第120話 専属冒険者4

「お二人はメルメルの孤児院の出身なんですか?」

「え? あ、いえ、私達は孤児ではありません。ただママリエさんとメルメルさんにはいろいろお世話になったでありますよ。……私達はこの街に奉公に来ていたでありますけど、奉公先の商店が夜逃げしたであります。村には他にも兄弟がいて私達が戻ったら生活が苦しくなるのは目に見えているので冒険者として生計を立てて、少しでも仕送りができればと思っているでありますよ」


 商店が夜逃げして途方に暮れていた頃にメルメルとママリエさんに助けられたそうだ。二人に恩義を感じているならウイナ達も孤児院に支援する俺を裏切る心配は少ないかな。

 二人は今は西区のスラム近くで生活しているそうだ。昼間はリクと同じで冒険者ギルドで解体や仕分けなどの手伝いをしているらしい。ウイナとレプスも装備が整えば知り合いの冒険者が推薦をしてくれる算段はついているそうだ。


「そういうことなら僕の提案に乗った方が良いのでは? 少なくとも無理をさせるつもりはありませんよ。遊ばせるつもりもありませんけど」

「――ヤマトさんは私達に何をさせるつもりでありますか? 他の冒険者も守秘義務くらいは分かっているでありますよ? 依頼者の情報をおいそれとバラしていたら依頼なんて来なくなるであります」


 ウイナに訝し気に見られている。人でも襲わせるつもりでありますか? と言われている気がする。

 冒険者に守秘義務があるのは分かるけど、結局は個々人の口の堅さによるからね。話したことない冒険者のことを信頼するのは無理でしょう。それなら孤児院を人質にしてでも弱みを握れる人材の方がいい。

 ま、バレたところでそこまで大きな問題にはならないと思うんだけどね。フィーネが慎重になっているからそれに合わせているだけだし。


「皆さんにしてもらうことは先ほども言った通り薬草採取です。……ポーションの材料となる薬草に関して薬師は慎重になるんですよ。――集めてもらう薬草に関して口外どころか記録さえ残さないくらいには」

「確かに薬師の依頼品を他言するなって先輩冒険者からも言われているであります。二度と仕事にありつけなくなると。でも指名依頼をせずに常時依頼を出していれば私達はギルドに渡して依頼終了ですから依頼者を知ることはないでありますよ?」


 うん? そうなの? そういえば依頼窓口と冒険者がいる酒場は別々になってたね。薬師が必要な薬草を周りにバレずに集められるように配慮しているのか。……いや、そもそも普通の薬師は商業ギルドで買えばいいんだからそんな必要もないのか? 


「……冒険者ギルドに知られると商業ギルドに伝わる。……それを避けるためには専属冒険者の方がいい」

「商業ギルドにバレないために私達を雇うのでありますか? …………一体何を集めさせるつもりでありますか。違法なことはお断りでありますよ」

「……心配いらない。……集められる物しか頼まない」


 フィーネのことをウイナが睨んでいる。弟分を守るためにも変な仕事は受けないと考えているのかな。どのみち俺達には専属冒険者が必要なわけだし、少しは腹を割って話した方がいいか。


「――俺が商業ギルドに隠れて薬草を集める理由は、俺が最高品質を作れるからだよ」


 俺の宣言にフィーネが眉をひそめ、ウイナ達はポカンとした顔をしている。……あれ? フィーネの反応は分かるけど、なんでキミ達は顔を見合わせて首を捻っているのだね?


「あの、最高品質ってなんでありますか?」


 …………。ちょっと自慢気に言った俺の一言はまったく理解されていませんでした。……恥ずッ!


「……ヤマヤマ、最高品質は伝説級なんだよ? ……一般的には高品質までしか知られていないし、駆け出し冒険者が扱うようなものでもないから知らなくても仕方がない」

「そういうことは先に教えて欲しい」


 いや、ツバキから聞いたけどさ。でも俺からしたら全く珍しいものでもないんだよ。むしろ最高品質以外の方が珍しいよ……。


「ウイナ姉、ヤマトさんはミーシアの怪我を治せるポーションを作れる薬師なんだよ。だから作り方を商業ギルドに探られているみたいだってメルメルが言っていた。だからギルドを通さずに済むように俺達を雇いたいって言ってくれているんだよ」


 おぉリク、ナイス! ミーシアのことはウイナも知っていたみたいでリクの言葉に一応納得しているみたいだ。――ただ、


「――商業ギルドに探られているってメルメルが言っていたのか?」

「え。あ、いや。ここに来る前にヤマトさんに雇われることになるかもってメルメルに話をした時に、もしかしたらそういう理由なのかも知れないから、俺達も不用意に周りに情報を漏らさないように言われただけです。違いましたか?」

「……違わない。……でも彼女がそう言ったということは、多少なりとも情報を掴んでいる可能性はありそう」


 レベッカさんはマジで俺が市場で買った薬草なんかを調べているのか? ……俺が自分で最高品質を作れるわけじゃないからいくら調べても答えは出ない。というか、魔法以外で最高品質が作れるかも分からないし。


「まぁ、商業ギルドが製法を探るくらい凄いポーションを僕は作れるんですよ。でも製法は秘密だからできる限りバレないように対応したいってわけです。だから冒険者ギルドを通さずに、僕に直接雇われてくれる口が堅い冒険者チームを探しています」

「…………それで私達でありますか」

「ウイナ姉、俺はいい話だと思うよ。ヤマトさんは孤児や亜人に対して横暴な態度を取る人じゃない。――孤児院にいる獣人の子供達の耳を撫でて喜んでいる人だからな」

「…………それだけ聞くと不安になるでありますよ」

「大丈夫ですよ。僕はウサ耳も撫でたいと思っていますから」

「全然大丈夫じゃないであります! やたらと私の耳に視線が向いていると思っていたら、そんなこと考えていたでありますか!?」


 あれ、バレてた。あ、いや、シオンさん、ちょっと空気を和ませようと思って言っただけだよ? 本気で言ったわけじゃないからね? ただウサ耳がピコピコ動くからついつい視線が上に行ってしまうだけだよ。


「…………冗談はこれくらいにして、どうします? 詳しい話をしますか? それとも相談する時間が必要なら明日また来ますか?」

「絶対冗談じゃなかったであります。……ふぅ、私も悪い話だとは思っていないであります。聞かせてもらえるでありますか」


 ウイナの視線が俺の周りに向けられて、納得したように頷いていた。そして再度俺に視線を戻した。俺の周りって人間いないからね。亜人差別者とは思われないだろう。ならせいぜい良い待遇で囲い込むとしようかな。


「仕事内容は先ほど言った通りで、薬草の種類はあとでフィーネが指示します。あとは、支援についてですけど――約束通り、装備品の支給と毎月の基本給、採取した薬草は数に合わせて追加報酬を用意するとしましょうか。それと僕がいらない採取品は冒険者ギルドに売っていいですよ。もちろん、こちらの薬草採取に影響がでない範囲で、ですけど。あと万が一に備えてポーションも支給しましょうか」

「……ヤマヤマ、高待遇過ぎ。……駆け出し冒険者に言うことじゃない」

「そうか? なら金額はフィーネに任せるよ」


 俺じゃ相場わかんないし。でも装備品と給料は最低限でしょ。歩合制にしたら雇うって言わないし。それにポーションを持たせた方が安全性が格段に上がるからね。……どうせFランクポーションとEランクポーションは余り気味になるし。

 そうか、俺が作る分を持たせるって手もあるな。


「……装備品は三人で銀貨20枚まで。給金は銀貨15枚。……薬草の追加報酬については発注の際に決める。……ポーションはFランクポーションを用意する。……でも使った分は払ってもらう」


 装備品って20万Gで足りるのか? 三人分だろ? 採取メインだからそんな重装備はいらないと思うけど。それに基本給が15万Gか。街の平均月収が15万Gだったっけ。獣人は更に下がるって言っていたけど、冒険者を雇うには少なすぎないか? いや、最低保証だからそれくらいでいいのか。薬草を集めればその分稼げるわけだし。


「装備品代は問題ないであります。薬草は値段次第でありますが、ポーションを後払いで持たせて貰えるのは助かるであります。採取がメインと言っても怪我をする可能性は十分ありますので。……ただ給金はもう少し上げて欲しいであります。一人銀貨5枚じゃ、割に合わないでありますよ」

「ん? いやいや、一人銀貨15枚だろ。だよね? フィーネ?」

「……うん。……流石に私でも一人銀貨5枚とは言わない。……タブン」


 スッと顔を背けるフィーネ。……指摘されなかったらそのまま行こうと思っていたな。


「え、一人銀貨15枚が貰えるんでありますか? そのうえ薬草を取って来たら追加報酬であります?」

「もちろん。ただ集まり方にもよるけど、数が集まるまでは無理をしない範囲でいいから、できるだけ多く採取に行って欲しい。冒険者ギルドの飲兵衛を見た感じそんな働かないみたいだけど。その分は報酬に上乗せするからさ。この条件でも断る?」


 冒険者ギルドで聞いた感じじゃ、採取メインの冒険者チームはそれほど稼げていないはず。薬草を採取して冒険者ギルドに売っても月に45万G稼ぐのは難しいだろう。

 俺の専属冒険者になれば毎月の給料はもちろん、怪我した時のためのポーションまで支給される。そのうえ頑張っただけ追加報酬も手に入る。同じ採取ならこちらを選ばない理由はないだろう。


「いえ! やります! 毎日行きますよ! な! ウイナ姉!」

「はいであります! 今のまま冒険者の下働きしていても、月に銀貨6枚稼げると良い方でありますよ。――生活費を考えていたら冒険者になるのはまだまだ先になると思っていたであります。月に銀貨15枚貰えるなら、薬草の追加報酬は言い値で大丈夫であります。リクが言うように毎日だって採取に行くでありますよ!」


 ウイナは先ほどまでの疑った表情をどこかに捨てて来たのか、ニッコリと営業スマイルを浮かべている。……今なら頼めば愛らしく語尾を付けてくれるかもしれない。言わないけど。


「あと、希望するならザルクさん達に稽古付けるように頼んでもいいよ。採取についても知っていることあるだろうし」

「良いんですか!? ぜひお願いします!」

「……ヤマトさん、そんなにいろいろしてもらって本当に良いでありますか? 私達まだ冒険者にもなっていない駆け出しでありますよ?」


 まぁフィーネの顔を見るに破格の待遇なんだろうね。でもこれは先行投資だからね。いずれは俺達の代わりに色々と働いて貰うから今の内に恩を売っておかないと。


「大丈夫ですよ。今の内に恩を売れるだけ売っておいて、裏切れないように画策しているだけですから」

「それを本人に言うでありますか。――いえ、分かったであります! 兎人族は受けた恩は忘れないでありますよ! 必ずやご期待に添えるであります!」


 ウイナと今まで黙って見ていたレプスがソファーから立ち上がって、床に膝を付けて頭を下げた。それを見たリクが慌てて真似をする。

 というかただ雇われるだけでそんな畏まらなくても良いだろうに。

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