第69話 水の神に仕える者の実力。

投げ込まれた物は――〝瓶″っ!


「っ!?」


一瞬にして、ジキムートの脳裏に浮かぶ光景っ!


声を出す暇もない。


そこから一目散に逃げるジキムートっ!



バリンっ!


バキバキバキっ!



ビンが割れると同時、氷の猛り狂う音が聞こえ、すぐ近くまで殺意が迫ってきたっ!


それをなんとかジキムートが、店の軒先に這いあがって難を逃れるっ!


「くっ、いきなりですねっ! あの馬車の時と同じっ! こっちかっ」


ノーティスが犯人を追い、小さな路地に入っていくっ!


その姿にジキムートが、少し躊躇し――。



(これは、罠だっ! だが……。)


これは罠だと分かった。


だが、他方で脳裏によぎるのは、そもそもとして、ここに来た理由。


(ここの住民のトップがいるはず。そいつならきっと、神の素性を知ってる。なんせ聖地をしきってんだからよっ。そいつはテロリストの元締めだろうさっ! だったら、虎穴に入らずんば虎子を得ずって事かっ!)


ジキムートはヴィエッタ直属と言っても、ヴィン・マイコン達のような〝中枢″の役割は持たない。


自力でたどり着かなければならない、神への道っ!


「ハイリスク、ハイリターンってのは……、常識だよなっ!」


テロリストの巣窟であるこの、聖地。


テロという危険の先にはきっと、手掛かりがあるはずなのだ。


すぐに彼もノーティスを追いかけて、小さな路地を行くっ!



バリンっ! パリパリンっ!



「ぐっ!?」


たくさんの小瓶が投げ込まれてくるっ!


それをかわしながら、少年の影を追う2人っ!


「くっ。あの人たち……っ!? なんて早いっ!」


ネィンが焦りの声を上げたっ!


思った以上に速いのだ。


普通の傭兵でも騎士団でも、追いつかれると思った事は今まで、一度としてないのにっ!


「もうすぐっ、もうすぐです!」


ノーティス達はその、追いつきそうな背中へとドンドンと迫っていくっ!


少年は右に曲がり、左に曲がりそして右に……っ。


「神のお導きをっ!」


どこからか、祈りの声が聞こえた。


その瞬間っ!



バリバリバリっ!



地面がいきなり、鳴き声を上げたっ!


薄く張られた透明な氷が、一気に地面を走り、そしてっ!


「ぐっ!? そんなっ!?」


ノーティスが、それに足を取られてしまったっ!


驚く彼女は、目線を少年へと――。


「えっ、こんなに早くっ!? しまったっ! 靴が……、抜けないっ!」


ネィンも驚きの声を上げていたっ!


地面に縛り付けられる、ノーティスとネィンっ!


そしてそれは、一段後方にいたジキムートにも迫り……っ!



「やべっ。逃げ場がっ!?」


狭い路地は壁に囲まれ、逃げる場所がないっ!


しかし……っ!


「だったら壁にっ!」


すぐさまジキムートは、壁を蹴るっ!


彼は信じられない程身軽に、壁の上へと逃げ始めたっ!


誰もが予想外の動き。


だが――。


「壁にも来やがっただとっ!?」


逃れられないその魔法。


広範囲に、隅々まで氷が及んでいくっ!



(この感じ、嫌な予感がすっぞっ!)


手に汗握り、ジキムートが走りのギアを上げたっ!


必死に頂上を目指そうとする傭兵。


すると、ジキムートの目の前に突然――。


「……っ!?」


突如の影。


3人の上空。


そこに岩とでもいうべきだろうか?


よく、ダンジョンのトラップで転がってくる位の大きさ。


路地を埋め尽くさんとする岩氷が、いきなり出現していたっ!



「がっ!?」


意味不明に叫ぶしかないその、大魔法っ!


逃げ場がない。


そして岩氷は……っ!




ガラガラガラっ!




「うああっ!?」


重力に引かれ落下っ!


全てを巻き込み、大容量の氷がハジけたっ!


氷風が、辺りを白一色に変えるっ!


ドシャアアアアっ!


……。



「よっしっ!」


少し待ち、取り巻き2人が嬉しそうに笑い、隠れていた場所から出てくる。


モヤがかかるその一帯。


彼ら取り巻きAとBは悠々と、ジキムート達が居たところへと歩き出す。


「おい、終わったかい? 巻き込んで、殺してないよね? まさか」


「えぇ……っと。今確認してま」



ザスザスっ! ザスンッ!



「……ぅぉっ!?」


「……どうしたっ! 早く返事を」


いまだ隠れているゴディンは、周りを見渡す。


まだモヤで見えない。



そして……目の前からナイフがっ!


ヒュンっ!


「うぁあっ!? まっ、前かっ!?」


ドタンっ!


驚いて尻もちをつくゴディンっ!


すでに魔法の障壁は展開していたが、焦ってもう一度貼り直してしまうっ!


ジタバタとしながら、目の前を探す彼の……。


「……っ」


ゴディンのその後ろに突如、気配が現れたっ!


そして……っ!



バキッ!



「ぐっ!?」


ジキムートが後ろへ下がったっ!


目の前には、氷の半透明な盾っ!


「ちぃっ、なんだコレっ! いつの間に後ろまで……っ」


舌打ちをするジキムート。


どうやらこのゴディン、広範囲への魔法障壁をいつの間にか、張っていたらしい。


「つぅ……。なんだこの、汚い男は。傭兵か?」


訝しそうにジキムートを見やるゴディン。


(クソ……。この坊ちゃんがきちんと、俺のペテンを見破ったようには見えないが。なんで後ろまで盾が張られてやがるっ!? 魔力が高いって事か。それならナイフじゃ駄目だ。)


ジキムートの手には今、ナイフしかない。


細いスティレットナイフでは、氷の盾を破れないと踏んだ傭兵が少しゴディンから離れる。



「という事は、3人目がいたのか。奴らめ、きちんと人数は確認しろと言っておいたのにっ。くそっ。なんて不快な格好の、薄汚い奴だ」


後ろに湧いて出て来た傭兵。


それを不快そうに眺めながら立ち上がって、一瞥してくるゴディン。


「3人目? 何を言ってやがるコイツ。だがくそっ、剣を……取れればっ!」


真上を一瞥するジキムート。


ジキムートは剣を失ってしまっていた。


這い寄る氷が壁まで追って来た時に、壁に剣を刺し、それをバネにして飛んだのだ。


そして降り注ぐ氷塊を蹴り超え、軌道を変えて、事なきを得ていた。



「平伏せよ、サル。道を開けよ」


ゴディンの言葉と同時、傭兵の目の前に現れる、無数の氷。


その数なんと、20近くっ!


「なっ、冗談っ!?」


ゴディンから距離を取り、後ろに飛ぶジキムート。


逃げながらもジキムートが、ナイフを手のひらに射出し、投げつけるっ!


パキンっ!


ジキムートの投げたナイフで、大容量の氷の刃に風穴が開いたっ!


その風穴を縫うように、大量の氷をジキムートがかわしていくっ!


「へぇ……」


感心すると、ジキムートに歩いて行くゴディンっ!


それにビクリと、面食らうジキムートっ!



「ちぃっ!? コイツ魔法じゃなく、接近戦するタイプかよっ!?」


思わず叫ぶジキムートっ!


傭兵はゴディンの直進に怯え、ナイフを持って、舌打ちをしたっ!


(やべえぞっ!? 魔法も接近戦も得意だとかっ! この聖地の守護騎士か何かかっ!? まずったっ! ひょろそうなナリ見て騙されちまったかっ!?)


ペテン師がペテンにかかり、ジワリと汗に濡らされてしまうっ!


そして……っ!



「邪魔ね……」


ドン……。


弾かれ、道の端に飛ばされるジキムートっ!


「……っ!?」


そしてジキムートのすぐ隣を、汚い物を避けるようにシールドで避けて、通り過ぎていくゴディン。


意味が分からないジキムート。


「なかなか良い顔だ。ふむ。思った以上だよ……。そうだ。良かった」


何か言葉が聞こえた。


その瞬間……。


ビキキっ!


ジキムートが理解し、青筋を立てたっ!



(この野郎……。舐めやがってっ! 3人目ってのはそういう事かっ。しかも後ろも見せてんだぞっ! 敵に挟まれてるって考えもねえのかよっ!)


怒りと共に、ナイフを両手に出した傭兵っ!


真後ろを向いているゴディンへと投げるっ!


だが――。


「邪魔をするなよ、汚いの」


ゴディンの声と同時にまた、20に迫ろうかという魔法の雨を出現させたっ!



「クソっ!」


ゴディンからの攻撃に、身をよじってなんとか対応するジキムートだが、数本が腕と顔をかすめたっ!


「なんだコイツ!? 魔法の出が異様に早いぞっ」


尖ったゴルフボール。


それが20も一気に湧いているのだっ!


驚きを隠せないジキムートっ!


「〝スペルレス(神の寵愛深き物)″です、気を付けてっ!」


ゴディンを、ジキムートと挟むんで相対するノーティが叫ぶっ!


傷を負った右手を押さえながら、彼女は樹の魔法を放った。


「無駄だよ」


ガギンっ!


音がし、ゴディンの展開済みの氷の障壁に、樹木が阻まれるっ!


だが当たると同時、樹がシールドにへばりついていくっ!


その瞬間に、ゴディンの顔色が変わったっ!



「なにっ!? このマナは……っ」


今まで笑っていたゴディンが、驚きうめくっ!


蒼白の顔をして震え、氷の障壁を何枚も即時展開っ!


後ずさりしているっ!


ビキキ・・グキッ!


へばりついた樹は、氷のシールドに穴を穿つっ!


そしてそこから触手を伸ばし、氷を侵食してゆくっ!



「この魔法は特に、水には良く効くっ! 樹の虫に食い破られたくなければ、観念なさいっ」


虫のように動き、氷を食い破るツタっ!


恐れるゴディンを見て笑うノーティスっ!


「くぅ……。なんとなんと汚らわしいっ。神を侮辱する為に生んだ、こんな呪文を使うとはっ!? 滅せねばなるまいっ」


ゴディンはまた、氷の刃を出したっ!


今度は数十本の刃だっ!


ザスザスザスザスザスっ!


そして執拗に、樹を微塵に切り刻んでいくっ!


すると……っ!


「……っ!」


殺気に気づいたゴディンっ!


パンっ!

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