちっ! 今が全てを賭ける時だっ」


号令一下、住民をきつく抑え込む騎士団っ!



「不答。仮定に基づく質問は、意味をなさない」


どうやら水の神に、神託の精密な内容やいきさつを答える事は禁止されているらしい。


だが……。

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