第22話 期待はしません

「あ! ヤマト様! 見つけました!」

「うん?」


ツバキ達と街中を歩きながら着替えを買ったりツバキの言っていた事を元にポーションを作る機器を買ったり、荷物を入れる為のリュックを物色したりしながら歩いていると女性の声が通りから聞こえた。

この街で俺の名前を知っている女性はツバキ達を除けば一人しかいないか。


「ミリスさん。先ほどぶりですね。どうかされましたか?」

「はい。先ほどのポーションの査定について誤りがありまして謝罪と補填金額を渡そうとお探ししておりました。……ところでそちらの方は?」


まぁ常人なら会話の最中も乳を頭の上に置いて抱き着いている人がいたら気になるよね? と言うかツバキさん。知人と会話する時ぐらい離れようよ?


「私は主様の護衛です。貴女が危害を加えるつもりがないのであれば私の事は気にしなくてよろしくてよ?」

いや、普通は気にしますよね? ツバキの表情は俺からは見えないけど真剣な表情でそれ言ってたら笑っちゃうからね?


「護衛、やはり先ほどの件で…………。しかしヤマト様はこの街に来たばかりで資金もないと言ってませんでしたか? 奴隷を購入するほどの、まして竜人族の女性を二人もとなると並みの金額では…………」


ツバキのことはスルーするのね? 護衛と言う事で納得しちゃうんだねこの世界の人達は。


「ええ。ですからいきなり三十億Gの借金を背負っちゃいました。でも彼女達が居れば寂しくも無いですし、安全面も間違いないでしょうから」

「………………………………三十億?」

あれ? ミリナさんの顔がヒクついているような? まぁ俺も法外な値段だと思うけど。そういや普通の奴隷って幾らぐらいなんだろ?


「主様に損をさせるつもりはありませんから貴女が気にすることではありませんわよ? あぁ、そうでしたわ。主様から商業ギルドでのを聞きまして是非とも商業ギルドの方に会ったら言おうと思っていた事がありますの、「ありがとうございます。貴女達のお陰で素晴らしき主に出会えました」と。ご安心なさって。今後は私達がいますから愚族の蛮行を見逃すことはありませんわ。ギルドとは違って」


「ッ!? ヤマト様、その節は大変なご迷惑をお掛け致しました。当ギルド、副ギルド長も謝罪をしたいと言っております。是非ギルドにお出で頂けませんか?」

「いやいや、ギルドに謝罪して貰おうとは思っていませんよ。キチンとそちらの流儀に従って活動をしようと思っていますし、副ギルド長に時間を割いて頂くほどの事ではありません。ギルドには明日ポーションの買取で伺いはしますが、それ以外で頼るつもりもありません。あぁ、今回の謝罪と言う事であれば一番窓口の受付嬢を別の人にして欲しいですね。期待はしませんが」


俺が敵対認識しているのはセルガと一番窓口の受付嬢だけだ。それにランク差別があるギルドには特に期待していない。ポーションの買取以外は街の店や市場でも代用が効くみたいだしな。


「窓口は既に別の者が対応するようにしております。ヤマト様の買取に関しましても専属受付嬢をご用意する準備があります」

「要らないですよ? 僕はキチンとそちらの流儀に従うと言ったでしょ?」


特例で専属受付嬢を配置されても目立つだけだろう。ポーションは毎日売るんだからランクはその内上がるだろうしな。


「で、では、先ほどの謝罪と査定の誤り分としてこちらを」

「いりません。謝罪を受け取るつもりはありませんし、先ほどの査定額で満足していますから。今後も同等の査定で構いません」


これってあれだろ? セルガの横暴を金でなかった事にしろってやつでしょ? 受け取りませんよ? ただ今後の商品査定を下げたりしないで欲しいけど。

まぁ、いよいよになったらメルビンさんに言って別の街で売って貰おう。そう言えばメルビンさんに直接ポーションを売ったわけだけど良かったのか?

 ……良いことにしよう。現金の直接のやり取りはしてないし。


「そ、そんな…………。それでは副ギルド長が納得しません。ギルドまで一緒に来て頂けませんか、お願い致します」


うーん。金を受け取るわけにはいかないけど、このままじゃミリスさんが副ギルド長から怒られることになっちゃうのか。あのギルドでただ一人の常識人が居なくなるのは避けたいし、話だけはするか。


「分かりました。では明日ポーションを持ち込む時に副ギルド長と面談します。ただしお金を受け取るつもりはありません。それで良いですか?」


もうすぐ夕方になるし今からギルドで話なんてしてたら遅くなるからな。いい加減腹が空いてんだよ。これでも引き下がらないならミリスさんも敵だ。飯の恨みを知るがいい…………。


「っ、わ、分かりました。で、では明日、お待ちしております」


これ以上交渉の余地がないと悟ったのかミリスさんは頭を下げ帰って行った。うん、俺の迫力が伝わったみたいで良かった良かった。飯の恨みは怖いからね。


「主様、邪魔者は居なくなりましたし、そろそろ帰りましょう。夕飯の時間ですよ」

「そうだね。シオンは他に見たい物はないかな?」

「はい。また別の日に連れて来て下さると言って頂いたのでその時の楽しみにします」

健気だ。良い子だ。ツバキにも見習わせたいところだな。


「ふふふ、私達はよく似た姉妹でしょう?」

「…………否定はしないでおこう」


姿は似ているし普段の雰囲気も似ているんだよね。ただ口を開くとツバキから気品が漏れ出して行くけど。


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