第32話 譲れない想い1

むにゅんむにゅん♪


ツバキ達と一緒にメルビンさんとオルガノさんが待つ詰め所前に完全防御態勢でやって来るとオルガノさんと販売窓口に居た受付嬢が待っていた。俺には薬草を売らないと言った受付嬢だ。


「オルガノさん、おはようございます。……何で受付嬢さんがここにいるんですか? メルビンさんは?」

「おはようございます。ヤマト様。メルビンさんは仕事が忙しいので私に任せられました。今日はよろしくお願いします」


「おはようございますヤマト様。昨日は私の軽率な発言で気分を害されたと存じます。本当に申し訳ございませんでした。私は商業ギルドの副ギルド長からヤマト様のお家探しのアシスタントをするように仰せつかっております受付嬢のシリカと申します。本来であればミリスさんが来られる予定だったのですが、急用が入り私が代理で参りました。今日は少しでもお役に立てればとポーション職人に適した建物や立地、環境、その他この街に来たばかりのヤマト様では分かり辛い辺りのサポートをさせて頂きたいと思っております」


昨日とは随分対応が違いますねぇ。ミリスさんがお金持って来た件の続きかな? 俺が下手に騒いだらギルドに迷惑が及ぶって考えたのか?

 …………。メルビンさんに渡したCランクポーションが商業ギルドにバレたのかな? もしくはメルビンさんが商業ギルドに売って俺の存在が浮上したとか?

 うーん、分からん。けど昨日みたいに蔑まれる気配はないみたいだな。


Fランクの俺に謝罪に来たってことはポーションがバレたか、ツバキ達を買った事で貴族に繋がりが出来たと思われて無下に出来ない立ち位置になったかだろうと思うけど。


でも俺が目立つ状況になるのは避けたいんだけどな。ツバキの胸を頭に置いて行動している時点で結構目立っている気もするけど、これは止めるわけにはいかないからな。


「私が居りますので必要ないと言ったのですが、頑なに付いてくると仰るのですよ。ヤマト様が不快だと思われるのであれば衛兵に言って排除させますが?」


いやいや、オルガノさん過激過ぎない? もしかして俺が商業ギルドで嫌な思いをしたことを気遣っているのかな? 確かに薬草は売れないって言われたけど、理由は納得できるものだったし俺としてはこのシリカさんに特別恨みがあるわけではない。俺としてもお金を集めないといけないから必要以上にギルドと仲違いしたくはない。


…………ここに来たのが一番窓口嬢だったら衛兵を呼んだけど。


「構いませんよ。ミリスさんにはあのギルドで唯一お世話になりましたしその代理だと言うなら特別言う事はありません」


俺の言葉にオルガノさんは笑みを深め、シリカさんは表情が暗くなってしまった。ミリスさんなら笑みを曇らすことはなかっただろうな。代理とは言っても経験が浅い普通の受付嬢なんだろうな。


「それではヤマト様、早速一件目の住居へ行きましょう」

「あ、はい。えっとシリカさん行きますよ?」

「――はい。サポートは任せてください」


まぁ家の良し悪しを判断してくれるなら助かるけど。





「ダメですね。ここでは商業ギルドが遠過ぎます」


「ダメですね。ここでは貴族の住宅地に近過ぎます」


「ダメですね。ここは家が狭過ぎます。使用人用の建物もありません」


「ダメですね。ここは家が古過ぎます。ヤマト様には合いません」



 

…………。…………。うん。シリカさん、退場!!


「貴女、邪魔ですわよ? 消えなさいな。それとも消されたいのですか?」


どうやらツバキも腹に据えかねていたみたいだ。俺がレッドカードを突き付ける前にその気配を感じ取ったのか先に言ってくれた。……言い方がちょっと過剰な気がするけど異世界だしこんなものなのかな?


「え!? い、いきなりなんですか! 私はヤマト様のサポートですよ? 文句を言うならこの様な物件しか用意出来なかったオルガノさんに言うべきでは?」


うーん。確かにオルガノさんが見せてくれた物件はピンッと来るものが無かったけど、それでも文句ばかり言いすぎでしょう。


確かにオルガノさんが用意していた屋敷は貴族のお屋敷みたいな大きな家でとても三人で住めるような家ではなかった。

使用人は用意するって言われても頷けるわけがない。何でFランクの薬師がこんな家に住めるんだって噂になるわ!?


二件目の物件はお風呂があり一件目よりは小さく狙い目だったのに貴族の家が十五件先にあるからってダメ出しされたからな。

家の設備や地域の安全性、利便性より貴族の屋敷が近くにあるからダメって少しおかしいよね? 

貴族の屋敷の傍に住みたいわけじゃないけど、オルガノさんが言うには貴族街は警備面に優れているし、屋敷の大きさも他と比べると広いらしい。それにお風呂が備えてあるのは主に貴族街の屋敷になるそうだ。


「オルガノさん。僕が求める家の条件は一にお風呂、二に台所、三に警備面です。工房はないなら一部屋潰して工房にしますから専用の工房が付いている必要はありません。その上で利便性が良ければ言う事はありません。僕が言う利便性は中央市場に近い事であってギルドやお偉いさんの屋敷が近くにある必要はありません。この条件で空いてる物件はありませんか?」


この国では自宅で食事を用意するのは貴族や大きな商家だけで、大多数は食堂や屋台で食事を済ませるのが一般的らしい。食事の用意をする時間や手間が無駄であり、一人から数人分の食材を用意するより大多数の食事を用意した方が安上がりになるそうだ。その為屋台での食事は一食300Gもあれば事足りるそうだ。


ただ俺の場合はツバキ達が居るし、食堂で雑多の中で慌ただしく食事をするより自宅で二人の手料理をテーブルを囲って食べる方が夢があっていい。

この世界に来る前は一人で食べる事がほとんどだった気がする。昨夜宿の食堂で二人と一緒に食べた食事は周りの雑音が酷かったけどそれでも楽しく心地よいものだった。


風呂と台所は今の俺には最低ラインだ。警備面はツバキが居るから問題ないだろう。あるとしたらシオンの体調が悪くて一人家に残ってしまう可能性があるからそこだけは考慮しないといけないけど。


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