第98話 プセリア出現1
「……ヤマヤマ、依頼出して来た」
「ありがとう、フィーネ」
絶刀を筆頭に冒険者たちが各自で薬草や魔獣の卵を持って来てくれるそうなので所在地を知らせるついでに依頼を出すことにした。
流石にリクのチームで魔獣の卵は無理だろうし、薬草も一チームでは足りないと思うからね。一日の数量を限定して常時依頼として魔獣の卵とポーションに必要な薬草を依頼して来てもらった。うん、もう自分で行く気はなくなりました。
必要に応じて商業ギルドでお願いしても良かったけど、ここまで来たのだからものは試しと言う事で冒険者ギルドに依頼を出すことにした。金額的には冒険者ギルドから買った方が少し安いみたい。そして冒険者から直接買うのが一番安く新鮮であり、冒険者としても直接消費者に売る方が高く買い取って貰えることになる。ギルドの手数料が掛からないからね。
いずれは狩りもこなせる冒険者見つけ雇いたいところだね。狩り志望の駆け出しをスカウトするか、ザリクさん達の繋がりを使う手もありそうだ。
「……でも冒険者ギルドで依頼するより商業ギルドで買った方が安定しているよ?」
「それは分かるけど全部を商業ギルドで完結させていたら情報駄々洩れになりそうだからね。薬草の消費量まで把握されたらいろいろと問題だし」
しばらくは自分で作るために実験が続くとはいえ、数日もすればポーションの数量に違和感が出てきそうだ。その点、市場や冒険者から買っていれば把握は難しいだろう。そのうえリク達から直接受け取ればもう追跡はできないでしょ。……俺は誰と戦っているんだろうか?
「主様、それでは革職人の元へ向かいますか?」
「うん、そのつもり――」
「おぉ! そこにいるのは噂に名高い殲滅姫殿ではないか! これはこれは、是非とも一献酌み交わして頂けぬか!」
歩き出そうと思った矢先に気品に溢れる女性が通りの向こうからやって来た。背後に装備を身に付けた獣人を二人とメイドさんを引き連れているからどこぞの貴族かな。
でもこの国の貴族は亜人を護衛で使うのか? って、何故かメルビンさんまでいるんだけど? …………。イヤな気配しか感じない。絶対厄介事でしょ。革職人の元までに幾つの試練があると言うつもりだよ……。
「すまない、ヤマト君。少しだけ時間を貰えないだろうか」
「申し訳ありません。約束の時間があるので失礼します」
「くっくっく。よいぞ、我はしばらくこの街におるからな。何度でも伺おうではないか」
……。メルビンさんの対応から察するにかなり偉い人みたいだけど。領主の上役――の奥さんか? …………。まさかぽーしょんシャンプーの噂を聞きつけた? まだ屋敷から商業ギルドに行って、ここまで歩いただけだぞ? …………女の執着は恐ろしそうだ。本当に何度でもやって来そう。
「…………御用件は何ですか?」
「そう急くでない。せっかくだ、そこらの店に入ろうではないか」
「少しじゃないんですか?」
「くっくっく、殲滅姫殿の主人よ。お茶の一杯も受けれん小物ではあるまい?」
「いえ、小物ですよ? ちょっと街を歩くだけでも怖くてこうして護衛してもらっているんですから。貴族に密室に連れ込まれるなんて、考えただけで震えが来ますよ。次はどこを蹴られるのか分かったものじゃないです」
「ッ、かっか、良い殺気だ。並みの者なら逃げ出すであろうな。主人殿、その者を護衛に付けておきながら怖いと申すか?」
ツバキの殺気を受けても表情を変えず笑顔で近づいて来た。マジか、この人。領主より修羅場くぐっているのか? それとも女は強しってこと? 後ろの獣人二人も平気な顔してるし……うん、普通に怖いですよ。
この人、領主より貫禄があって貴族っぽいな。メルビンさんの様子からしても上役の奥さんより上役その者な気がする。
「……ええ、僕は小心者ですからね。――ツバキがやり過ぎてしまった場合とか怖くて堪りませんよ。だから貴族と関わり合いたくありませんね」
「かっはっは。我等がやられる心配をするか! 安心せよ、我の護衛はそちの奴隷より強い。何なら試してみるか? 落ちぶれた殲滅姫など物の数ではないぞ!」
イラ。……確かにツバキ達は今は奴隷だけど――俺の従者だ。軽蔑されたり愚弄される云われはないしさせない。
本当に落ちぶれているのか、お言葉に甘えて試させてもらおう。ツバキファイヤー!
首を軽く振って胸を弾ませる。これできっとツバキには伝わるはずだ。怪我をさせない程度に脅してあげて!
「――お! っ、……くっくっく、どうだ。これで安心したか」
ツバキの石弾が女貴族の顔面直撃コースで放たれたけど、寸前のところで後ろに居た大柄な女性が受け止めた。……。いや顔面コースは酷くない? 万が一の時はポーションでなかったことにする予定だったけどさ。
「なるほど。では次は本気で撃ちますわよ? しっかり構えなさいな」
「待て!! ……狙うならオレを狙え。止めきれる保証がない」
「ツバキ、ストップ。……はぁ、いいですよ。メルビンさんの顔を立てて一杯付き合いましょう」
これ以上はいろいろマズそうだ。大柄な女性は決死の表情を浮かべて構えているし。うーん、ツバキは最初の一発は受け止めれるように打ったのかな。力量を見定めた?
まぁどっちにしても、本人ならまだしも護衛の人に怪我をさせたくない。ただの腕試しで大怪我されても困るよ。ま、どっちが上かハッキリしたと思うけどね。ツバキの実力を知っておきながら挑発したのは俺がツバキ達をどう思っているか確かめる為かな?
メルビンさんとメイドさんが真っ青になってわたわたしているし。これ以外はメルビンさんに迷惑がかかりそうだ。
「よし、ではあの店に向かうとするぞ。皆ついて参れ!」
……。今しがた死に掛けた人とは思えん態度だな。貴族だしこのぐらい心臓強くないとやっていけないか。……見習わなくてはいけないな。
「……(アルクス、ポーション使う?)」
「……(すまないがくれ。右手が使い物にならない。これでは護衛は難しい)」
「……(……うわぁこれ、このポーションじゃ治らないよ。……ネリサにプセリア様のポーション貰う?)」
「……(…………いや、いい。まだ片手がある)」
…………。護衛二人が女主人に付いて行かずにこそこそしていると思っていたらツバキが話の内容を教えてくれた。ここからじゃ見えないけど――手が酷いことになっていて手持ちのポーションじゃ治らないみたいね。
……。しょうがないか。出ろ、Dランクポーション。
「シオン、渡してきてくれる?」
「宜しいのですか?」
「うん。彼女たちは仕事をしただけだからね。ただその場で使うことが条件ね」
「分かりました。行ってきます」
シオンがタタタと駆けて行く。メルビンさんとメイドさんは俺達の動きを見て動けずにいて、女貴族は一人で店に向かっている。…………誰もついて行かないね。
「主様、申し訳ありません」
「いやいいよ。ツバキにゴーサインしたの俺だし」
「ですけど、怪我をさせないようにと思っていたのでしょう?」
「……ちょっと待って、……ヤマヤマが胸揺らしただけでそこまで伝わるの?」
「当然ですわ」
「当然だな」
俺達のお胸疎通を侮っているフィーネが絶句している。まぁ俺もそこまで伝わっているとは思っていなかったけどね。流石はツバキだ。
「こちらをどうぞ。旦那様からのご慈悲です」
「へ? え、これ――いいんですか?」
「はい。ただし他言無用です。この場で使わないのであれば回収します」
「感謝する。プセリア様には怪我のことはバレていないはずだ。名に誓ってこの事は漏らさない」
「ウチも誓います。ここで見たことは仲間にも伝えません。墓まで持って行きます」
「では、お手を」
シオンがポーションを開けて怪我した手にかけている。その光景を見せないためか、もう一人の女性がメルビンさんとメイドさんの視線を遮るように移動している。そしてあっという間に怪我は治ったみたいでシオンが戻って来た。
護衛二人はこちらに深々と頭を下げている。……うん、この二人には好感が持てそうだね。
「コラー!! お主ら来ぬかー!?」
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