第116話守りし騎士
「はぁはぁ……っ。何っ!? どういうことだっ!? 兵は門に居る……だとっ!?」
神殿にもう少しと迫るギリンガムが声を上げたっ!
視線の向こうには部下達がしっかりと、門の前で立っているのが見て取れるのだ。
闇の中でキラキラと、月の光で騎士団の鎧が反射している。
ギリンガムが眉根を寄せそして、大声で叫んで立っている騎士団に問うっ!
「どういうことだーっ!? 何があったか報告せよっ」
「たっ、隊長っ!? 分かりませんっ! 中から突然音がして交戦の気配がっ。しかし、我々はココで守りについてますので、変わりに所定の連絡係を寄こしたものの……確認に至っていないのですっ。申し訳ありませんっ!」
「はぁ……はぁ。そうか、分かった。そうだそれで良い。ココを離れるなお前たちっ! 外を見張るんだっ、私達が中に入るっ!」
「ハッ!」
「こんぐらい傭兵もしつけが行き届いてりゃーなぁ」
うらやましそうに、敬礼する兵を見るヴィン・マイコン。
……その時だったっ!
「隊長っ!」
ガギンっ!
騎士団を襲う氷のヤイバっ!
聖殿への入り口付近にいた人間達に、一気呵成に魔法攻撃が始まっていたっ!
「クッ……。奴らめ我らをこの場で押しとどめるつもりかっ。ココは私が残るぞヴィン・マイコンっ! お前は先に行けーっ!」
部下に盾で守られながら、ギリンガムがとっさに指示し剣を抜くっ!
「いやっ……待て待て、ココは俺が持つっ! ギリンガムあれだっ、あれ見ろよっ!」
指をさすヴィン・マイコンっ!
その示された場所にギリンガムが目線を移し、そして一瞬で状況を察し……。
「頼んだっ!」
神殿内へと走り出すっ!
それを見送りヴィン・マイコンがゆっくりとそして、真っ直ぐにその男に向かって歩き出す。
「お前……生きてたのか、やっぱ」
目の前にいるゴディンに目をやるヴィン・マイコン。
他の騎士団員たちは今、突如現れた水の民達と交戦に入っている。
数と質としては互角と言ったところか。
恐らくそれを見越し、ヴィン・マイコンがギリンガムを行かせたのだろう。
ゴディン相手に互角でやれるのは、自分しかいないという判断だ。
「ヴィン……ヴィン・マイコン」
「俺の名前を2回続けんな、ボケっ。まぁ俺はいつもビンビンだけど……よっ!」
薄笑いを上げたと思ったらすぐさま斬りかかるヴィン・マイコンっ!
ヒュンっ!
「……」
ガギンっ!
音が木霊し、障壁で弾かれるヴィン・マイコンの一閃。
……違和感を覚える。
(コイツなんだ……? 薬でも嗅いだか? 目がうつろで殺気に鈍い。)
彼はゴディンの様子に寒気を催し、ゆっくりと剣を携えゴディンの周りを回った。
「それにしてもお前が外の陽動に出るなんて珍しいなぁ? 怖がりでションベンちびりのゴディンおぼっちゃんっ!」
ヴィン・マイコンが剣を握り、突進したその瞬間だった……。
ぶつぶつと何かをしゃべるゴディンから、的確な反撃が返ってくるっ!
「神よ……孤独から我らを救い、道を示せ。4つマナの光を掲げて……」
「何っ!?」
チッ。
頬に氷の冷たい感覚が伝わり……ヴィン・マイコンの血が、風に舞ったっ!
「水の神にお仕えし、この場を維持せねばならない我ら。もしどのような脅威であっても、逃げる事はない。去らねば殺す、人間」
的確でかつ鋭利。
重くドスの効いた攻撃を繰り返し始めたゴディンっ!
20やそこらではない、40に到達しているその氷の刃。
それを次々と威嚇するように湧き出させ、ゴディンが無表情に言い放ったっ!
「くっ……なんだコイツっ!?」
その様子に汗を流し、ヴィン・マイコンが避け続けながら手を探っていくっ!
「なんだよゴディンちゃん。いきなりやる気出しちゃってまぁっ。仲間を外に置いて、自分だけが良い思いするのがお前の神様への〝リービア(尊神)″だろうがっ。忘れちまったのか? たくっ、クソみたいな人間だよなあっ! 神様もお前みたいなの産んで後悔してんじゃねえのっ!?」
気を少しも緩める暇もない程の、多量の氷をなんとか避けるヴィン・マイコンっ!
しかしそれでもゴディンを挑発していくっ!
だが……。
「神はそんな事はおっしゃっておられない」
「じゃあなんて言ってるっ!」
「……何も。お答えは無い。私を好きとも嫌いだとも……なんとも。それが神のお答え」
「ちぃっ……」
危ない所で氷のつぶてを避けて、ヴィン・マイコンが後ろに下がらされたっ!
圧倒的に後ろに下がる回数が、ヴィン・マイコンのほうが多い。
先ほどからほとんどゴディンの至近距離に近づけないでいる傭兵長。
「おいっ、押されていないかっ!? あのヴィン・マイコンが……」
「あぁ、確かゴディンに勝ったと吹聴していたが……あれは嘘だったのかっ!?」
その姿に騎士団も動揺し始めた。
いかに傭兵と言えど……実力だけは本物。
そう思ってきたし、その実力に裏打ちされた態度も〝摂理″として受け入れてきたのだ。
それが今、明らかに押され敗北をちらつかせている。
動揺しないはずがなかった。
(なんだコイツ。全然人格が変わってやがるっ。なんでだっ!? 何も変わっちゃいねえのにっ)
だが……動揺しているのは誰でもない。ヴィン・マイコン本人が一番だ。
彼が持つ見通す目には、ゴディンに何も違いがないのだ……。
「ここから消えよ。それだけで良い」
ゴディンから降り注ぐ氷刃の雨っ!
その中で小さなかすり傷をたくさん受けながら、ヴィン・マイコンがゴディンから逃げ回る。
「くっ!? お前本当にゴディンだよ……な? まさか双子とかねえわなぁ~。あんなクソが2つも産み落とされちまってたら臭くてたまんねえっ! お前の母ちゃんの股が腐っちまうよっ!」
「私はトゥールース。その一員であり、名前など意味はない」
「嘘つけゴミンっ! じゃあお前は今日からゴミンだっ! クソを垂れ流して生きるだけのゴミって事で良いってのかよっ!?」
「もう一度言う。意味は……。いっ、いっ、いみ……」
止まった。
ジキムートならここで、ムードブレイカーに走るだろうが……ヴィン・マイコンは様子を見ている。
「名前な……どっなぇ。な、なまえは、ゴディン」
「あぁ? ゴミン? ゴミから生まれた……?」
「ゴディン……だ、ゴディンゴディンゴディンっ!」
「ゴミンゴミンゴミン」
叫び出したゴディンに……股を開いて面白そうに笑い、ヤンキー座りのヴィン・マイコンが唱和していく。
「ゴディンだクソ下民がーっ!」
「うらぁっ!」
ヤケクソでそして、〝人間らしい″ゴディンの攻撃っ!
その瞬間待ってましたと言わんばかりにゴディンに、ヴィン・マイコンが斬りかかったっ!
「クッ!?」
ゴディンが後ろに下がるっ!
その頬には剣による傷が。
「お帰りゴディンちゃん。お前の帰りを心から待ってたぜぇ。いや、これマジで……よ」
ニヤリと笑うヴィン・マイコンが、剣をおもちゃにしながらゴディンを眺める。
そこには安どの感覚もうかがえた。
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