第21話 戦闘マシーン

むにゅん、むにゅん。


「…………何だあの子供、頭に乳乗せて歩いてるぞ?」

「――羨ましい、なんで胸を頭に置いているんだ」

「俺ももう少し小さければ」

「ん? あれ竜人だな。竜人の乳を頭に乗せているのか」

「なんで竜人の胸を頭に乗せているんだ?」

「マニアか? マニアックな子供みたいだな」

「竜人の乳乗せか。乳押さえか? 変わった趣味だ」

「変わっているなぁ。変態だな」

「変態だね」

「変人ですね」

「変質者だ」


…………。…………何だか随分な言われようだな。俺も向こう側なら似たようなこと言ってるかもしれないけど。


ツバキとシオンを連れて中央区の市場のような所に来たけど、意外と皆さん遠巻きにおっぱい、おっぱい言ってるだけで特に蔑むような視線は感じないな。


…………変人を見る視線は感じるけど。


「旦那様は大きなお胸がお好きなのですか?」

「胸に貴賎はないと思っているよ? ただ無理強いはするつもりないけど」


ツバキにも俺がしろと言ったわけではないからね。ツバキが自発的にやっているだけで。そう、変態でマニアックなのはツバキの方なんだよ?


「私は主様あるじさまに喜んで頂こうと思っているだけですわよ?」

「……さっき胸を支えなくていいから楽だって言ってなかった?」

「それは副次効果であって本来の目的は主様への信愛の証ですわ。竜人族の女は自身が認めた者以外に肌の接触を許しませんの」


服を着てるから肌が直接触れているわけではないような? まぁ服なんて関係ないほど密着しているけど。


「お姉さま、何でもかんでも竜人族の慣習みたいに言わないで下さい。ほとんどお姉さま一人の慣習でしょう」

「あら? ですが認めた者以外に身体の接触を許さないのは本当ですわよ? そう言えば私より先に主様に抱き着いていた竜人族の少女がおりましたわね」

「あ、あれは、お姉さまが!?」

「普段の貴女なら抱き着かれる前に避けるなり殴り飛ばすなり仕留めるなり吹き飛ばすなりしていたでしょう?」

「そ、それはそうだけど」


認めるの!? 避けるのは分かるけど病弱なシオンがそんな過激に殴ったり吹き飛ばしたり仕留めたりって、仕留めるって何だよ!?


「ふふふ、主様? シオンは病のせいでまともに力が出せないとは言え、ポーションが切れた状態でもこの国の兵士数十人ぐらいあしらいますわよ? 体力が持たないので百人までは難しいでしょうけど、竜人族に恥じない戦いは可能ですわ」


竜人族は人型生物の中で自他共に認める最強種族なのだそうだ。ちなみに人間族は下から数えた方が早いほど弱小種族らしいけど、兵器、人数、戦略、知略、そして魔法が全てなのだそうだ。


他の種族に対して飛びぬけているわけでもなくバランスよく全てに適正がある人間は高い戦力を持っていないにも関わらず、他種族を圧倒しているらしい。

肉体的にも精神的にも遥かに優れている竜人族が人間族に戦争で負けているそうだから頭を捻るところだ。


「私でも有事の際は旦那様をお守りすることは可能ですからご安心ください。力は余り出ませんけどポーションが効いている間でしたら一個大隊ぐらい相手に出来ると思います!」


この国の一個大隊って兵士三百人以上なんだって。ちなみにツバキは一個師団を壊滅させる事が出来るとシオンが笑顔で教えてくれた。この国の一個師団は一万人以上みたい。

アハハ、良く人間滅んでいないね!


「人間族の恐ろしい所は普段は他種族を毛嫌いしている癖に戦争になると周辺国の協力を集め、集団戦を仕掛けることに長けていることですわね。兵器や魔法の効率のいい運用。上の命令を忠実に守る指揮系統。一兵卒までがお国の為にと無謀な命令にも従うのは背筋が凍りましたわ」


…………俺の気のせいかな。ツバキが戦闘経験者みたいに聞こえるんだけど。二人は借金奴隷だったよね?


「お姉さまは今の私ぐらいの時に初陣していますよ。この辺りの国で殲滅のツバキと聞いて震え上がらない将校は居ないと聞きました」

「私も初陣の時は気持ちが焦ってしまい体力配分が分からずに千人程度しか倒すことが出来ませんでしたわね。それからは経験を積んで力の入れ時と抜き時を学びましたわ。今なら統制の取れた一個師団でも相手に出来るはずですわ」


…………うーん、ま、いっか。護衛としては文句なしに優秀と言う事で。メルビンさんは理解しているんだよな? 俺の手元に一個師団に匹敵する戦力があるって。

ポーションブースターで半永久活動可能な不死の戦闘マシーンの爆誕だな。


「俺と二人に被害が出ない限りは先に手を出したらダメだからね?」

「心得ておりますわ。いざという時は足を使いますし、人間の目では捉えることが出来ない速度で拳を振るえますからご安心くださいな」

「…………護衛方法に関してはツバキに任せるよ。この国で問題にならない程度に対応してくれ」


この国の常識も分からないし俺が日本人の感覚で言ったらツバキが混乱するだけだろうからな。ツバキに丸投げしよう。 


「了解しましたわ。死人に口を開くことは出来ませんし問題ありませんわ」


…………俺はツバキを信頼する! ヤバそうなら生きていたらポーションで治るだろう! きっと!

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