第119話 専属冒険者3
「おかえり、二人とも。スンスンにお客が来たから部屋を準備するように伝えてくれる?」
「分かりましたコン」
何事もなかったかのように言ってみたけど、心なしかヨウコの語尾が強くなった気がする。表情は笑顔だけどね。……後ろで笑っている猫がうるさいな。
「…………つけなくてもいいよ?」
「何の事でしょうかコン?」
ヨウコがフイっと顔を逸らして語尾を強調している。怒っているわけではないみたいだけど……。ヨウコも引くに引けなくなっている感があるからね。
「にゃはは。ご主人様、気にしないで大丈夫にゃ、テレてるだけにゃ。それに私と二人の時はつけてないにゃ」
「メイプルさん? お魚抜きにしますよ、コン?」
「横暴にゃ!! そんなことするにゃらヨウコにゃんがさっき言ってたことご主人様に暴露するにゃ!」
「ちょ、何を言っているのですか! 誤解を招くようなこと言わないでください! こん!」
なにやら二人でコンにゃん言いながら争っている。大した内容ではないみたいなので放置していると、ザルクさんが二人を宥めて屋敷に行くよう促している。周りの視線もあるし、屋敷の前で騒ぐのは流石に許容できなかったみたいだ。ちゃんと門番してるね。
「お館様。応接室の準備は既にスンスン殿がやっております。先ほど準備が終わったと連絡がありましたので、すぐにでも使えますよ」
リク達は少し前から来ていたらしく、スンスンが急いで準備してくれていたみたいだ。……リクと別れた後に屋敷に連絡をするべきだったな。でも携帯とかないからなぁ。
……。孤児ネットワークを構築するか。街にいる孤児を誰でも伝令に使えるようにできないかな。……まぁ、それはおいおい考えるとしよう。先ずはやることもあるからね。
「分かりました。……ウイナさん、レプスさん、改めまして、僕がこの屋敷の主であるヤマトです。詳しい話は屋敷でするので三人とも屋敷にどうぞ。ザルクさん、後から警備隊のメルビンさんと商業ギルドのミリスさんが来ることになっていますから対応お願いしますね」
それから緊張した面持ちで俺達の後をついて来るウイナとレプスに苦笑しつつ屋敷に入る。リクは二度目だし俺と顔見知りだからか緊張していないみたいだ。……屋敷の主は目の前にいるのに、屋敷の方に気圧されているとはこれ如何に。
屋敷に来る機会なんて今までなかっただろうから仕方がないけどさ。
「ご主人さまー、お帰りなさいませー。お部屋の準備は出来てますよー」
玄関を開けるとスンスンが出迎えてくれた。……ふむ。メイドさんがたくさんいたらここにズラッと並んでお辞儀している光景が広がるわけか。……いや、別に増やすつもりはないよ?
「ただいま。連絡するの忘れててごめん。助かったよ」
「いえいえー、当然のことですからー。こちらへどうぞー」
スンスンに案内されて昨日使った応接室に向かう。中身全部出されていたけどいいのだろうか。ま、椅子があればそれで十分か。
そう思いながら部屋の中に入るとソファーや机などがキチンと揃っていた。俺達が出掛けている間に元に戻してくれていたみたいだ。
屋敷に入って更に緊張してガチガチになっている二人にソファーを勧めて俺も反対側のソファーに座る。シオンとフィーネが左右に座り、ツバキは俺の背後に立っている。
スンスンはいつの間にか用意されていた給仕台からお茶を各自の前に置いて部屋を出て行った。準備万端だったようだ。
「回りくどい話をするのは苦手なので、早速本題に入っていいですか?」
「はい、お願いしますであります! 私達も難しい話は苦手ですので、簡単な方がいいであります。リクからは冒険者として私達を雇ってくれるって聞いたであります。その為の援助もしてくれると……」
一応、三人それぞれを見て話をしたけど、レプスとリクは頷くだけで話はウイナに任せるみたいだ。年上だしこの人がチームリーダーなのかな。……てっきりリクがリーダーだと思っていたよ。少し当てが外れたな。リクなら孤児院の件もあるから裏切らないと思っていたんだけど。
「ええ。とはいえ、もちろん条件もありますよ。僕は薬師です。リクには話しましたけど、僕が皆さんにお願いするのはポーションの材料集めです。僕がポーションを作るのに必要な薬草を中心に集めてもらうことになります。他にも何か頼むことはあるかも知れませんけど、冒険者ギルドに出せる依頼以上のことは頼みません。その上で、僕が支援する条件は、僕の専属冒険者となることです。僕達に関するどんなに些細な情報でも守秘義務を請負うこと。僕の依頼を最優先にすること、ですね」
冒険者ギルドに登録している者を直接雇うことは問題ない。ザルクさんも怪我をして引退しているけど、冒険者ギルドに登録したままらしい。本人が希望したり、死亡確認が取れた者以外は登録されたままになっているのが普通みたい。
「……。それなら普通に冒険者ギルドで依頼を出した方が良いでありますよ? 私達が集めれる量なんてたかが知れているでありますよ。――毎日、希少な薬草を大量に持ってこいって言われても無理であります……。たまたま群生地が見つかった時ぐらいしかできないであります。それにそれなら、冒険者ギルドで常時依頼分に提出できるのであります。ヤマトさんも常時依頼を出してくれると私達以外の冒険者が見つけた場合にも持って来てくれるでありますよ?」
まぁ普通なら冒険者ギルドで依頼を出した方が手間もなく、問題があっても冒険者ギルドが処理してくれるから面倒がないんだけどね。
ザルクさん達みたいに長期間雇うなら直接雇った方が安いけど、リク達に頼むのは薬草集め。普通に依頼を出せば何組もの冒険者チームが勝手に集めて来てくれる類のものだ。実際、フィーネに頼んで既に依頼出してるしね。
「確かにその通りですね。実際、さっき冒険者ギルドに行った帰りに常時依頼は出してきました。ただ僕が欲しいのは情報を秘匿できる専属の冒険者です。最初はすでに活動している採取メインのチームを考えたんですけど、それよりリクがいるチームの方が信頼はできるかなと思いましてね。……リクは俺を裏切らないだろ?」
リクを見て首を傾げるとリクが苦笑しながら頷いていた。俺が言いたいことをキチンと理解しているみたいだ。
そしてそんなリクを見たウイナも理解したみたいだね。
「なるほどであります。――孤児院に支援者が来たって聞いたでありますが、ヤマトさんのことだったでありますね。……そういうことは先に教えて欲しかったであります」
「ごめん、支援者のことは秘密だから俺からは言えなかった」
リクを見てため息をついたウイナが、改めて俺に視線を向けてきた。先ほどより視線が柔らかくなっている気がする。
そういえばこの二人も孤児なのか?
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