第209話ーー感化されちゃったんですか!?

 烏の1羽には転移用苦無を持たせてあったので、直ぐにでも転移して奪還作戦に移れるはずだったんだけど、ここで問題が起きた。

 それは甲賀の頭領さんが共に作戦に参加する事を強く主張してきたのだ。伊賀の服部さんは知っているけれど、甲賀の頭領さんは知らないからね、転移や次元世界の事。


 全員でマイクロバスなりに乗って移動する事になると、もし本部をどこからか監視している者がいた場合には逃げられてしまったり、最悪人質3人が殺害されてしまう可能性が高い。

 ではどうするか……能力をバラす事は絶対に有り得ないが、頭領の説得も難しい。

 悩んだ結果、師匠以外のメンバーに変化させて同行させる。だが本体の俺たちは先に転移して包囲、もし相手が行動に動きそうだったら先に実行するという形に落ち着いた。

 ちなみにこれも俺の案だったんだけど、また驚かれた挙句にみんなテレビやスマホで明日の天気を確認するとか止めて欲しいよ……真夏に雪なんて降らないよ!!そして師匠たちいつものメンバーの反応はわかる……いや、わかりたくないけどわかる。だけど近衛の人たちまで何ビックリした顔してんの!?虎とかのモフモフ派遣止めちゃうよ!?……泣きたい。

 あと伊賀の服部さんは「俺は荒事に向いてないし、一全の者を信じているのでここで待つ」と居残り組のようだ。


 そうと決まればすぐに行動だ。

 話し合いの最中にも烏や鼠たちに近辺を探らせた所、近くには大きなクルーザーと仲間と思われる4名ほどが待機していた。また問題の倉庫のの横にある倉庫にも何人かが暇そうに待機していたし、どちらの倉庫も見える場所やそこに行くまでに車ならば必ず通らなければならない道路近くを数人が監視している。

 発見した人数を合計すると18名のようだ。


 見つからない場所へと転移して、分身を影に潜らせつつ各所へと走らせた後に、次元世界より全員を出して状況報告を行った。

 まずは倉庫以外の人員の無力化を行う事になったんだけど……ここでまたしても思わぬ問題が発生した。

 それは香織さんが対人の無力化が上手く出来ないという事だ。

 これまで捕らえた場合の事を考えると、威圧or四肢を切り落としてなのだ。手合わせは基本的に殺すつもりで刀を振ってるしね……

 俺も似たような感じだけど、スキルを使えばその辺は解消される。影操身や影牢があるから問題ない。


「いっぱい人いるみたいだし、数人くらい死んじゃってもいいですよね?」


 か、香織さん……いつの間にそんなに好戦的になったんですか?

 可愛い笑顔でそんな事言われると怖いんですけど!?

 もしかしてうどんたちと良く一緒にいるために感化されちゃったのか?

 じいちゃんばあちゃんに、ハゲヤクザや鬼畜治療師まで驚いて香織さんの顔を2度見したよ!?


「えっ?ダメですか?」

「い、いや今回は我らだけの問題では無いからな、伊賀と甲賀も関係しているからな」

「じゃあ、四肢を切り落とすくらいなら大丈夫です?切断面を焼けば血も流れすぎないでしょうし」


 コテンっと首を傾げる姿は可愛いけれど、言ってる事は恐ろしい。

 どうしちゃったんだろうか……

 メンバー唯一の慈悲の存在が……誰がこんな風にしてしまったんだ!?

 日々ヤバい人たちに囲まれているせいなのか!?


「一太や……もう外にいる奴らの影には潜めているのかい?」

「はい」

「では影操身で行動を止めさせろ。話させるな、合図などを送る事が出来ないようにしろ。我らはそれを気絶させる」

「了解です」

「よし、今じゃっ!」


 にこやかに微笑みつつ物騒な事を口走る香織さんから目を逸らすように俺へと尋ねてきたばあちゃん、そしてそれにノルじいちゃんとハゲヤクザ……

 倉庫の中には分身は入っていけてないから、影操身の術で無力化出来るのは外の監視だけなんだけど、なんで香織さんはそんなに不満そうなんでしょうか?そんなに殺したかったの?


 香織さんの反応はともかくとして、合図とともに影操身の術を発動し、12名の動きを操作して地に伏せる形を取らせる。

 同時に香織さん以外が5箇所へと向かって倉庫から死角となるように疾走して向かう。


 あれっ?

 おかしい……一切連絡を取るような行動を取らせず封じているはずなのに、倉庫の中の人員が慌てて懐から銃を取り出したりマシンガンを持って取り出して入口や人質に向かって構え始めた。

 何だ?何で伝わった?

 そういえば彼らを烏や鼠を通して監視していて、何か違和感があったんだよね。

 何だ?何に俺は違和感を覚えたんだ?思い出せ俺!!

 あっ、トランシーバーほど大きくなくとも、お互いに何かを通じて連絡している素振りがなかったんだ。近くにいる者同士が取るに足らない雑談を交わしている事はあったけれど、例えば「異常なし」などの連絡は一切していなかった。

 それなのに中の人員に伝わっているという事は、俺と召喚獣たちのように念話を使用しているのだろうか?


 いや、今はそんな考察は後だ。

 人質を殺害されても、自殺をされても面倒になる。迅速に行動しなければならない。

 すぐ様分身を通じて連絡したが、中々気絶させる事が出来ず手こずっているようなので、俺と香織さん、そして分身だけで行動する事にした。


 倉庫へと全力で向かい、勢いそのままに倉庫屋根へと飛び乗る。分身たちには扉を蹴破るように侵入させつつ、同時に俺と香織さんは人質がいる辺の屋根に刀で穴を開けて飛び降りる。


 銃撃音が鳴り響き、鉛の玉が激しく撃ち出されるのを刀で弾き飛ばしつつ土壁で盾兼目隠しをし、分身に手伝わせて時空間庫へと人質3人を収納した……ただ守るんじゃなくて、時空間庫へと収納したわけは、先程の伝達方法の事もあって何か不安を覚えたからだ。


 収納後は直ぐに分身とで押さえつけ……香織さんが笑いながら手足を切り飛ばしているーー!!そして先程の言葉通りに切り口を焼いてるし!!

 動きとかを見る限り明らかにどこかの軍隊とか訓練を受けた人間だと思われるんだけど、そんな人が「一思いに殺してくれ!!」とか「止めてくれ!」とか叫んでるよ……香織さんの姿に狂気を覚えたに違いない。


 って、そういえば何か大事な事を忘れているような……

 ああっ!!師匠に連絡するの忘れてた!!

 ってか、本当は行動するのは他の人たちが来てからって話だったのに、何でやっちゃったんだろうか?マズイ……

 と、とりあえずまだマイクロバスでこちらへと向かっている分身に「相手が動き出したようです、先に走って向かいます」と言わせ、信号で停まった際に外に出させよう……死角に入ったら分身を消す形で。


 ふぅ……

 危ない危ない、大変な事になる所だったよ。


 とりあえず痛みに喘いである6人が舌を噛んだりしないように布を噛ませたりしていると、外からじいちゃんたちがぐったりした12人を引き摺ったりしながら運んできた。


「大事無い……ようだな」


 じいちゃんが香織さんの狂気の餌食となった6人を見て固まっている……ってか引いているよ。


「ちょっと香織こっちに来な」


 同じく引いた様子の鬼畜治療師とばあちゃんが香織さんを呼んで何か小声で話し始めた。多分、ご機嫌斜めの理由を聞き出しているんだろう……

 んっ?何かこっち見てニヤニヤしているけれど何だろうか?またバカにでもしてんのかな?失礼な!


「一太よ、人質3人はどうした?」


 じいちゃんに聞かれたので、伝達方法の疑問と考察からの判断を聞かせると納得してくれた。

 そして痛みに暴れていた人員を気絶させ、既に気絶していた者を再度確認した後に、時空間庫から人質3人を取り出した。3人を起こす前に身体チェックすると、それぞれの身体から受信器付きの小型爆弾が発見された。


「良い判断だったな。行動が遅かったらボンッとやっておっただろう」

「……他に体内に飲まされていたりって事はないですか?」

「ふむ……有り得るな。有り得るが、甲賀のが来るからな……面倒な。これを見るにせいぜい半径数mでの受信器だとは思うが万が一の事を考えて、少し離れた場所に連れて行っておくか」


 次元世界や時空間庫にしまっておけば問題ないんだけど、甲賀の頭領が来るから出来ないんだよね。本当に面倒くさい。


「とりあえず信一たちが来る前にドックの方に運んで置くぞ」

「全員ですか?」

「いや、とりあえずは捕まった阿呆だけでいい。信一にはその旨を伝えてそちらに行くように言っておいてくれ」


 マイクロバスに残しておいた分身を通じてじいちゃんの指示を伝えた後は待つ事となった。

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