第182話ーー絶対に許さない!

 世界的な大事件とは……

 中国で軍事クーデターが起こり共産党政権が崩壊したのだ。

 テレビ各局は延々とその件についてあれやこれやと考察を続けているが、外国メディアの入国が禁止されている事や、厳しい情報統制が行われているために詳しい事は一切わかってはいないようで、数千人……いや、数万人の血が流れたとも言われているが、定かではない。

 一説には既存の軍の将軍など力を持った人間の仕業ではなく、たった一部の仕業だとか何とか……それを聞いた時、脳裏に若狭たちの姿が浮かんだのは致し方ない事だと思う。

 なぜなら、所謂近代兵器の全ては一切動いていないというのだ……つまり人力のみでのクーデター成功という事だ。それ故に世界各国はその行動に気が付かなかったらしいのだが。


 日本のテレビでは、軍事政権となったという事で、次に日本が狙われるのではと識者を交えて大論争が行われている。


「攻めて来るんですか?」

「日本全体を標的とするか、それとも我らのみを狙って来るかはわからんが……確実に来るだろうな」


 どうやら師匠たちも、今回の騒動の裏にはマッドサイエンティストの纐纈さんや若狭たちが絡んでいると睨んでいるようだ。


「国を手に入れて何がしたいんですか?」

「さぁな……」

「まぁとりあえずは国内での地盤を固めるじゃろうと推測出来はするが……思っていたより早く研究が進んでいるようじゃな、実験体の量も多そうであるし」

「あぁ、これは我らももう少し修練を重ねんとマズいな」

「特に一太、お主は何やら逆恨みされているようだからな、もっと地力を上げんと守れるものも守れんぞ?気合いを入れるんじゃぞ」


 まだ逆恨みっていうか、スキルを奪われたとか思っているのかな……何でそんな事を思ったのか?そう思った起因を知りたいところだ。

 もしそれを原動力として今の彼があるんだとしたら、俺にも責任があるんだろうか?もしもまだ日本にいる時に、彼ともっとちゃんと話しておけば、こんな事にはならなかったんじゃないかと思うと、少々心が痛い。


「アメリカがこれを機として、政府に圧力を掛けてきているようじゃ。蘇生薬やアムリタを融通するようにとな」

「ふむ……前回のオークションで中国の入札は個人からはあったが、国関連からはなかったな……果たして既に手に入れているのか、それとも……」

「あぁ一太は修練でもしておっていいぞ」


 うーん、政治の世界も大変なようだね。

 それに師匠の言葉も気になるところだ。もし手に入れてはいなかった場合、アマたちの身を狙ってくる事も考えられるんじゃないか?

 まぁその辺のところは師匠にお任せして、俺は言われた通りに修行に励もう。


 次元世界へと戻る……もう次元世界での生活が基本となっちゃったから、当たり前のように戻るとかって考えちゃったよ。

 どんどん次元世界の屋敷はグレードアップしていて、レベル9になった今、各部屋は更に拡張されて外国の有名ホテルのスィートルームのような広さと豪華さになっているし、のっぺらぼうのマネキンがメイド服を着てそこら中をウロウロしていて、勝手に各部屋各所のベッドメーキングや掃除をしてくれるようにまでなっているからね。レベル10になったらマネキンのようなコックが現れるんじゃないかと想像している。


 ともかく次元世界へと戻ると、俺と同じように次元世界で暮らしている香織さんと、朝一で来たばあちゃんと鬼畜治療師が手合わせをしていた。

 そう!香織さんは次元世界でほぼ暮らしているんだ。同じ屋敷で毎日寝泊まり……これってもう同棲だよね?同棲って言っちゃっていいよね??

 まぁ召喚獣たちも一緒に暮らしているし、じいちゃんばあちゃんもたまに……ってか2日に1回の頻度で泊まりに来てるけど……


 3人が手合わせをしているので、俺は1人で分身たちを出して魔力制御の修行をする事にする。召喚獣たちもいるけれど、あいつらは相変わらず手合わせだろうがなんだろうが、俺を攻撃する事が出来ないからね。


「主様、食事の用意出来ましたよ〜」


 どれほど1人で修練でもしていただろうか……

 いつの間にか香織さんたちは手合わせを終えて、食事の用意をしてくれていたようだ。


「食べたら今度は一太と私たちで手合わせするよ」

「はい」

「あんたは最近どうも修行に身が入っていないからね、私たちに負けたら罰ゲームをして貰おうかね」

「えっ?……罰ゲーム?」

「あぁそうだね……罰ゲームは鬼ごっこにしようかね」


 無茶ぶりも過ぎるって!!

 それに罰ゲームが鬼ごっこって何だよ!意味不明過ぎるんだけど!?


「ほれ、さっさと食いな」

「一太くん頑張ってね!」

「主様、香織の仇をとってくださいね」

「ほぉ〜仇ねぇ〜うーはなかなか言うじゃないかい。午後は香織たちは獣姿のうーを相手に手合わせだよ」

「えっ?もしかして私1人ですか?」

「あぁそうだよ、九尾の姿でやんな。魔法も使っていいからね」

「そんな〜」


 うどんがまたしても口を滑らせて大変な事になっているよ……

 可哀想だが自業自得なのでしょうがないよね。全くいつになったら学習するのか……しょっちゅう口を滑らせてハゲヤクザにもボコられているのに。


「主様助けて下さい!!」


 すまぬ……

 助けてなどやれん。

 飛び火するのは怖いんだよ……

 香織さんと他の召喚獣たちの優しさに期待してくれ。


「頑張れよ……」

「ええー!?もっとちゃんと助けて下さいよ!主様が近松さんの事を陰で鬼畜治療師って呼んでるの黙ってるんですよ!?」

「ほー、いい度胸だね……へ〜鬼畜治療師ね〜」


 コノヤロウ!!

 なんて事言いやがるんだよっ!?

 俺を売りやがった!!


「な、うどん何を言ってるんだよ」

「ほら行くよ!」

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い……耳がちぎれる」


 ………………

 ……………

 ……


「ハ、ハゲ!プライドなんて捨てて素直に毛生え薬使っちゃえよ、ん?」

「ほー、小僧はそんなに死にたいか……あ"っ?」

「ハーゲハーゲ!!」


 逃げ切って見せる!!

 ペチペチと頭を叩きまくってからの全力疾走だ。


 真っ赤な顔をしたハゲヤクザが追ってくる!!

 なんかいつもより筋肉がバンプアップしてない?

 そしてちょっと速い気がするし!!


 鬼畜治療師とばあちゃんとの手合わせは結局ボコボコにされたんだよね。

 そしてその罰ゲームが、ハゲヤクザをバカにした挙句に頭を叩くというものだったんだよね……うん、これが本当の鬼ごっこだよ……赤鬼よりも赤く顔をして般若のような形相のハゲヤクザが凄い勢いで追いかけて来るし。


 だいたいさ、これまでの手合わせは基本的に魔法系スキルは使用不可だったはずなのに、鬼畜治療師はガンガンデバフを掛けてくるし、ばあちゃんは遠距離から弓と魔法を放ってきたりするしで、めちゃくちゃ大変な手合わせだったんだよね。

 それでも何度か2人にエリクサーを飲ませる事が出来ただけ良かったと思う……ってか、それを考えたら罰ゲームを受ける謂れはないと思うんだけど……


 2時間何とか逃げ切ったけれど、最後は遂に木刀で殴りかかってきたので大変だったよ。

 何度倒しても起き上がって来て、魔法まで放ってくるし。


 本当に酷い目にあった……

 うどんは今度お仕置しよう、うん。

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