第215話ーー嫉妬ですか!?
香織さんの攻撃によって崩れ去り……そしてドロップだけを残して消えた餓者髑髏。
そこには、これまでなかった煌びやかな扉も遺されていた……多分宝物庫といった所だろう。
まずは方々に散り転がっている魔晶石を残らず分身たちに拾わせつつ、誰もが疲れた顔をして地面へと座り込んでいる……うどんは何故か自ら正座をしているようだ。
「山岡はどうした?」
「生きていますよ?疲れたそうで……あっ来ました」
「アレは大丈夫なのか?」
ハゲヤクザの噂をしていたら、まるで妖怪たちの術が解けていないかのようにフラフラと幽鬼のようにこちらへと向かってきているのが見えた。
うどんによると、あの身体能力が上がっていた仕組みは、人間が本来持つリミッターを勝手に解除した上に魔力やら精力精神力などを根こそぎ使用していたために、言葉通り精根尽き果てた状態となっているだけだろうとの事だった。
ここで疑問なのは、「うどんよ、お前は人間じゃないだろう?いや、それを置いといても元気じゃね?」って話なんだけど、普段無意識にセーブして行動しているのは人間じゃなくても、理性を持つ生物は全てそうらしい。そしてなぜハゲヤクザのようになっていないかというと、減った魔力はとっくに俺から引き出しているので平気だという恐ろしい答えが返ってきた。本体に攻撃出来ないって……魔力勝手に引き出すのも問題だと思うんだけど……あぁ、それもあって自ら正座か。
「ふむ……では精力剤などを飲ませて休ませて置けば治るのか?」
「はいっ」
「精力剤か……このままにしておいた方が少しは女好きが落ち着くか?」
「根元を絶たれたわけではないので時間の問題ですよ」
「まぁそうか……萎れておるのを見ているのも面白いが……具合も悪いな」
良かった……
女好きじゃないハゲヤクザなんて、ハゲヤクザじゃないからね。奥様たちには申し訳ないけれど。
ただ精力剤なんて師匠は持っていないらしく、後で7000階層へと行った時に今回得た魔晶石で購入しようってなったんだけど……
「精力剤か?儂が持っておるから河童にやろう」
撮り溜めたカメラを取り出し見て、ニヤニヤしながらじいちゃんがそんな事を言い出した。
「おじいさん、どうしてそんな物を持っているのです?」
「……い、いや、こんな事もあろうかとな」
「へー……そういえば先日山岡と夜にどこかに出掛けませんでしたか?」
「な、何を言っておる!婆さんが思っているような事は断じてない」
「私が何を思っているとお思いで?」
ヤバい……
ばあちゃんから今まで見た事のないような魔力が吹き上がっているし。濃密な魔力のせいで向こう側が陽炎のように揺らいで見える!!
ばあちゃんが言っているのは、確かじいちゃんとハゲヤクザが夜の街に出掛けた事だろうね。実は俺も誘われたけれど、その日は香織さんとスペイン語の勉強会だから断ったんだよね。
「婆さんがおるのに儂がそんな不埒な事をする訳ないじゃろう……のう?な、何とか信一と一太も言ってやってくれ」
「「……」」
香織さんの目が凄い冷たい……
戦闘は終わったというのに、何で刀に手を掛けているんですかね?
「その日、じいちゃんと山岡さんに錦に行く事を誘われましたが、僕は香織さん一筋なのでもちろん断りました!!2人には何件か回る事や、内緒にしておく事を言われました!!」
「なっ!な、何を言っておる一太っ!!」
「へーお爺さん少しお話しましょうか……一太や、次元世界を開けておくれ」
「はいっ!!」
「こ、このっ一太!!裏切り者めがっ!!」
「山岡っ!あんたもちょっと来な!!」
じいちゃんゴメン!
グッドラックです!!
俺は自分の身が1番大事なんです!
まだ死にたくないんです!!
ばあちゃんに耳を引っ張られたじいちゃんと、俯いてトボトボと元気なく歩くハゲヤクザが次元世界へと消えた後に残ったのは、恐ろしいまでに冷えきった空気だけだった。
「一太くん、宝物庫開けよっ」
だと言うのに、なぜにそんなに明るい感じなんですか!?
怖いんですけど!!
師匠っ!何で目を逸らすんですか!?
「ほら行こうよ、織田さんいいですよね?」
「あっああ……お願いします」
師匠が怯えた表情で敬語になってるんですけど!?
怖いっ!誰か助けてっ!?
2人っきりで宝物庫に行くのは、いつもだったら喜び勇んでって感じだろうけれど、今はなんか行きたくないと本能が拒否しているのか足が前に進まないのは何ででしょうか!?
腕を掴まれたままに宝物庫の扉を開けて中にある階段を降りて行くと、そこは約20畳ほどの広さがある薄暗い部屋だった。香織さんの魔法により照らし出された宝物は、日本の古今東西の楽器のようだった。物の善し悪しなんてわからないから何とも言えないけれど、きっと高いんだろうな〜って感じだ。あとはいつものように宝石やポーションなどが箱に詰まっていた。
「とりあえず外に出しましょうか」
「そんな事よりもおじいちゃんや山岡さんと良く夜のお店に行くの?」
そんな事よりもと来ましたか……
薄暗い宝物庫の中、ライトが俺に当てられて問われるこの光景は、まるで取調室のように思えるのは俺だけだろうか?
「行った事はないです」
「ふーん……でもさっきおじいちゃんは裏切り者って言っていたよ?」
本当にないんだよね。
ここ最近というか、先日突発型ダンジョンで人魚たちと出会ってからハゲヤクザが「人魚よりも可愛くて綺麗な女の子が沢山いる所に行こう」って良く言ってたんだよね。正直興味はあった……まぁ興味というか行きたかったんだけど、ありがとう運が悪い事に毎回香織さんとの勉強会とかになっちゃったんで行けなかったってのが真実だ。
「多分じいちゃんとしては、男性としてって意味だろうと思います!断じて俺は行っておりません!!」
って、これは嫉妬だよね!?
雰囲気がめちゃくちゃ怖いけど、喜んでいいんだよね!?
「そっか……」
「し、嫉妬ですか!?」
「……一筋とか言っておいてもしそういう所に行っていたなら、これからの対応を考えないとなって思っただけ」
対応を変えるってどうなるんだろうか……聞きたいけど聞けない。もし聞いたら「やっぱり行ってたの?」とか言われそうだし。目が笑ってないし!!
「ヤダナ〜そんな所に行くわけないじゃないですか……じいちゃんや山岡さんと一緒にしないで下さいよ」
「ふーん……そういう割には人魚に喜んでいたみたいだけど」
「いやいやいや、アレは近松さんの穿った見方ですよ?」
「ふーん……」
う、疑われている……
クソー!!
ハゲヤクザとうどんがあんな術なんかに掛かったせいで!!
「か、香織さん、この楽器ってどう使うんですかね?」
「これは雅楽とかで使うやつだね……確かこうやって吹くはず」
香織さんが楽器に口を当てると、神社とかで聞いた事があるような美しい音色が響いた。
「凄いっ!!綺麗な音色ですね」
「ありがと」
よかった……
機嫌直ったみたいだ。
「で、本当のところはどうなの?何回くらい行ったの?」
油断させておいての質問っと……
これまで尋問とかの時に香織さんが立ち会った事はなかったと思うんだけど、いつの間にこんな技を身につけたんだろうか?
この後1時間ほど疑われ続けたけど、何とか誤解は解けたので良かったよ。
気付かぬうちに自ら正座しちゃってたけど……
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