第181話ーー天下一武道会はないらしい

 琵琶湖の件が終わったので、また俺たちは名古屋北ダンジョンへと潜り続ける。


 階層を更新する事も目標としているが、最大の目標は今度はまたいつか中国勢が攻めてくる事があったとしても、余裕を持って撃退出来るだけの実力を身につける事だ。

 ハゲヤクザと鬼畜治療師は前回深手を負っただけに、特に気合いが入っている。


 基本的には10日ほど潜っては、5日ほど地上にて色々済ませたり休んだりする事の繰り返しだ。そして5ヶ月が経った。

 その間に俺は今更だけど、正式に高校を卒業したりもした。もう大分前から自分が高校生だって事を忘れがちだったんだけどね。

 一応卒業式にも出席した、アマもキムも一緒にね。

 ただ若狭や相田くんは来ていなかった……若狭はまぁ予想通りだったけど、相田くんは来ると思ったんだよね、そして真相を確かめれたらいいなって思っていたんだけど、期待外れの結果となってしまった。あとビッチ川上も来ていなかった……まぁ彼女の事は学校に行くまで忘れていたんだけどさ。そこでそういえばLINE交換していた事を思い出してトークルームを見てみたら、いつの間にか退室していたよ……ちょっとショック。まぁ放ったらかしにしていた俺が言うのも何なんだけどね。

 学年全体では、7割の人間がjobは学生のままで大学や専門学校へと進学し、あとの3割がシーカーや専門職のjobが出て就職となったようだった。


 そして卒業式自体はつつがなく終わったんだけど、その後が大変だった……アマとキムへの最後の告白チャンスという事だろうね、呼び出しの整理が大変だったよ……うん、俺だけは2人への告白とかの管理に忙しかった。

 みんな雑誌とかテレビとかしっかり見ていてね、男女の誰もがその事を口にしていたよ。で、俺に対してはみんなが「お前も頑張れよ」的な事を言って励ましてきたよ……1人だけ何も無くて可哀想的に思われているようだった。まぁ表に出せる事も少ないからね……何も反論する事も出来ずに、ただ受けいる事しか出来ないという辛い時間だった、アマとキムはそれを見てニヤついていやがるし!!


 卒業式の翌日は正式に孤児院を出る事となり、院長先生や職員さんたちに挨拶を交わした。

 俺にとっては18年間だからね……めちゃくちゃ感慨深いものがあったよ。早番や遅番、夜勤の人も関係なく全員が来てくれていて、別れの挨拶をする時も全員で見送ってくれたりして、思わず号泣してしまったのは秘密だ。


 現在の到達階層は6200階層だ。

 もちろん順に進んできた訳ではなく、これまでずっと香織さんが開いてきた330階層での二択扉の選択を、「運が悪い方が強敵の住まう階層に出るのではないか?」という予想の元に俺が開いてみたら、6200階層ボス部屋だったというわけだ。


 どうやらここまで潜ってきてわかった事は、下層へと進めば進むほどモンスターは大きくなり、魔法などのスキルの効き目が悪くて、より己自身の力を必要とするという事だ。


 6200階層のボスは、体長30mほどの3つ首の犬……いわゆるケルベロスと呼ばれるモンスターで、それぞれの口からは色々な属性の魔法を放ってくる。それが10匹ほど同時に襲ってくるのだが、魔法の中には強度の回復魔法も含まれているので、生半可な傷ではすぐに回復されてしまったりした。それなのにこちらの魔法はほとんど効かず、更には表皮も硬いのだ。倒すには同時に3つの首を落とさなければならず、その他の攻撃はすぐに回復される……例えそれが胴を半分に分けたとしてもくっつくのだから、たちが悪かった。

 ただ、ここまで散々に修行を繰り返してきた成果は出たので、誰一人大きな怪我を負う事なく倒せたのは幸いだったけどね。


 5ヶ月の成果は階層更新や、地力のアップばかりではない。

 ついに俺の分身スキルもMAXになりました!ちょっとビクビクはしてたんだけどね、もし1001とかになったらどうしようってさ。まぁ分身はどれだけ居ても困らないんだけど、それでも先が見えないのはちょっとね……

 その分身なんだけど、1000体で1000時間継続顕現かと思ったら、MAXになった事で時間制限が消えた。更にこれまでは分身をいくら出しても人数としてはカウントされなかったけれど、10体未満だけを顕現させた場合はカウントされるようになった。その理由は、どうやら1000体分の魔力を10体に凝縮して詰め込むらしく、その事によりかなりの強度を持つ分身となった。ただスキルはこれまでと同じように、俺と分身では使えるものに相変わらず違いがあるようだけどね。


 更に時空遁には、【時止め】なるスキルが出てきました。レベル1で0.1秒間なので、MAXで1秒間時を止める事が出来るのだろうと推測している。

 めちゃくちゃ便利なような気もするけど、これがなかなかに使い方が難しい。

 師匠たちとの手合わせ中に使用しようとしたが、スキルを発動させる事に一瞬でも気を取られると、その瞬間に決定的な隙が生まれてしまう事が多々あるのだ。しかも1度発動すると、1時間ほど使用不可となるし、結構な魔力を消費するので、今のところ一切活用出来てはいない。


 次元世界はようやくレベル9になり、更に屋敷がグレードアップしたり、広さが恐ろしく広くなったりしたんだけど、変わったのはそれだけじゃない。タッチパネルっぽい石碑にモンスターが落とした魔晶石を投入出来るようになった。それが何になるかというと、モンスターが出現するようになったんだ。つまり魔晶石さえあれば再度次元世界でも戦闘が出来るというわけだ。ただ1度使用した魔晶石は2度と使用不可らしく、倒してもドロップは何もない。まぁお金はそれなりにあるようになったので、今は得た魔晶石の半分は石碑にせっせと投入してストックしている。あとの半分は、またダンジョン商店街が現れたりした時用に残してある。

 あとそのモンスターを出現させて戦った際の事だが、どうやら屋敷のある丘の周りには自動的に強度な結界が張られているようで、モンスターや俺たちの魔法やスキルなど、全ての攻撃から守ってくれる安心仕様になっているので、誰かの戦闘風景を安心して見ている事が出来たりもする……俺はまだ1度もその恩恵を味わった事はないけれど。


 地力もスキルアップもしたんだけど、気になるのは今自分はどれほどの位置にいるのかという事だ。

 自身の実感としては、先日の実験体であれば余裕をもって勝てるとは思うが、師匠たちが相手した4人はわからないといったところだ。

 最近では、ハゲヤクザと鬼畜治療師、ばあちゃんの3人相手での手合わせでは、何とか数撃与える事は出来ているんだけど……師匠やじいちゃんの2人相手だと、一撃さえ入れれずにボコボコにされる事の方が多いんだよね。


「天下一武道会的なものはないんですか?」


 わかりやすい指標が欲しくて聞いてみました。

 表舞台ではなくても、裏の世界だったらあるんじゃないかな?って期待も込めている。


「探索者協会が行っている交流会という名の手合わせはあるぞ」

「そんなのあるんですか?」

「うむ、致命傷になるような攻撃はなしで、スキルもいくつかの縛りがあっての手合わせだな」

「師匠たちは出場した事あるんです?」

「ないな……出たところでなんの足しにもならんしな」


 少し期待したけれど、どうやら表舞台に出て来る人間しか出場しないようだ。

 昔はオリンピックっていうのがあったらしいんだけど、ダンジョンが出来てからは行われていないようだし……

 うーん、やっぱり師匠たち全員を相手どって手傷を負わせる事が出来るほどにならないとダメなのかな……


「お前の実力はかなり伸びたとは思うぞ?それは確かではある。ただ攻め方があまりにも単純というか素直過ぎる。これは対人戦の経験値の差だな。それ故に巧者である先日の武人たちが相手となると、まだまだ敵わん」

「まぁ儂らともっと手合わせを繰り返せばそれも解消されるわ」


 やはり師匠たちを相手にして勝てるほどにならないとダメのようだ。

 先が見えないので、正直テンションが上がらないんだよね……


 まぁ生き残るためにはそんな事言っていられないのもわかってはいるんだけどね。


 そんな俺の心情に呼応した訳じゃないんだろうけれど、探索を終えて帰還した俺たちを待っていたのは、世界的な大事件だった。

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