第16話 解放戦線での日常1
「どうも
「よろしい、時間通りですね
この、やや茶色がかった髪を後ろで結い上げた目つきのきつい女性は
彼女には、ひとり息子がいた。だが、その子は帰還者となり、協議会に処理されてしまったという過去を持つ。
一通りの検査を受けたが、健康面では異常なし。ただ……。
「理解不能ですね。かと言って下手に触ると何が起きるのか分からない」
問題は俺の腹の中にある謎の臓器の事だった。
「俺、あっちの世界で謎の化けもんの肉を食っていたからそれが原因でしょうか……」
「あり得ません。他生物を摂取したから、その生物由来の臓器が発生するなんてことがあれば、人間に鰓が生え、翼が生える事になります」
「そうですよねー」
そんなお手軽キメラ製造体質なんて御免である。
「ですが、そこは現実世界の常識が通用しない異世界です。その事も覚悟しておかなくてはならないかもしれません」
それは御免こうむる。奴らみたいな化け物になるくらいなら死んだ方がましである。
★
「力が……消えるですか?」
サンプル数が少ないので確定事項という訳ではないが、実際に力を失って一般社会に戻ったり、そのままここで働き続けているスタッフも居るそうだ。
彼女の感想としては、『エネルギーの補給なしに力を使い続ける事によるガス欠に似た事ではないか』という事だが。検証実験も行えない以上あくまでも机上の空論という事になる。
納得できる説だが、心情的にはどうだろう。
俺の様に望まない世界に飛ばされてしまった人間ならばそれでもかまわないが、
「力が……消えるか……」
それは俺にとって望むべきものなのか、それとも……。
★
様々な事を考えながら、ひとり通路を歩む。
来たばかりだというのに、何故だか安心できる場所だ。
(地下での集団生活なんて、あのコロニーを思い出すからかな?)
まぁ、色々な意味であそことここでは大違いだ、あそこでは何もかも不足していたが、ここではあらゆるものが充実している。
「ん?」
ちらりと、視界の端を何かが横ぎった。
「あれ……は……」
俺は妙な胸騒ぎを覚えて、その影を追う。
「あれは……」
感じるのは強烈なデジャヴ。
ピリピリと頭に走る稲妻のような感覚。
「ちょっと、ちょっと待って!」
白兎に導かれるアリスの様に、通路を進んだ先にその少女はいた。
「君……は……」
それは、まるで雪の妖精のような少女だった。
真っ白な髪を腰まで伸ばし、くりくりとした目でじっと俺の方を見上げていた。
「あの時の……」
初めて見る少女、だが、俺は確かに幾度となくこの少女に会っていた。
夢の中の少女。
俺はついにその少女と出会えたのだ。
「
「
「ん? ああ、紹介がまだだったわね。この子は
「
「しっつれいな! 私はそんな年じゃないわよ!」
「こほん、この子は
「特別って……」
「そう、特別。私たちが
「予知能力?」
「そうよ、この子は生まれついての超能力者なの」
★
その団体は、国家転覆をもくろむテロ組織として、
ともかく、その団体が潰された事で、彼女は鳥かごから解き放たれた。
とは言え、まだ翼も生えそろっていない少女だ。一時預かりという事で
「まぁ今では、歳の離れた妹って感じよねー。もう
「そうか……色々あったんですね」
「まーね、色々あったのよ」
「あー、なんだ。ありがとうね
俺はそう言って手を伸ばす。
すると、彼女は小さな手で俺の手を握り返してくれた。
「あらっ、
「そうなんですか? まぁ初対面……という訳でもあるような無いような?」
何しろ夢の中では何度も面会? してるんだ、初対面という気は全然しない。
「まぁいいわ。けどいくら
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます