第184話ーー失敗したかも!?
中国の動静は未だ不明だ。
衛星写真から読み取れるのは、中国全土でほぼ毎日のように火が上がっていたり、重要施設が崩壊している事から、現在では内紛状態に陥っているのではないかというのが識者たちの考えらしい。
いくつかの大国がこれを機に中国に攻め入ろうと考えているらしいが、現時点の中国の戦力がわからないのと、国境付近で新種のモンスターの徘徊が確認されたとの情報も錯綜しており、二の足を踏んでいるようだ。
俺たちは新種のモンスターと聞いて、先日の実験体の事が直ぐに頭に浮かんだけれど、世界の見方は違う。純粋にどこかでスタンピードが起きていると思っている国がほとんどのようだ。
まぁそりゃ攻め入ったはいいけれど、スタンピードでモンスターがそこら中を跋扈していたら大変だもんね、二の足を踏むのもわかるよ。
中国は大きい……そんな国に攻め入ってもし勝ったとしても統治は難しいと思う。ではなぜ攻め入るのかと言えば、ダンジョンが欲しいようだ、資源産出地として。深く潜れなくとも、魔晶石の数が多ければ多いほどエネルギーを得る事が出来るし、他の鉱物などの資源もそれなりに採れるしね。
そんなわけで、今世界中では中国の話題と、各国の欲望を敏感に感じ取った人たちによる戦争反対のデモなどの話題が席巻している。
俺たちはと言うと、相変わらず修行の日々を過ごしている。
ただ迅雷は世間の声に後押しされて、名古屋北ダンジョンに潜っている事になっているので、俺の時空間庫に押し込んだ状態だ……かれこれ2ヶ月ほど前から。ただ今回俺たちだけは地上とダンジョンを行き来しているので、生鮮食品を隙間には埋め込んでいないけどね。
「アメリカ政府から国連と日本政府を通じて、無辜の人々を救うために我らに戦闘参加要請があった」
「我らって言うのは?」
「如月くんは勇者として、溢れているモンスターの駆逐を。我ら古き武を継ぐ者は国連軍としての参加要請だな。ついでに伊賀には蘇生薬の放出……つまり採算度外視で寄越せととも言ってきているらしい」
若狭たちがいつ襲って来るのかだけを考えていたのに、まさか戦争参加要請なんてあるとは思わなくて聞き返しちゃったよ。
師匠曰く、迅雷がいつものように大掛かりな記者会見や出発セレモニーなどを行ってからダンジョンへと進入したために、各国上層部は俺たちも一緒に潜っていると判断して、情報を掴む前に話を纏めてしまおうとしたのだろうとの事だった。
……まぁ残念ながら地上にガッツリいたんだけどさ。
「自衛隊ではなくてですか?」
「もちろん自衛隊もだが、その他にという形だな」
自衛隊は国民の意思が問われるし憲法もある。だけど俺たちの存在は一応秘密になっているしあくまでも個人だから、自主的参加……つまり傭兵のような形での参加ならOKという考えらしい。
「参加するんですか?」
「したいか?」
したいわけがない。
なんでわざわざ戦場に赴いて、人を殺しに行かなきゃならないんだよ。
「まぁ断ったがな……如月くんの事も勝手に断っておいたがよかったかな?」
「はい、ありがとうございます」
よかった。
バトルジャンキーな人たちだから、嬉嬉として参加するとか言い出すんじゃないかと思ってドキドキしたよ。
「本当に戦争は起こるんですか?」
「ほぼ確定だな……ダンジョンには近代兵器は適していないというのに開発をし続けた戦争屋たちの突き上げが激しいようだからな」
確かに毎年新製品?……新しい戦闘機だとかミサイルだとかが開発発表されているもんね。それのお披露目とかデモンストレーションの意味もあるのかもしれない。
「えっと……断っても大丈夫なんですか?」
「まぁ当面はうるさく言ってくるだろうが、あまりにも度が過ぎるようであれば、いくつかの国の首脳陣の首を取ってやれば黙るだろう」
うわっ、サラッと凄いこと言ったよこの人……
それって暗殺するって事だよね?
まぁ忍者っぽいし、師匠たちがいくつかの国の言語をマスターしている意味がよくわかるんだけどさ。
「当面は変わらず様子見だ。もし国連軍とやらが纐纈たちを仕留めてくれるならそれはそれで構わん。まぁ奴らの思うようには、そう簡単に話は進まんと思うがな」
うーん、世界は荒れそうだな〜。
怖いというか、恐ろしいね……人間は。
こういう時だけ協力するって……普段からダンジョン探索とかで協力し合えば、他国のダンジョンなんか当てにしなくても、それなりに資源を得る事が出来ると思うんだけどね。
「それと横川、伊賀の生産職たちは地下に潜る……つまりこの流れが収まるまで己の身を守るために隠れるらしいが、もしお前が望むなら天野くんと木村くんだけはこちらで預かる事も可能だがどうする?」
生産職と言ってもメインは蘇生薬絡みの薬師なんだろうね、先程の話からすると。まぁ他の生産職の人たちも、世界的に見たらトップエンドの人が揃っているから、この機に乗じて攫われたりする可能性が高いんだろう。
確かにアマとキムは心配だけれど、2人だけ特別扱いして貰っても大丈夫なんだろうか?ただ全員を次元世界へと招く事は出来ないだろうし……
「贔屓みたいで、あいつら自体が周りから冷たい目で見られませんか?」
「1箇所に全員で纏まって避難するわけではないし、そこまで気にする事もないとは思うが……」
うーん、悩ましい。
それに死ぬつもりは一切ないけれど、それでも俺がもし死んだら、次元世界から出てくる事も適わずに餓死しちゃう可能性もあるんだよね。
「悩んでいるところ悪いが、次元世界を知っている服部ら2人を当面住まわせて欲しい」
「あー、じゃあ2人もお願いしていいですか?」
「わかった、連絡しておくから後で伊賀に跳んで貰うから頼む」
師匠さんたちを保護するんなら、ついでという形で2人も住んで貰おう。
そういえば屋敷の隅に、生産用施設も出来ていた事だしちょうど良かったと考えよう。
2日後、4人を迎えに伊賀へと跳んだら、大量の魔法袋を持って待っていた。
伊賀の近衛の人たちに「御館様たちをお願いします」っ何度も何度も頭を下げられて、めちゃくちゃやりにくかったよ。
次元世界へと入った4人に屋敷内を案内したり、各々が過ごす部屋を決めたりした。アマとキムは以前に来ているから、そこまで驚く事もなかった……部屋の広さと動くマネキンは少し引いていたけど。師匠さんたち2人はめちゃくちゃ驚いた後、「もうここに住みたい、横川くん養ってくれないか?」って2人して言い出したのは焦った。
将来的には、俺と香織さんだけの世界になる予定なんだからとんでもない事だよ!!
即却下しといた、うん。
あとどうやら新しく屋敷に出来た生産施設は、俺たちは縁がないので全く理解していなかったけれど、最上級の状態だったらしい。そのためにアマとキムの目が死ぬ事になった……以前来た時はなかったからね、当面は食べて寝ての暮らしになると、休暇気分だったようだ。甘い奴らだ……だいたい生産施設がなくても、師匠さんたちは山ほどの素材や、持ち運び可能な簡易施設を魔法袋に入れて持ち込んでいたというのに。
次元世界の住民は増えたけれど、結局なところ俺たちの生活が変わる事もなく、また始まり繰り返される修行の日々。
「なぁ、ヨコの世界でヨコの屋敷だと思うんだけどさ……無駄に豪華な部屋とかお前必要あるの??」
「基本的に寝てるっていうより、地面で気絶しているだけだな」
冷静に判断するんじゃないよ!!
前からそんな事は気付いてたけど、無視してたんだからさ!!
「友達2人を守るためにも、お前はもっと強くならんといかんな」
クソー!!
2人を招いたのは失敗だったかも!?
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