ギリギリな私たち(なんにしろ年齢)とギリギリな組織(なんにしろ人材)のギリギリな事情
OP
OP ――佐々木・彰示の述懐――
妹よ。君の大学生活は順調だろうか。
郊外に大きなショッピングモールができて、車を運転する機会が増えたそうだね。成長著しいあの町で、楽しく頑張っているのだろう。
兄さんのほうは、先日に三十歳の誕生日を迎え、
「そんな……ササキさん……!」
地元の繁華街で、地酒で満ちた升を片手に、正義の魔法少女と相対している。
欠けた月の下で目に涙を湛えて震える姿は、少女というには肉付きがよく、衣装が小さいためか色々はみ出しているという、なかなか危険度の高い、一般的な魔法少女のそれだ。
振り返って俺はというと、会社帰りの安物スーツを翻しながら、マスク代わりにコンビニ袋をかぶり、升を持つ逆手には、杖代わりの一升瓶を握りしめている。
もうわかっただろう? 恥ずかしながら兄さんは、
「どうしてこんなことに……!」
悪の秘密結社の幹部になったんだ。
言いたいことはわかるさ。ご近所の目が、親戚の目が、だろ?
「一緒に立派になるって約束したじゃないですか……!」
けど、考えてほしい。
詳しくは話せないけれども、こんなアウトローな仕事だって必要としてくれている人は、必ずいるんだ。
一介の工場事務員の冴えない俺が、誰かのために活躍できる。
降って湧いた話だけれど、頑張ってみたいと、頑張っていきたいと、そう思う。
だから、本日の『酒を飲ませたうえで飲酒運転撲滅』作戦で用意された高級地酒瓶『ドリーミング☆パイラー~純米大吟醸~』を構えて見せるんだ。
「目を、目を醒ましてください……!」
ああ。
彼女は、俺の元相方になる魔法少女『ファニー・サイネリア』だ。
四月に出会ったばかりで、まだ一か月ばかりの付き合いだけれども、たくさんの困難を乗り越えてきた大切な相棒で、その恵まれた体で『俺のパイルをバンカー』させようとしてくる、
「こんなこと……こんなことって……!」
今では彼方此方に別たれた、恐るべき『きょうい』だ。
何を考えて、何が嫌いで、そして何を望んでいるか。
彼女とは十二の歳の差ではあるが、これまでの付き合いでかなり分かり合えていると思う。たくさん怒られもしたしね。
だけど、今は敵味方。
「ササキさん、私は……!」
「サイネリア・ファニー……情けない顔をするんじゃあない」
あの子は未だ、現実を認めたくないようだ。
ならば、それを突き付け絶望させるのも、秘密結社の幹部の仕事である。
後ろめたさはあるけれども、今の俺は『テイル・ケイプ』の幹部。柄じゃないが、幾人もの部下を引き連れる責任の重い立場にあるんだ。
「ジェントル・ササキ! 預かった樽は残り一つですぜ!」
全身ラバースーツに猫のしっぽを生やした、戦闘員A『兼』鷺舞会館職員の山中・修平さん。ぽっこりとしたビール腹がチャームポイントだ。
「ジェントル・ササキ! 向こうの酔っぱらいは介抱しときましたぜ!」
全身ラバースーツに猫のしっぽを生やした、戦闘員B『兼』鷺舞会館職員の木内・正さん。やはり、ぽっこりとしたビール腹がチャームポイントだ。
「ジェントル・ササキさん! なんで、野次馬の皆さん、アタシの前に集まるんスか?」
全身ラバースーツに猫のしっぽを生やした、現役女子大生『兼』バイト戦闘員の
そんな『レーティング:ハードコア』な元相棒と現部下を前にした俺はというと、
「ササキさんのそんな姿なんか見たくなかったです……!」
どうしようもなく『しんどいタイプのスクワットの姿勢』不可避だし、
「こい、サイネリア・ファニー! 俺はもう『下着のストックが汚れとかじゃなくて物理的に必要』の一歩手前だぞ!」
「ササキさんのそんな話も聞きたくなんかなかったです……!」
彼女に『認めたくない現実を突きつける』ことだってする。
絶望の表情で、サイネリア・ファニーが叫ぶ。
「どうして、そんなことになってしまっているんですか!」
「胸を張れ、サイネリア・ファニー! 七割方は君の仕業だ!」
「改めて聞きたい言葉ではないですよ!」
妹よ。
兄さんは、今すごく充実しているよ。
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