第61話「フォート・ラグダ攻防戦(援護)」




 長距離狙撃仕様にした火縄銃『那由多なゆた』は、銃身長が約4mという化け物クラスの長~い銃身を誇る。

 長距離狙撃可能足らしめるためだが、…弊害は当然ある。



 まず、


 取り扱いの困難さ、

 再装填にかかる時間の長さ、

 目立つことこの上なさ・・・・・



 と、

 隠れて獲物を狙う猟師としては、致命的な欠点がいくつも上げられる。


 それを克服し、活用して見せるのが猟師としての腕の見せ所であり、斥候スカウトとして働いたバズゥの腕の集大成しゅうたいせいでもある。



 取り扱いの困難さは、訓練で──

 再装填と時間短縮は、工夫と慣れで──

 目立つことを避けるのは、地形の活用で───



 バズゥは、既にどれも習熟している。


 特に地形を活用したことで、目立つことはほぼないだろう。

 崩れた農家はバズゥの身を完全に隠してくれた。

 狩りに置いて身を隠し…狙撃できるポイントを見付けることは、狩猟成功への、基本中の基本だ。

 故にこの場所にいる限り、早々と狙撃地点を割り出される恐れはない。


 それよりも、馬鹿長い銃身故の取り回しの困難さと、それに伴う装填時間の長さが厄介だ。


 ブンブンと銃身を振り回すには狭いし、障害物が多い。4mもの銃身をズラして火薬と弾丸を入れて槊杖かるかで突き固める動作も──ある程度の空間が必要だ。


 この崩れた農家まわりでは少々手狭てぜまだ。


 それでも、やり様次第。


 完全に屋内というわけでもない。

 あくまで家屋を影にしているだけなのだから、空間に余裕はある。


 あまり目立つ動きをすると、バレる危険があるため、基本──動きは最小限にしなかればならないので、派手に猟銃を振り回しての装填は控えるべきだろう。


 そのために、一発一発はどうしても時間がかかる。

 今の感じだと恐らく一発当たりにかかる時間は、早号はやごうを使用して30秒から1分程度。

 スキルを使用してもさほど影響はない。


 うん…悪くない。

 致命的に遅いわけでもない──充分だ。




 さぁて、稼ぎ時だぜ!




 目標は、

 正門に群がるキングベア達。

 一匹金貨50枚の賞金首だ。


 これで稼がない手はない。



 撃てしやまん!



 我が愛銃よ!

 いとしき猟銃よ!

 

 キナと、俺たちを救っておくれ!



 フーー、スッ……──


 装填の終わった「那由多なゆた」をピタリと構えると、今まさに正門に掴みかからんとしているキングベアに目がけて──────発砲!!



 ズドォォォォン!!



 反響する発砲音は、キングベア達自身は自らの立てる騒音と破城槌のごとき体当たりに紛れて、そう簡単には気付くことは無いだろう。


 さらには、城壁上にも動きがある!

 

 それに目を向けるまでもなく──

 ブッシャ!! と、潰れた頭部は『王』や『妃』ほどに頑丈ではないらしい。


 ドゥ…と、倒れ伏した兄弟にキングベアは不信を感じるものの、頭上でやかましい人間の仕業と判断し、バズゥの存在に思いもよらない。


 既に『王』を失ったがゆえに、烏合の衆なのだ。


 統率する者がいなければ、愚直に命令を遂行するのみ。

 まぁ…それが為にフォート・ラグダの正門は陥落寸前なのだが…


 しかし、フォート・ラグダとて黙って手をこまねいているわけではない。

 城壁上に集まった兵の手には、人類叡智の結晶──小銃がある。

 それは、街中で武器をかき集めたのだろう。

 まるでバズゥの銃声に、かぶせるかの如く、


 その射撃に遅れる事ほんの数瞬の後───


 パパッパパパパパッパパパパパン!!!


 王国軍の正式採用している小銃が火を噴く。

 銃列を引いたそれは凄まじく強力で、即死には至らないものの、キングベアの勢いを見る間にいでいく様が見えた。


 それでも悲しいかな───


 対人兵器に特化した、軍の小銃は威力がやや乏しい。

 生産性と対人を考慮しているため、口径は人が殺せるサイズでしかない。

 それでも強力であることには違いないが、バズゥの猟銃に比べると威力は明らかに劣る。


 だが、銃士が揃っているのだろう。

 存外、連射力も集弾も悪くはない。

 

 数を重ねれば倒せるかもしれない。


 チ…

 やるじゃないか。


 これじゃ、俺の獲物が減るな。


 フォート・ラグダからすれば必死の防戦だろうが、バズゥからすれば稼ぎどころ。

 別にフォート・ラグダに滅んでほしいわけではないが、それよりも家族のことが大事なのだ。

 

 自己中と言われてもいい。

 今は金が必要だ。


 少しでも、稼ごうとさらに狙撃を続けるバズゥの見つめる先で───


「おいおいおいおいおい!!」


 城壁上をゴロゴロと転がるのは……た、大砲?

 見れば、どこかで見覚えのある女性が指揮しているではないか。


 ありゃぁ、フォート・ラグダの…ヘレナ?

 冒険者ギルドのマスター、ヘレナ・ラグダか!?


 女傑じょけつといった有様ありさまを隠すことなく、王国軍そっちのけで大砲の指揮。


 遠くで見ていても危なっかしい。

 大体どこを撃つつもりだよ!


 あの女…───

 わかっているのか?

 自分が何をしようとしているのか…


 っていうか王国軍は、バカしかいないのか!?


 誰に知れるとなく焦るバズゥの目の前で、たどたどしい・・・・・・動作で砲弾を準備し、発射準備を整えていく兵士達…

 その砲身がギギギと水平になり…




 よせ!!



 

 バズゥは思わず止めたくなるような行動…

 あろうことか、素人集団が大砲を扱い…火の付いている信管を詰めた炸裂弾を装填、


 砲身を真下に向け・・・・・・・・る───


 ば、

 バカ野郎!!



 ……


 …


 ッ───

 


 ドスンと炸裂弾が砲身からこぼれ落ちる。

 発射したわけではない。


 ストッパーも何もない状態で、弾を入れた砲を下に向ければ…そりゃ落ちるわ!!!


 ゴンゴロロ…ドスンと落ちた砲弾。

 たまたまそこにいたキングベアが、「なんだこりゃ?」と爪で掻く、


 その瞬間…ジジジジジとくすぶっていた信管が内部の火薬に到達───



 ドッ!! ゴォォォォォォォォン!!!!!!!!



 ズズズズズズズズズズゥゥン──────!



 と、バズゥの潜伏位置まで爆発の振動が響く。

 崩れた農家の屋根の一部がさらに崩れるほどだ。


「あの、アホども!!」


 素人が大砲なんて扱うものじゃない! ましてや、仰角ぎょうかくを付けて発射することが想定された大砲を、真下に向けるなど無茶にも程がある。


 おかげで城壁真下で大爆発。

 

 流石さすが至近弾しきんだん程度で崩れるほど城壁はやわではないが…

 一頭のキングベアを粉々にした代償として───正門の蝶番ちょうつがいが外れようとしていた。


 かんぬき以上に、正門の巨大な蝶番も限界に達しようとしていたのだ。

 それが、たった今の爆発の余波で基部が揺らいでいるらしい。


 それを好機とみたキングベアが正門に殺到する。

 奴等は、爆発如きでビビる玉ではない!!


 間の悪いことに、

 爆発の影響で城壁上の兵は一時的に退避しているようだ。



「くそ!」


 援護を! と思い、銃を構えて撃つ。

 

 ズドォォォォン!!


 ───再装填…


 ……


 …


 ズドォォォォン!!


 ───再装填…


 ……


 …


 いくら正確無比に射撃したとて、数の暴威ぼういの前には用をなさない。

 殺到するキングベアの圧力に耐えかねた正門が悲鳴を上げている。


 大砲の射撃にあわせて退避していた兵が戻り、再び小銃を構えた。


 

 パンパンパンパパパッパパパッパンッパンッパン!!



 城壁上の兵士が射撃を始めるが、もうあれ以上はもたないだろう。

 離れたここにもギシギシと正門のあげる悲鳴が聞こえるようだ。


 そして城壁上には性懲りもなく大砲が運び出されて───いや……、ヘレナのやつなにをするつもりだ?


 幾人かの兵を指揮して点火した砲弾を準備…投げる!


 おいおいおい、

 うぉぉぉい!?


 殺到するキングベアの集団に向かって、信管付きの砲弾を投げ込む。

 大砲ではなく、手投げ弾として使おうというのだ。


 威力は絶大だが、諸刃もろはつるぎでもある。

 至近距離での爆発は、対爆構造になっていない正門や城壁にかなりの損傷を与える。

 城壁も今でこそビクともしていないように見えるが、その内部にはダメージをため込んでいるはずだ。


 城壁の構造は一見すれば、総石造りに見えるが、その実…中身は土などを裏籠うらごめしているに過ぎない。


 表面の石壁の部分が崩壊すれば、内部にめられている土の部分が一気に崩れる恐れがある。

 そして、爆発によるダメージは着実に蓄積されていた。


 だが、素人ぞろいの防衛戦力にそんなことを考える余裕もないらしい。

 炸裂弾の威力に心を奪われているのだ。



 キングベア達の鼻先に転がるいくつもの炸裂弾。

 そこについた信管が、ジジジ…と炎をくすぶらせると───






 ズッッッッッドドォォッォォォォォォオオオオオオン!!!!





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