第200話ーー勉強しなきゃですね

 暑っ!!


 適温に部屋はなっているはずなのに、蒸すような暑さを感じて飛び起きたら、獣状態の召喚獣たちに囲まれていた。


 はて……

 一体なんでこんな事になっているんだろうか?

 かなり広い部屋だというのに、召喚獣たちがみっちりと詰まっている部屋の真ん中で、なんで囲まれているんだろう。


 昨日の事を思い出してみよう。

 確か……あぁ、香織さんに抱きしめられて情けなくも泣いていて……その後の記憶がない。

 いや、仄かに唇に生温かい感触が残っているような……

 これはもしかして接吻なるものがあった?

 香織さんに抱きしめられて、そしてキスして貰った!?

 いや、どうだろう……これはうどんたちってパターンもありそうだしな……記憶が無いのが悔やまれる!!


「あっ、主様起きましたか?」

「おはようございます」


 微かな記憶を呼び起こそうと必死になって唸っていたら、召喚獣たちが目を覚ましたようだ。それぞれに朝の挨拶をしてきた。


「なんで俺はベッドじゃなくてここで寝てた?」

「昨日主様は香織に抱きつきながら寝てしまわれて、香織から助けを求められたのです」


 ほぼ予想通りだった……

 ただ、なぜベッドに運ばずに獣化して囲んで寝たのかはわからないけれど、まぁこいつらなりの優しさとかそういうのだろう。


「主様は抱きしめた手をなかなか離さなくて、大変だったんですよ?」

「……その香織さんは?」


 恥ずかしすぎるっ!!

 泣いて抱きしめられた上に、その手を離さずに寝落ちしたとか……


「香織ですか?多分その辺に……」

「ううーん……」


 えっ!?

 今、香織さんの声が聞こえてきたような……

 ってかその辺にってどういう事だよ!?


 慌てていたら、うどんとハクの間のモフモフから香織さんが這い出てきた。


「あっ、おはよう」

「お、おはようございます」


 もしかしてこれは同衾というやつでは!?

 ベッドじゃなくてモフモフの毛に包まれてだけど。


 香織さんの様子は……

 うん、いつもと変わんないね。って事は、この仄かな温かさはキスではないな。いや、そもそも願望が過ぎる事による夢を見ちゃった可能性が高いかもしれない。

 くっ!恥ずかし過ぎる!!


 俺が恥しがっている間に香織さんや召喚獣たちは自分の部屋へと帰って行ったので、俺も顔を洗って身支度を整えて食堂へと移動すると、師匠たちがお茶を飲んでいた。


「おはようございます」

「あぁ、おはよう。大丈夫か?」

「大丈夫です」

「そうか」


 挨拶をすると、師匠たち全員が優しげな目をして俺を見ていた。きっと昨日の様子から心配してくれていたんだろう。

 この人たちや香織さんは、俺の出自とか細胞がどうとかではなくて、俺を俺として見てくれているんだなってしみじみと思えるし嬉しく思う。

 昨夜は色々考え込んでしまったし、うどんに聞きたい事も多々あるけれど、それでも今は期待に応えれるよう頑張ろうと思える。


「今日はどうしますか?」

「うむ、その件は如月くんたちが来てから話そう。科学者たちから聞き出した話もしなければならんしな」


 そういえば師匠たちは科学者たちを尋問したんだったね……自分の事を考えるばかりですっかりと忘れていたよ。


 香織さんと召喚獣たちがやって来た所で師匠から色々と説明があった。

 元々中国ではモンスターの心臓や魔晶石を人間に移植するという人体実験が行われていたらしい。だがことごとく失敗していたようだ……各国に流れ着いた首が3つの者とかは特にその実験での失敗作らしい。成功させるためにと各国で同じような思想を持つマッドサイエンティストを呼び寄せていた。

 そんな時に纐纈さんが俺の体細胞の特性を発見し、その成果を持って中国へと亡命したらしい。そして俺の体細胞を培養したりクローンを作成して、それを移植したりする事により一気に成功例が増えたという事だった。

 相田くんを招いたのは、その知能を当てにしていた訳では決してなくて、孤児院に保存されていた俺の部屋に残る毛などを得るために都合のいい存在だっただけのようだ。得たのは毛だけではなく孤児院に保管されていた臍の緒なども盗み出していたようだ。ではそもそもなぜそれに相田くんが乗ったかだけど、俺やキムにムカついている事を若狭は知っていたらしく、嫉妬心などを煽りながら唆したら簡単に頷いたって話だった。

 その若狭や秋田さんだけど、まぁ簡単に言えば2人とも俺や香織さんに嫉妬していたらしい。若狭はバカにしていた孤児院出身の俺が、師匠に認められているのが許せなかったとか何とか。秋田さんは若狭への同情と共に、やはり一全の部外者である俺が師匠の直弟子になった事への不満、あと香織さんへの嫉妬を拗らせてしまったって話だった。若狭の方は自分自身でどんどんと墓穴を掘っていったわけだけど、秋田さんは俺や香織さんを逆恨みして殺してやろうとまでは思っていなかったけれど、その微かな嫉妬心を煽り唆したらしい。なぜなら実験での成功には、どうしても強い精神力が必要となるので、例えそれが恨みや嫉妬心でも強く思うようにしたって話だ。


 人体実験についてだけど、俺の体細胞を移植すればそれでOKという訳ではなく、モンスターの魔晶石と共に心臓に埋め込む必要があるらしい。その魔晶石も、どのモンスターでもいい訳ではなくて、人型の物の方が馴染みやすく成功例が多かったそうだ。オーガなどを多用したために、ツノが生えてきたって事らしい。そして服用する人造魔晶石についてだが、あれは俺の体細胞と共に人体へと埋め込んだ魔晶石を取り出した物で、細胞を一気に活性化させる起爆剤となるためって話だった。


 ここまで聞いて思った事は……若狭や秋田さん相田くんの事よりも何よりも、どれほどの人々が犠牲になったのかと恐れるしか出来なかったのだが、その答えは数万人〜数十万人規模で行っており、現在もいくつかの研究所にて行われ続けているだろうって話だ。静かだった韓国の街並み……師匠が思ったように中国の研究所へと運んでいるらしい。

 そしてその輸送方法だけど、俺たちが得たような宇宙戦艦を1隻手に入れていたようだ。既存のレイダーなどでは絶対に見つける事が出来ない物なので、米軍基地を強襲するために人造モンスターを運ぶ事なども出来たらしい。

 ちなみに俺たちが得た宇宙戦艦も同じようなシステムはあるって話だ……説明書に書いてあるらしくて、俺以外の英語を読める人たちはみんな知っていたよ。ただ師匠たちがそれに乗って行動していないのは、説明書にあるステルス機能の説明がどこまで現実世界で通用するのかわからなかったからだそうで、これを機会にこれからは重用出来るとじいちゃんが嬉しそうに笑っていた。きっとそう遠くないうちに宇宙旅行に出かける事になる気がする。

 それにしても……やっぱり英語の勉強をしようと思います。


 あと肝心の科学者たちは既にこの世の者ではないらしい。

 ここまでの情報を引き出すために自白剤などを多用したらしく、精神が壊れてしまった上に自決したと聞かされた。

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