第223話ーーモテない僻みではありません

『不審者ホイホイ』


 これが最近の俺のあだ名だ。

 まぁ不審者というか、明らかに宗教団体の下っ端勧誘員なんだけどね。

 ただ俺と知って声を掛けてきている訳ではなく、シーカーと見て声を掛けてきているって事だけがまだマシなところだけど。

 どうやら俺が思っている以上にダンジョン教は勢いがあるらしい。

 ただその勧誘には少々強引なところもあり、少し問題視され始めてもいるようだ。

『ダンジョンで死にたくなかったら、我が教団に入って願えばいいだろう』

 と、ダンジョン前で大きな声で謳っていて、気の弱そうな人間や少しでも興味を持っているっぽい人間を見つけると、大勢の教団員で囲んで説得……説得というか洗脳しようとするのだ。

 そんな彼らになぜ俺が声を掛けられるか?

 俺としては、きっと人の良さが滲み出ているんだろうな〜なんて思っていたんだけど、どうやら違うらしい。

 何が違うのかは、師匠たちどころか香織さんも教えてくれなかったけれど、とにかく人が良さそうとかだけでは絶対にないと声を揃えて言われた……納得がいかない!!

『入信すれば、神から与えられるドロップが良くなるだろう』って言葉にほんの少しだけど心が動いたのは否めない事実ではあるんだけど……

 だってここ最近での宝箱の中身があまりにも酷かったんだよね。7つ見つけて、今日は幸運だぜなんて思っていたら中身が全部スケルトンの骨とか……ちょっと運が良くなりたいって思うじゃないですか!?


 日本は伊賀や甲賀を初めとした、迅雷の元になっている様々な古から武を持つ集団が、それそれが武具やポーションなどのメーカーを運営し、日本国内はもとより世界中に輸出販売している。

 その事からどうやらダンジョン教に目の敵にされているようだ。

 曰く『ダンジョンという神から与えられた富を独占している』らしい。

 まだアムリタの出処が俺たちだとは確定出来ていないようではあるけれど、それでも日本国内での発見という事で迅雷の元となっているどこかの流派が絡んでいる事は明白。蘇生薬とアムリタは、確かに古くから人類が夢見る不老不死だ。

 そこで『蘇生薬にアムリタ、それは神が人類に与えた可能性』それを独占して利益を得ている事は許せないって事らしい。

 もうね、ただのイチャモン……結局は自分たちにも寄越せって事にしか思えないし。

 各流派の元には脅迫文に近いお手紙が沢山届いているらしい。一方的に利益を教団へと寄付しろ的な内容だ。

 さすがにそんな要求に従う流派は1つしてないし、そんな団体に引っかからないようにと配下の人間たちへしっかりと言い含めてはいるらしいけれど、風魔や戸隠……最近では甲賀の件もあるからね、そこに明確な利益享受が絡んできたら簡単に転がってしまう人間が居そうで怖い。



 そして現時点で300階層を記録している迅雷が、圧倒的な世界的TOPパーティーとなっている……中国は302階層を記録していたけれど、いなくなっちゃったからね。

 そんな彼らには、あの手この手で近寄ろうとする色んな人間が山ほどいるわけなんだけど、先日のナル森の発言のようにポロっと余計な事を言いかねないという事で、監禁……おっと、修行という名の元に名古屋北ダンジョン200階層にて篭って貰っている……既に2ヶ月ほど。

 ちなみに師匠たちの調べによると、ナル森と噂になった元アナウンサーを初めとして、迅雷各メンバーが付き合ったり遊んだり……遊んだりしている男女数人がダンジョン教に信者だったり、他国の影がチラつく人たちだったらしい。しかも驚くべき事に、迅雷の各メンバーのお付き合いしている平均人数が2人だったとか……更にナル森の相手と遜色ないような有名タレントや女優、イケメン俳優や男性アイドルグループの一員だったりしたらしい。好印象だった東雲さんまでもが46人組の超有名アイドルグループの中の3人と同時進行だとか……。少し有名になったからと言って、全く乱れているというか羨ま……けしからん!!

 で、ですよ。普通そんなに乱れていたら週刊誌とかワイドショーを初めとして、世論が許さないと思うんです、普通。だけど現時点で300階層という前人未到の偉業を成し遂げているとか何とかで、『英雄色を好む』的な感じで許されている感じなのがなんとも腹がたつ。


 俺たちは時折様子を見に行ったりと、地上と200階層を往復しているんだけど、その際にダンジョン前で毎回のように俺だけが声を掛けられるってわけだ。

 いつもなら2ヶ月くらい籠りっきりなんだけど、世界の情勢が情勢だけに師匠やじいちゃんが情報収集に忙しいのが理由だ。あとは迅雷だけで200階層にて修行させるのと、俺たちがいつも迅雷と一緒に深層に潜っているわけではないと他者に見せつけるってのもあるらしい。


「あっ、イケメン上司さんどうもです。ブサイクですみません」

「ヒッ……」


 これはもちろん俺とナル森の会話である。

 どれだけ嫌味を言っても、怯えるばかりで明確な謝罪は頂いていない。

 でもテレビで見た時の怒りに任せてボコボコにはしていない。いや、潜る前に一緒になった時にはしてやろうと思ったんだけどね……


「一太くんが怒っているのは、3股している事が羨ましいからなんじゃないの?」


 なんて香織さんが冷たい眼差しで言うもんだからですね……


「そんな訳ないじゃないですか!!」


 と、いくら否定しても「ふーん」とか「へー」って返されるだけなので、怒りに任せてナル森をボコボコに出来ないというかなんというか……

 脱毛剤はまだ開発されていないし、ボコボコに出来ないしでどうしてやろうかと悩んだ結果、逆に毛生え薬を全身に掛けてやりました……戦闘によって怪我を負ったナル森にポーションを掛ける振りをして間違えた体で。

 ククク……眉毛に耳毛、髭に鼻毛に指毛やすね毛、あらゆる所の毛がモッサモサに生えて大変な事になっている。

 どこの山賊だよって風貌になっているぜ、いい気味だ……振られてしまえクソ野郎!!


「あんた、そういうところがモテないんだよ」

「えっ?どどどどどういう事ですか!?」

「仕返しがこう陰険というか……」

「……」


 じゃあどうしたら良かったんですか!?

 俺のこの怒りをどこへやったら!!


「やっぱり3股への僻みだったんだ?そんなにモテたいんだ?機会があったら狙ってる感じなんだ?」

「ち、違いますよ!!」

「ふーん」


 鬼畜治療師の発言のせいで、香織さんにまた冷たい目で見られたじゃないか!!

 本当にどうしたらいいんですか!?


 全部ナル森のせいだ!!

 絶対に許さん!!






―――――――――――――――――


https://kakuyomu.jp/works/1177354054897472611


新作始めました。


『殺されかけたら異世界に転移出来るようになっていました(仮)』


題名はまだ決まっていないという見切り発車感(笑)

内容は題名通りですが、若干暗いし、胸糞悪いかも……💦


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