第210話ーーどれほど経験すれば慣れるんですか?
人質となった3人を床に置いて待つのは俺とじいちゃんのみだ。他の人たちは全員外国人の見張りをしている。ようやく師匠と近衛の人と甲賀の頭領と近衛と思われる警護の人4人がやって数十分後にやって来た。
人質3人……まぁ甲賀頭領が興味はあるのは娘さんだけなんだろうけど、それらと引き合わせながら状況の考察を説明した。もしかしたら体内に爆弾が仕込まれている可能性も含めてね。
「な、何故下着姿のままなんだ!?怪我も一切治っていないどころか意識さえ戻っていないとはどういう事だ!?晒し者にするつもりかっ?」
めちゃくちゃ怒鳴りつつ俺を睨んでくるよ……甲賀衆一団が。
確かに怪我して血を流したままだし、上下下着姿のままだ。ただ晒し者にする気なんてなくて、現状を正しく見て貰った方がいいとじいちゃんが判断してなんだよね。
まぁ大事な娘さんの事だから頭に血が上っているんだろうけどさ……ちゃんと助け出したんだから、一言くらい礼を言ってくれてもいいと思うんだけどな。
「ええ加減にせんか……一太は褒められる事はあっても、そのように怒鳴りつけられる覚えはないわっ!拐われた時のままにしておいたのは儂の判断じゃ。それとあまり動かすでないわ、先程の話を聞いておらなんだのか?体内に爆弾を飲み込まされている可能性があるという事を。お主ら甲賀の者だけが爆ぜて肉片に姿を変えるだけなら良いが、ここには他の者もおる事を考えよ」
「クッ!!……襲撃犯はどこにおる?」
「先程から言っておろう、体内に爆弾があった場合に備え無力化した上で離した場所に置いてあるわ」
頭領はまだわかるんだけど、護衛の4人は宥めるわけでもなく一緒になって俺を睨んでくるはどうなんだろう……立場的に出来ないのか、それとも護衛じゃなくて兄妹とかなのかな?
「襲撃犯は全員貰っていく」
「それは出来んな」
「ああっ?うちは被害者だぞ?」
「それはうちもだ、そこに転がっている阿呆の1人は残念な事にうちのだからな。それに伊賀のもおる」
3分の1の襲撃犯を持ち帰るならわかるけれど、全員って…… 何言っちゃってるんだろうか、本当に。
感情的になるにも程があるでしょ。
「俺はお前の所が手引きしてやった事もあり得ると思っている。居場所を見つける速さといい、我らが来るまでにケリをつけていた件。それとここへ向かう途中でお主らは走って向かったが、我らの手の者に追わせたが追い付けんかったのは腑に落ちん」
「下らぬ……お主の所の者が追い付けんのは修練が足りぬだけであろうよ。それに状況は刻一刻と変化しており、あのままダラダラと向かっているようでは間に合わんと判断したから先に行動を起こしたにすぎん」
うーん、感じ悪いな。
しかも自作自演を疑われるとか……
逆にここまで言われると甲賀衆の方が怪しく思えちゃうよ。
すぐ動けるようにか重心落として、片足を引いているのも何だかな〜。これ、今度は同じ日本人同士でやり合う気なのかな?
「やり合う気なら容赦はせんぞ?」
「チッ……織田のよ、ここは引いてやる。だが尋問にはうちの者にもさせろ。後で連絡する」
じいちゃんがあからさまに腰の刀に手を掛けて鯉口を切ったら、一瞬怯えた表情になったけど直ぐに怒りの表情に戻ったと思ったら舌打ちをしつつ娘さんを抱いてドックから出て行った。
「じいちゃんが威嚇しなかったら戦闘になっていた?」
「そこまで愚かではないと思うがの……ただ殺気は出ておったが」
うん、その殺気は俺にだけ向いていたんだけどね。
「信一、何じゃアレは。それといつの間に甲賀は代替わりした?」
「つい最近代替わりしたらしい。俺も今日知った……アレへの対応は後々考えるとして、とりあえずそこの2人を時空間庫にしまってくれ」
流派TOPの代表が代わったのに、他の流派に連絡しないなんてある?
何かますます怪しく感じるんだけど、気のせいかな?
とりあえずは襲撃犯たちを押さえている他のみんなと合流して、襲撃犯たちは少々人数が多くて時空間庫には収納出来ないので、次元世界に大穴を掘って入れて更に影牢を一人一人に掛けてから本部へと戻る事となった。
作業服の一般人の方の死体については警察へと連絡して、極秘理に処理を頼むようだ。どう処理されるのかはわからないけれど、巻き込んでしまった被害者なので師匠たちと共にしっかりと手を合わせておいた。
マイクロバスの運転手である近衛の人1人を置いてみんなで一気に本部屋敷へと転移して、すぐ様時空間庫の中の2人を隣の病院へと運び込んで体内の精密検査をして貰ったところ、予想通りというか……胃の中と耳の奥から不審物が見つかった。手術などをして慎重に取り出したところ、両方ともが受信機付きの小型爆弾だった……ちょうど頭を破壊する程度の規模の。蘇生薬は人の形を保っていないと効かないので、どうやらそれ対策だろうとの事だった。
ついでに襲撃犯全員の精密検査も行ったところ、耳の中と奥歯が強く噛むと反応する小型爆弾が仕込んであった。こちらは捕まった時に他の者が発信機を押して口封じするためと自殺用だろうとの事だった。あと脳内に何か小さな電子機器らしき物が発見されたが、場所が場所なだけに直ぐに取り出したりする事は出来ないために、現状は放置だ。
その後は本部にある地下牢へと襲撃犯を運び込む事となった……15人を。
18名だと知っているのは俺たちだけで、伊賀甲賀に説明してあるのは、迅雷を襲った5名と東山動植物園で俺と香織さんに接触して来た10名の合わせて15名だけだ。もし差である3名の事に甲賀が言及したとしたら、それは即ち甲賀が手引きした可能性が高くなると判断出来るためらしい……つまり師匠とじいちゃんも甲賀の態度から疑念を抱いているという事だ。
地下牢に初めて入ったんだけど……うん、正しく地下牢って感じの場所だった。そこは道場横の物置小屋の奥が隠し扉となっていて、まるで忍者屋敷のようにいくつかの手順を踏むと壁がせり上がり、更にまたいくつかの物を動かしたりしたら地下への階段が出てくるという手の込んだ物だった。
下った先は薄暗くじめじめとしていて、尚且つ所々に血の染みや誰かが引っ掻いた様な跡などがそこら中にあったし……怨念が渦巻いていそうで、そして幽霊とか出てきそうで怖かった。
そして無駄に広かったんだよね……多分地上の屋敷と同じ大きさほどあるんじゃないかな?そこにめちゃくちゃ闇を感じたよ。
地下牢に備え付けられた頑丈そうな拘束器具に一人一人着けてから地上に戻ったんだけど、これまた近衛の人たちの手慣れた感じが……ね?恐ろしかったです。
地上に戻って服部さんに色々報告。
服部さんは俺たちに向かって、「色々迷惑を掛けた、そしてうちのを救助してくれてありがとう」と礼と共に頭を下げられた。伊賀の人も巻き込まれた事に変わりはないのに、甲賀頭領のような恨み言は一切なかった。そこに何か格の違いを感じてしまったよね。
だから俺も思わず「俺の巻き添えみたいですみません」って謝ったんだけど、「下らぬ欲望を持つ者が悪い、横川くんに非は一切ない」とキッパリと言われたよ……ちょっと嬉しかった。
ただニヤリと笑いながら、「もしどうしても気が済まないと言うのなら、今度1000階層にでも連れて行ってくれ。魔晶石は貯めてあるから」って言っていたけれど、何か憎めない感じだし、笑えた。
その後遅めの夕食を取りながら、最近のアマやキムの話を聞いたりしながら過ごしていたら、甲賀衆が変わらず俺を睨みつけながらやって来た。
「早速だが尋問をさせて貰う、案内しろ」
「尋問だが、うちのも一緒に行かせて貰う。構わんな?」
「もちろん我らが一全のもだ」
「チッ……好きにしろ」
俺は師匠の目配せに応じて、俺の影に潜らせていた分身たちを甲賀衆の影へと移らせた。
地下牢へと行くのは甲賀は6人に増えた護衛と頭領の7人全員、伊賀は護衛の3人、一全からも近衛3人、そして影に潜ませた分身16人。
地下牢へ入るや否や、分身を甲賀衆がよく見える位置に2人ほど移動させて観察していると、護衛の1人がさり気ない風を装って懐に手を入れ……襲撃犯を見ながら眉を顰めていた。そして頭領の耳に口を寄せ何かを小声で伝えていたが、内容までは聞き取れなかった。
尋問の様子は、正直見るに耐えないものだった。明らかに殺しても構わないというほどに痛めつけて、所属や依頼者などを聞き出そうとしていた。あれは尋問というよりも拷問だ。そして誰一人として口を割らないまま、15人全てが絶命した。いや、何かを口にしようとしている者もいたようだが、言葉を発する前にそれを悲鳴に変えているようにも見えた。
更に不自然なのは、全員死んでしまったにも拘わらず更に死体へと暴力を振るい損壊させていた事だ……何度も何度も執拗に。しかもそれは甲賀衆全員でだ。
そして全員が死んでから、1時間を過ぎた頃にようやく地上へと戻ってきた。凄惨な現場だったというのに、甲賀衆の幾人かは頬を少し緩ませながら……
「我らは帰る」
そしてそう一言だけ言うと足早に去って行った。
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