第185話ーーお似合いだそうです

 伊賀の師匠さんたち2人とアマとキムも次元世界で暮らすようになって4ヶ月が経った。

 衛星写真だけで内戦と勝手に決めつけて、人々のためと誰も信じなていない理由を大義名分として侵攻する気満々の大国の軍は、未だ何の成果も上げる事が出来ていない……侵攻しなかった訳ではない、したが成果を上げる事が出来なかったのだ。噂によると溢れ出ていたモンスターが居ただとか、新種のモンスターが溢れかえっていたために為す術なく撤退せざるを得なかっただとか、様々な話がインターネット上に出ては消えているが、真偽の程はわからない。

 唯一わかっている事は、現在の中国は魔境と呼ばれ、支配者は誰なのか、暮らしていた人々はどうなったのかなどの一切が不明という事だけだ。


 政府を通じて伊賀への圧力がかなりあったらしい、応じなければ以降日本の製品全ての輸入を止めるとか何とかと……。だけど一切折れなかったどころか、逆に「では伊賀の製品は全て輸出しない」と突っぱねた上に、実際に武器防具やポーション関連の輸出を本当にストップしたらしい、もちろん蘇生薬を含めて。そしたら慌てて撤回してきたようだ……各製品のハイエンドの物や、世界唯一の物を作っているだけあるよね……強い。

 ただ大国がそのまま全てを受け入れるわけもなく、危惧していた通り伊賀の生産拠点などへ大国のいくつかの部隊が闇に紛れての襲撃があったそうだ。次元世界で4人預かっているように事前に生産職の人間は全員避難していた事や、予め各流派の武術班の人間が出向して待機していたために一切の被害は出なかったらしい。


 そんな中俺たちはずっと当然のように修行していたわけなんだけど、久しぶりに突発型ダンジョンへの出動要請があった。場所は富士山の8合目付近だ。場所が場所だけに、一切他のパーティーは潜ってはいないらしい。


 俺以外の分身を作り、大量の食糧品を次元世界へと搬入し、いざ行こうとなったところで師匠に待ったを掛けられた。


「完全に忘れているな?」

「何をですか?」

「やはり次元世界の屋敷内に時空間庫と同じような倉庫が出来た事が問題だな……」


 そう、次元世界が遂にレベル10に達して屋敷がまたグレードアップしたんだ。まず予想通りにコックが駐在するようになったのと、厨房横に大きさもほぼ同じの時空間庫と普通の倉庫が設置されたのだ。なので生鮮食品や食糧品は全てここに納入している。そしてマネキンコックゴーレム?の腹にはタッチパネルがあり、そこにはその時点で倉庫と時空間庫にある食糧品の中から作成可能な料理名が並んでおり、食べたい物と人数を押すと勝手に作って食堂へと並べてくれるという便利仕様だ。しかも予め10食分までは予約しておけるので、毎回押さなくてもいい安心機能だ。難点として俺じゃないとタッチパネルは反応しないのだが、そんな安心機能がついているために、ダンジョン内で戦闘している時や修行中にアマたちの事を思い出して慌てて戻って来る必要もない。


「ああっ!!」

「思い出したか?」

「すっかり忘れていました……迅雷ですね」

「うむ、100階層の転移陣に行ってとっとと放り出してこい」


 そういえばそうだったよ。

 今回は先に330階層で外に出してあるし、その時に台本を渡して覚えさせているから、転移陣に連れて行くだけでいい。

 ……んっ?


「俺だけで行くんです?」

「今更100階層如き、我らは必要か?」

「いや、俺だけだと素直に言う事聞きますかね?」

「まぁ大丈夫だろうと思うが……100階層ボス部屋の掃除が終わったら爺さんでも呼べ」

「了解しました」


 こんな事になるんだったら、100階層くらいにも苦無を設置して置けばよかったと思うけれど後の祭りだ。近衛の人に乗せてもらってダンジョンへと移動してから、全力で100階層へと急ぐ。ただ帰りは近衛の人に待っていて貰うのも呼び出すのも申し訳ないし面倒臭いので、他のシーカーの影にそっと入ってゲートを無視して進入した。これで帰りは転移でOK。

 ちなみに免許は取ったものの、未だにあれから自分で運転は1度たりともしていない……ペーパードライバーだ。なんかこのまま運転の仕方を忘れてしまうんじゃないかって予感がしている。


 まぁ運転は近いうちに香織さんを助手席に乗せてする事を夢見ながら、とりあえずは迅雷の面々を放り出した。

 気絶したままなんだけど、未だに起こすのってなんか怖いんだよね……変なところボキッとやっちゃいそうで。なので水を掛けて……掛けまくって起こした。恐る恐る水を掛けたくらいじゃ全く反応しないんだね、思いっきりやらないと……勉強になったよ。まぁ、ちょっと防具がいくつか破損しちゃったりしたけれど、戦った感が出てちょうどいいよね?


 夢中になってやっていたらじいちゃん呼ぶの忘れてたよ……

 大丈夫かな?


「ここは……どこですか?」

「100階層です、既に皆さんが潜ってから6ヶ月ほど経っています」

「かしこまりました、ありがとうございます」

「織田様や他の方々は……?」

「ここにはいません」

「そうですか、横川様ありがとうございます」

「では私たちは先に行かせて頂きます」


 どうしたんだろうか……

 横川様だなんて初めて言われたんだけど?

 ちょっと反応が予想外で怖い……ってか気持ち悪い。


「えっと……なんで敬語なんです?俺の方が年下なので、もっとフランクな感じで大丈夫ですよ?」

「ヒッ……い、いや失礼しました、私たちは皆様のお陰で存在しておりますので、対等ではありませんので」


 ヒッって……

 そんな怯えた表情で後退りした挙句に尻もち疲れるとショックなんですけど……

 まぁナル森やゴリ田、柳生の双子がそんな反応になるのはわかるよ?確かにボコボコにしたしさ。だけど東雲さん以下12人全員がなんでそんな反応なんだろうか……

 うーん、きっと師匠たちが何か言ったというか脅したりしたんだろうね……師匠たちとちがって、俺はまだ普通の人間なのに。全く心外だよ。


「で、では私たちはお先に失礼します」


 誤解をどうやって解こうかって考えていたら、まるで逃げるように転移陣へと走りって行っちゃったよ……

 追い掛けるのも面倒だから今回は諦めるけれど、今度しっかりと俺の普通っぷりを教えないとだね。


 さて、帰りますか……

 転移して戻ると、そこは近衛の人が運転するワゴン車の中だった。

 本部屋敷用の苦無をワゴン車へと持ち込んでいたみだいた。まぁその方が時間短縮になるもんね、なんでこれまで思いつかなったのかって思うほど、合理的なやり方だ。


 俺も次元世界へと入って数時間後、車は富士山へと到着した。

 どうやら突発型ダンジョンの発生に伴い、登山客や観光客は一切来れないようにされているようだ。


 登山道だとかそうでは無いなど関係なく、最短距離で8合目まで一気に登る。

 富士山近辺にはマスコミも来れないようになってはいるが、最近のカメラなどは高性能でどこからか撮っている可能性も否めないので、全員が仮面を着けている。

 師匠たちは以前着けていた物と同じ、じいちゃんは能で使われる翁の面、ばあちゃんも同じく能の小面と呼ばれる女性系の物、香織さんは縁日で売っているようなピンク色の可愛いうさぎのお面。召喚獣たちはそれぞれ本来の獣形態の時と同じ顔をデフォルメしたようなお面。

 みんな可愛かったりカッコ良かったりするのに、俺だけひょっとこのお面……

 そして「顔を撮られる可能性があるからちゃんと面を着けろ……あぁ、着けているのか、同じようでわからんかったわ」なんて言われたけれど、正直お面を渡された時からそんな言葉が来るのは予想済みだったから大してダメージはない……ない……悲しいけれど。


「一太くん似合ってるよ」


 香織さんのフォローは嬉しい、嬉しいんだけどさ……ひょっとこのお面が似合ってるって何!?

 優しさからのフォローだけに文句言えないというか、1番キツいんだけど!!!

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