第4章 勇者VS勇者

第20話 約束

 市ヶ谷壱兵衛いちがや いちべぇ

 筋力A

 耐久A

 敏捷C++

 知力C

 スキル未測定:法力系のスキルで念動力の様なものを使う。

       だが、真に恐るべきものは、彼自身の体術である。


 佐々木輝義ささき てるよし

 筋力B+

 耐久B+

 敏捷A

 知力B

 スキル未測定:変身能力を有しており、全身を義体化している可能性あり。

       多種多様な武装を有しており。遠近両方の攻撃手段を持つ。


「ふぅむ」


 俺はタブレットを脇に置き、ベッドにごろりと寝転がった。

 協議会の調査員は多々あれど、奴らはその中でも飛びぬけて強力かつ凶悪という話。

 そのあまりの残虐性に、いつの間にやらついたあだ名がオルトロス。

 地獄の番犬ケルベロスの兄弟で、二つの頭を持つ犬の怪物である。


是川これかわが……生きてた」


 ふとした隙間に頭をよぎるのはその事だ。


「奴は……俺を恨んでいるかな?」


 失った右腕は元通りに生えていた。

 だが、欠損が埋まればそれでオーケーという訳でもあるまい。


「俺は奴の復讐に水を差した」


 擁護なんざこれっぽっちも出来ないが、あの殺りく行為は奴にとって崇高なる儀式であったはずだ。

 そんな事を通りすがりの俺に邪魔されればどう思うか?


「……恨むよなぁ」


 聞き取り調査によれば、異世界からの帰還については、二種類に分類されるという。

 一つが、恵美えみさんのように最終目的を果たした時。

 一つが、俺のように異世界で死を迎えた時。


 是川これかわがどちらのパターンで現実世界に帰って来たかは知らないが。それでもあれだけの事をしでかしたのだ。

 おそらく奴にとって現実世界への帰還という事はそれだけショックだったという事だ。


 楽園からの追放者。

 自分たちの事をそうさげすむ帰還者たちも居る。


「俺の場合、楽園どころでは無かったけどな」


 そうぼやいた時だった。

 呼び出し音と共に、タブレットがスリープモードから目を覚ました。


 ★


「外出許可ですか?」

「おう、是川礼二これがわ れいじが生きていることが判明したんだ。これでお前も大手を振って外を歩けるという訳だ」


 地下暮らしがすっかりと身に沁み込んできた頃に、俺を呼び出した源十郎げんじゅうろうさんは、にこやかな笑みを浮かべてそう言った。


「まぁ、かといっていきなり無制限の許可を与える訳にはいかない。しかし、親御さんとの面会位は許可できる」

「会えるんですか!」


 俺は身を乗り出してそう言った。


「おう、ただしここは色々と危険の多い場所、セキュリティ上一般人立ち入り禁止だ。面会となれば、近場のホテルを利用してもらう事になるがな」


 それぐらいなんでも無い、両親や妹に会えるんだ。

 俺がこんな事になってしまい、散々迷惑や心配を掛けただろう。あの事件の後の学校の事も気になる、話したいことは山盛りだった。


「先方との調整はこちらで済ませてある。後はお前次第だ」

「行きます行きます!」

「ははっ、そう急くな。面会予定は明日の18時。家族仲良く飯でも食って来い」

「はい! ありがとうございます!」

「おう!良い返事だ! ちなみに当日は護衛として恵美えみを同行させる」


 浮かれ上がる俺に、源十郎げんじゅうろうさんは一言そう付け加えた。


「えっ? 護衛ですか?」

「ああ、奴らは中々にしつこいからな。万が一の保険も兼ねてだ」

「それは……アイツらが襲ってくるという話ですか?」


 協議会のオルトロス。奴らの恐ろしさは身を染みて知っている。


「その可能性も否定できんという事だ」


 源十郎げんじゅうろうさんは重い口調でそう言った。


 ★


「おい君、やっと外に出れるんだって?」

「あっ……ああ。そうだけどアンタは?」


 俺はニコニコと話しかけて来た男にそう返す。


「やぁ、これは自己紹介がまだだったね。僕は三崎信二みさき しんじ、君と同じく異世界よりの帰還者さ」


 彼はそう言って右手を差し出して来た。


「ああ、そりゃどうも。俺は――」

「はは、君の事は良く知っているよ。君はここじゃ有名人だからね」

「んー、ん?」


 有名人と言われても、何か大それたことをしでかしたわけじゃない、しとやかな日々を過ごしていただけなのだが。

 そんな顔をしていた俺に、彼はこう言った。


「君のスキル、スキル無効化スキルは、僕たち帰還者にとって天敵とも言えるスキルだ。そんな危険人を無視しておくお人よしばかりでは無いって事さ」


 彼は目を鋭く光らせながらそう言った。


「んな大したスキルじゃないぜ? 年下の女の子に腕十字決められる程度のスキルだ」


 あれは痛かった。肘がもげたかと思った。


「ははっご謙遜。僕みたいなありふれたスキルを持つ身には羨ましいばかりだよ」

「ありふれたスキル?」

「ああ、僕は和風ファンタジーの異世界へ転移してね。そこで陰陽師の真似事をやっていたんだ」

「へー、和風ファンタジー」


 鬼や妖怪が跋扈していて、侍、忍者、陰陽師が活躍するような世界だろうか?


「その世界で僕は陰陽師として動いていた。けどまぁ最後は大蜘蛛にやられて死んじゃったんだけどね」


 おお、それは親近感がわいてしまう。俺も最後は死亡エンドだった。


「そうかー、あれはしんどいもんなー」


 俺は万感の思いを込めてうんうんと頷いた。

 人間死ぬのは一度だけで十分である。


「はは、君も最後はそうだったのかい?」

「ああ、俺の場合も巨大モンスターに食われる最後だったよ」


 全身を貫く槍のような奴の触手。

 はりつけにされた俺は奴に一飲みにされた。

 あの時の怒りと無念はきっと晴れる事はないだろう。


「それは災難だったね」

「まぁお互い様という事で」


 俺は苦笑いをしながらそう答える。


「ところで、話しは本題に入るけど。僕も君の護衛として当日はお邪魔することに決まったから」

「え? 本当か?」


 あのオルトロスが出て来る可能性が零でない以上、人員は大いに越したことはない。

 しかもそれが、俺と同じ境遇だった奴なら信頼感はひとしおだ。


「それはありがたい頼りにするよ」

「はは、何事も無ければそれに越したことはないけどね」

「ああ、同感だ」


 あの世界に行ってから、平和な日々の重さというものがどれ程貴重な事なのか嫌というほど味わった。

 もう化け物の肉で命を繋ぐ生活はこりごりである。


「はは、それじゃあ当日はよろしく頼むよ」

「ああ、こちらこそ」


 中々に爽やかで礼儀正しい男。それが彼に抱いた第一印象だった。


 ★


 そして面会の日。

 その日は朝から雨が降っていた。

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