Ep.14 慣れたやり取り

 淡く清い輝きを放つガイアの指先で揺れる白金それに、周囲が先程までとはまた違った空気でざわめく。

 ガイアが一網打尽にしたならず者たちを警備兵がようやく連行していったのを見送って、その間ずっと口をパクパクさせていたレイジさんが息を大きく吸い込んだ。


「ぷ、プ……白金プラチナぁぁぁぁぁっ!!?嘘じゃん、嘘でしょ!?俺見るの初めてなんだけど!」


 光の早さでガイアのネックレスを奪い取りまじまじ眺めたレイジさんが放心した様子で『嘘じゃない……』と呟く様を見て、眉を寄せたガイアが私に耳打ちをする。


「一体なんなんだ?」


「あ、ガイアの貰ったランク、実はすごい獲得の難しい高位ランクらしくて……あのね」


 ガイアの右耳に両手を添え、ひっそりと先程レイジさんから聞いたランク分けの基準や仕事の割り振りなどを耳打ち。全て聞き終えると、納得したように小さく嘆息した。


「なるほどな。通りで試験を終えてから他の参加者が俺から頑なに目を逸らしていたわけだ」


「『なるほどな』じゃねーんよ!何がどうしてどうやったら初回で白金プラチナになれるわけ!?あの魔物、10体倒す毎に倒した魔物の強さが残ってる魔物に加算されて強くなってくシステムだから、100体目なんか人間が一撃食らったら即死するレベルになるんだけど!!?」


「だから、加算させなければ良いんだろう?迷宮内の魔物達を弱い魔術で追い込み10体毎に区分けして、まとめて撃破しただけだ」


「そ、そんな、やり方が……!」


 腕を組み淡々と告げたガイアの前で、よろよろと近くの長椅子に倒れ込むレイジさん。『死と隣り合わせの依頼では強さだけでなく思考力も問われるからな。元々、どうやったら効率良く勝利出来るかの判断力の有無も基準に含まれていたんじゃないのか』ってガイア!止めてあげて!もうレイジさんのライフは0よ!!!


「お、俺の10年の努力は一体……!」


「そこまで落ち込まれると悪いことをした気分になってくるな」


「どうにもレイジさん、白金プラチナの人しか受けられない仕事で受けたいものがあったみたいなの」


「そうだよ!あの依頼をこなせればもう一度リアと仲良くなれると思ってずっと鍛練してきたのにさ!ポッと出の色男に秒で抜かれるし!?しまいにゃさっきからイチャイチャしやがって、魔術の天才で類い稀なレベルの黒髪で頭も回る上に極めつけに相思相愛の恋人持ちかよ妬ましいな畜生!!」


 ほら、あれ。と、私が指差した張り紙を読むガイアの肩を揺さぶりレイジさんがわめき散らすも、びくともしないその立ち姿。うちの夫、色んな意味で強いな……。


「聞いてんのかよ!返せよ俺の初恋の僅かな希望!!さもないとお宅の彼女ちゃんと仲良くなっちゃうから!!」


「……なるほど、確かにこの花の効力ならば今の彼女が欲しているのも理解できる。で、この依頼条件に代表者白金プラチナ一名他、シルバーランク以上の同伴者三名まで可とあるな。俺のセレンに今後一切ふざけたちょっかいをかけないと誓うなら付き合ってやらないこともないが?」


「喜んで誓わせて頂きます師匠!!!」


 腕を組んで嫌味に笑いながら告げたガイアの前で手のひら返しに土下座したレイジさんに、周りから小さな笑い声が漏れる。ま、まぁ、解決したなら何よりですよ……。


「にしても、俺のこの性格軽すぎて生粋のお貴族様からはわりと疎遠にされがちなんだけど……ガイアス殿見るからに堅物な割にえらいノリ良いじゃん。どうした」


「単純な話だ。レイジのノリが親友に似てる」


「なるほど。そりゃ是非一度会ってみたいな!」


「……あぁ、機会があればな」


 ヘラっと笑うレイジさんにガイアもようやく表情を緩めた所で、奥から上質な衣装を纏った隻眼の男性が現れた。


「よお、今回はまた派手なお連れ様だなぁレイジ!」


「げっ!メイソンのおっさん居たのかよ!なら何ですぐ出てこなかったわけ!?」


「ガハハ、すまんすまん!徹夜の依頼明けで仮眠しててなぁ、気づくのが遅れちまった。悪かったなぁ新人達。俺はこのエリアのギルドの代表者を任されてるメイソンだ。固っ苦しいのが嫌いでな、敬語や遠慮はいらねぇよ。よろしくな!」


「初日から騒がせて申し訳ない。ガイアス・エトワールだ、よろしく頼む」


「セレスティアと言います、これからお世話になります」


 レイジさんの肩に腕を回して鬱陶しがられながらも豪快に笑うメイソンさんは、いかにもベテランの冒険家って感じだ。実際実力者なんだろう。


「おっ、品が良いなぁ。コイツとは大違いだ、なぁレイジ!」


「バンバン叩くな痛い!それより!なんでジャックが戻ってきてんの!?ギルドへの損害賠償を払う為にどんなに早くても三年はかかるって言うドラゴンの卵探しの依頼に出てたんじゃないわけ?出発してからまだ二年じゃん!あいつが居るってわかってたら2人を連れてきたりしなかったのに!!」


「あー……それなぁ。実はなぁその依頼をあいつらより先にクリアした奴がいたらしいんだわ」


 それで機嫌悪くここに帰ってきていた彼らに、たまたま私達が絡まれた……と言うことらしい。


「にしても、ガイアスっつったか?お前さんその若さでいきなり白金プラチナたぁすげぇじゃねえの。先日の旅人と言いお前さんと言い、今時の若ぇのは意外と骨があんだな」


「旅人?」


「あぁ。なんでもここじゃなく、北の果ての街のギルドで登録した流しの魔導師だそうだが、そいつも一発で白金プラチナに受かったそうだ」


「ーっ!?なん……っだと……!!!?」


「ーー…………トドメを喰らったな」


 レイジさんのライフが0どころかマイナスになった。もはや屍状態のレイジさんはガイアが担ぎ上げ、今日のところは一旦撤退。


「あ、そうだ。お前さん達!これ持っていきな!」


 帰路に着こうと馬車に乗り込んだ私達に、駆け寄ってきたメイソンさんが重なった羊皮紙を差し出す。


「それは?」


シルバーゴールドランクの依頼板から今見繕ってきた依頼だ。白金プラチナランクの依頼はゴールド以下の依頼を10件以上クリアしてからじゃないと受けられないからな。比較的やり易そうなのを選んだから目を通してみろよ!」


「何から何まですみません、助かります」


「あぁ、ありがたくいただこう。お心遣い感謝する」


「気にすんなって!じゃあな、頑張れよ!」








「まさか、ギルドの依頼を受けるおつもり?何様ですの、あの男……。気に入りませんわ」


 豪快に手を振るメイソンさんに見送られ、私達の馬車が走り出した直後。トレードマークの二つ結びを揺らしたリアーナ王女がギルドに入っていったことには、誰も気づかなかった。



    ~Ep.14 慣れたやり取り漫才










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