第219話ーープライベートジェット

 各流派は政財界に結構な顔が効くというか、影響力があるみたいなので、そちらからちょっかいを掛けてくる阿呆議員へと圧力なりを掛けて黙らせる事は出来ないのかな?っていうのが素直な感想だったんだけど、その疑問はじいちゃんの一言で片付けられた。


「国益公益よりも私益しか考えられん者が、悲しい事にかなりの数の議員がおるんじゃよ」


 どうやらそういう事らしい。

 選挙期間ともなれば、爆音を鳴らして選挙カーを走らせて、国のため皆さんのためにと連呼しているのに、結局は私利私欲のためって事のようだ……まぁ全員が全員ってわけじゃないんだろうけどさ。

 選挙率が年々下がっているからどうだとかよく問題になっているけれど、そりゃあ行きたくもなくなるって思うよね。


 最近はちょっかいを掛けて来ているのはアメリカが多いみたいだけど、以前絡んで来たロシアが静かなのは怖いな〜なんて思っていたら、ロシアは現在それどころじゃないらしい。まぁロシアだけではなくて中国と国境が隣接していた国のほとんどがそれどころじゃないって話だ。どうやら中国の隅の方……つまり国境付近にあるダンジョンではモンスターが溢れ出して問題になっている所が少なくなく、ただでさえ実験体などの相手に忙しいのに溢れ出てきたモンスターでてんてこ舞いらしい。ただインドだけはまだ余裕があるみたいだけどね。


 そんな事を思っていたのがフラグとなったのか、ロシア政府から内々に日本政府を通して一全へと支援要請が入った。2ヶ月ほど前に色丹島に突発型ダンジョンが発生し、腕に覚えるのある住民が数十人潜ったまま帰って来ていないそうだ。日本政府としては、この機会をもって北方領土の返還交渉を一気に進めたいと考えているようで、政府中枢の役付き議員が一全の本部に頭を下げに来た。

 国益のためって事で、師匠たちはやる気に満ち溢れているけれど俺はあんまり乗り気じゃない。理由は頼みに来た議員の目が……ね。話し合いの場には俺は居なかったんだけれど、廊下ですれ違った時に値踏みするような感じで見てきたんだよね……俺と香織さんを。でもそれはあくまでも俺の感想だし、内容は国益に適う事だから行かないという選択肢もない。それにこのまま名古屋に居て自称両親と面会し続けたりするのも嫌だしね。


 今回はさすがに遠いので新幹線や車で行くという事はないようだ。ではどうやって行くのかというと、噂に聞いていた探索者協会の持つプライベートジェットで根室中標津ねむろなかしべつ空港まで一気に飛び、そこからは船で渡る事となった。

 そのプライベートジェットなんだけどさ……個人用の飛行機っていうだけで、仲はジャンボジェットを小さくしたような物なんだろうって想像していたんだけど全く違った。まるで高級クラブのような高価なソファーが並んでいたりしたんでビックリした。師匠たちに聞いたら、プライベートジェットは所有者の趣味が大きく反映されるらしい。


「気になるなら所有したらどうだ?」


 なんて師匠に言われたけれど、そんな簡単に買う物じゃないと思うんだよね。

 えっ?ピンキリだけど100億も出せばめちゃくちゃいいのが買えるし、年間維持費も1〜3億円で済む?

 意外に安いですね……って、いかんいかん少し大金を得てしまった事により感覚がおかしくなってる。

 というか、実際問題としてプライベートジェットなんか購入しても、乗る事はほとんどないと思うんだよね。それにだいたい香織さんなんて政府から渡航制限が掛かっているわけだし。


 ちなみに今回はパスポートを必要としていない。そもそも緊急案件や支援要請に限っては、シーカーはビザの取得をほとんどが必要としていないらしい。ただその要請案件の証明書は必要となるみたいだけどね。

 まぁそうじゃなかったら、パスポート取得から始まって色々な手続きしていたら緊急でもなんでもなくなっちゃうもんね。


 根室中標津空港で待っていたのは、探索者協会根室支部の人と、ロシア探索者協会の人だった。案内人って立場らしいけれど、ロシア人の方はどうやら監視や情報収集が目的っぽい。日本語が堪能な人なんだけど、色丹島に移動するまでしきりに俺たちのjobを聞いてきたり、武器は全て魔法袋に入れているんだけど、見せて欲しいから出してくれとかうるさかったし……まぁ師匠がロシア語で「帰ってもいいか?」って強めに言ったら黙ったけれど。


 突発型ダンジョンは色丹島のほぼ中心に存在していたんだけど、船から降りてダンジョンまで移動する間に住民の何人かとすれ違ったんだけど、明らかにガッカリしている人やバカにした目でこちらを見ていた。きっと待ちに待った救援の中に子供と老人がいる事でガッカリしちゃったんだろうね。バカにした目の人も内情は同じだろう。


 ダンジョン入口には囲みが建てられており、中には武装した人たちが10人ほどストーブを焚いて暖をとっていた。そしてまた向けられるガッカリ感と軽視を含んだ目。

 こちらが言葉がわからないと思ってか、「猿が……」とか「わざわざ死にに来たのか?」とかバカにしたり勝手な事を言って笑っていた……うん、本当にムカついたので思わず「帰りませんか?気に入らないようなので」って言っちゃったよね。

 そこでようやくこちらが言葉を理解していると知って、慌てて口を閉じ目を逸らして囲みから出て行った……まぁ香織さんへと向ける視線に下卑たものを感じたから威圧も同時に発してはいたけどね。

 あっ、ちなみにまだロシア語は勉強していないので、うどんたちによる同時通訳を念話して貰ったり、俺の言葉をロシア語で話して貰ったりしていたんだけどね。まぁバレてないと思うので問題なし!!


 ロシア人たちが全員囲いから居なくなった所で武器を装備して突入となった……もちろん分身から。中の様子はというと、海に流氷が山ほど浮かんでいるようだが、入ってすぐに何か問題があるようでもないので全員で突入となった。

 恒例のうどんチェックによると、いつも通りモンスターの殲滅がクリア条件だ。流氷に隠れて見えないけれど、氷の上や下ににモンスターがウヨウヨといるようだ……つまり海中戦って事だね。ただ遠くの空に塔のように建っているのか立っているのかはわからないけれど、青っぽい物が見えるんだよね。かなりの距離があるはずだけど、ここらでも見えるって事はかなりの高さを持っているだろうからかなりの強敵となるだろう……師匠とじいちゃんがこっそりとジャンケンしているし。ただ俺も面会攻撃でストレス溜まっているので、相手によっては2人に後で交渉しようと思う。


 分身を氷の下へと潜らせ、俺たちは地上を進みながらモンスターを殲滅して青っぽい塔を目指す事となった。

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