第220話ーー頭が高いようです

 順調に進んでいる。

 現在はあの巨塔らしき物を終点とすると3割くらいだろう。

 海中のモンスターは、通常海にいる生物に似たものが多い……例えばサメだとかシャチだとかね。あとはいつも通り半魚人やセイウチが陸海にいたりもする。地上はシロクマやペンギンとかが多いかな。ただ人魚さんはいない模様だ……少しだけ残念。まぁ居たら居たで色々問題になりそうだからアレだけど。


 まぁそんな感じでモンスターには大した問題もなくサクサクと進んではいるんだけど……問題は俺たちの後方にある。500mほど後ろから10人ほどのロシア人が着いてきているのだ。


「アレはなんのつもりですか?」

「わからん。わからんが考えられる可能性としては、ボスを倒した所で我らを襲って利を掠めとる事を考えているか、我らの手の内を知るために着いてきているのだろう」


 大量の分身たちは水面下にいるけれど、彼らは潜る気はないようなので見つかる恐れはない。だから手の内を探られても困ることはないし、もし襲って来たとしても先程見た感じの相手だったら返り討ちに出来るとは思うんだけど……面倒くさいし鬱陶しい。

 あっ、いい事思い付いた!

 彼らも着いてくるだけではつまらないだろうから、分身たちに命じて水陸両用タイプのモンスターたちを追い込んでロシア人の元に差し向けよう、そうしよう。


 上手くいったようだ。

 現在後方では、歓喜の声をあげて踊っているようだ……銃撃音とかするけれど、あれはきっと喜びの音だろう、うん。

 あっ、なんか人が減ってる……無理なんだったら素直に逃げればいいと思ったんだけど、そういえば彼らを囲むようにモンスターを配置したんだったっけ。まっ、ダンジョンの中には覚悟して彼らも入ってるんだろうからいいよね……俺たちが入る前に彼らが下卑た目で香織さんを舐め回すように見ていたのを俺は許さないからね。


 後ろは片付いたので、あとはダンジョンをクリアする事だけだ。そしてここまで出てきたモンスターには一切苦労する事なんてなかったから、少々油断していたんだと思う。

 7割ほどまで進んだ時だった、前方に見えていた青っぽい塔は全長100m以上の巨大な人だったのだ。それはギリシャ神話に見るポセイドンと呼ばれる海神の姿によく似ていた。

 ボスとして現れた海神、そして恐ろしいほどの巨体に驚いていると、象徴でもある右手に持ったトライデントをそのまま上へと持ち上げ……ドンッと音を立てて地面へと下ろした。

 きっとそれはただの衝撃波なのだろう……細かな氷を含んだ風が押し寄せると共に、氷が津波となって俺たちを襲ったのだ。地上にいた俺たちは衝撃波な耐えつつ飛び上がる事で津波を回避したが、海中にいたほとんどの分身たちは衝撃によって生まれた海流に押し流され……そして氷の塊に潰され消えた、モンスターと共に。


「これは……思った以上だな」

「ふむ、ジャンケンなぞしている場合ではないかもしれんの」


 師匠とじいちゃんが共闘の必要アリ的な事を言っているけれど、その目は明らかに嬉しそうだし、若干2人で先に行かれないように牽制し合っているようにも見えるんだよね。


 まぁあれだけ大きいと、接近してしまえばただの的のような気がしないでもないな〜なんて思っていたら、どうやらそんなに甘くはなかったようだ。

 ポセイドンが今度はトライデントを持ち上げこちらへと振ると、全長5mほどの半魚人が数百匹ポセイドンの足元に現れたのだ。通常の半魚人の攻撃は水や氷魔法であったり、手に持った鉾を振り回してくるのだが、現れた半魚人が持つ鉾からは雷が迸っているように見える。

 そして更に予想外の事が起こった。

 またポセイドンが地面にトライデントを打ち付けたのだが、それによって起こされた氷の津波に現れた半魚人たちが乗ってこちらへと向かって来たのだ。そして接敵すると共に鉾を振り回しつつ雷を放ってきた。更に恐ろしい事に、ポセイドンはこの1連の流れを繰り返すようで、トライデントを振って半魚人を出現させては津波を起こすらしい。うどんによると、やはりポセイドンを倒さない限り無限に続くとの事だった。


 半魚人は攻撃が違うだけで、そこまで硬い表皮を持っているわけでもなくて余裕を持って倒せはするのだが、いかんせん数が多すぎる。倒しても倒してもどんどんと現れる……相手にするのを止めて空を駆けて行こうとしても、半魚人もジャンプしたり雷を放ってくるので簡単に抜けないのだ。


 後ろにロシア人たちが追ってきていない事を確認しつつ分身たちを地上に投入して倒しまくりつつ、少しつづ前方へと歩みを進めているが、ポセイドンの攻撃が始まってから既に3〜4時間は経っているはずなのに、まだ全体の8割にまでしか到っていない。

 とにかく半魚人が多いし、共にやってくる氷の津波が厄介だ。それになんだが近付くに連れて、ポセイドンの一連の動作にあったインターバルが短くなっている気がするんだよね。

 えっ?魔法系のスキルを合技でぶっ放せばいい?うん、もちろんやっているんだけどね、衝撃波に相殺されて消えてしまうんだよね。そして若干いたちごっこ的な感じになっている感じ。

 あとロンとつくねにはとっくに刀へと変わって貰ってはいるんだけど、どうやら半魚人は雷と氷の耐性があるようで思ったほどは削れていない。


「横川、前方だけに炎獄を放て」

「了解です!!」


 俺ももうそれしかないような気がしていました!!

 なので全員に下がって貰って炎獄を放つ……練習したかいがあって、今や望む範囲だけに、そして自分の体内魔力の残りがわかるようになったから、昔のように後で倒れるような事もない。まぁうどんが余計な事をしないのと、すぐに分身たちに回復させるのは前提条件だけどね。


 スキル発動と共に、半魚人たちは消え、俺たちの乗っている流氷も海水も全て干上がった……が、ポセイドンの足元にある氷は消えないどころか、スキル発動を止めた瞬間からどんどんと氷の範囲が拡がり俺たちの元まで氷で埋め尽くされた。

 結局炎獄スキルで出来たのはうじゃうじゃといた半魚人どもを消し去っただけだった。


「チッ!……一気にポセイドンの足元まで走るぞっ!!」


 新たな半魚人を召喚される前に、俺たちは全力で走る。

 だがまたしても予想外の事が起きた。

 それは9割に到った時、半魚人を召喚すると共に空から直径3mほどもある氷の塊が俺たちへと降り注いだのだ……隙間なく。


 刀で降り注ぐ氷塊を斬り弾きつつ、先を急ぐ。

 上空からは氷塊、地上は半魚人の群れ。息をつく隙さえない中前へ前へと進み、2時間ほどかけてようやくポセイドンの足元近くへと辿り着く事が出来た。


 正直久しぶりにと言っていいほどに苦労させられたボスだ。果たして全員で掛かってどこまで通用するのか?倒せるのだろうか?なんていう不安が押し寄せた……


「頭が高いわっ!!」


 じいちゃんが吠えながらこれまでで1番のスピードでポセイドンの足の間を通り過ぎながら刀を振り……後方へと回ると飛び上がり背中を蹴った。


「ヴオオオオオオオオ!!」


 ポセイドンは声ならぬ声をあげながら前のめりに倒れてきた、足首だけを残して。


「では首を貰う!」


 今度はじいちゃんより1拍遅れて走り出していた師匠がそう叫ぶと、前のめりに倒れてきたポセイドンの首へと飛び上がりながら刀を振り抜いた。

 師匠がポセイドンの背中へと消えていった数秒後、大きな地響きとそれによって起きた衝撃波を耐えたそこには、自重によって沈み込んだ首のないポセイドンと、カッと目を見開いた頭が所在なさげに転がっていた……生物とは思えないような真っ青な血を撒き散らしながら。


 どうやら俺の不安なんて、師匠とじいちゃんには関係なかったみたいだ。

 

 あれっ?

 手合わせで追いつき始めたって思っていたけれど、もしかしてまだまだ遠いのかな?

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