第180話ーーロンさん大活躍の巻
琵琶湖の首長竜の謎は未だ解けてはいないらしい。
水中ドローンや人員をかなりの数動員してダンジョンを探したが見つからなかったようだ。
テイムというスキルがある。
これはモンスターや動物と契約する事で、その相手を使役出来るというものだ。契約するには対象と心を通わせるか、己を認めさせる事が必要となる。言葉を交わす事は出来ないが、己の意志を伝えて行動させる事が出来る。レベルの最大は10で、10匹を同時に操る事が出来るらしい。契約したモンスターや動物は、戦えば戦うほどにある程度成長は見込めるが、例えば1階層のゴブリンが101階層のゴブリンほどに強くなる事はなく、成長限界もあるそうだが細かいところまでは未だ判明していないらしい。
テイムスキルの中には、使役対象を鼓舞したり回復する技をも持っているようだが、それでも限界があるために、スキル保持者はより強いモンスターと契約する事を求めている。
ただモンスターを連れて街中を歩く事は一般人に恐怖を与えるために、テイムしたモンスターや動物を探索者協会に届け出る事が必要であり、移動の際には自家用車などを使用して他人の目には触れないようにする事が決められている。またモンスターを飼う事を禁止しているマンションなどがほとんどのために預ける先が必要となり、かなりのお金が必要となってしまうので、テイマーjobの人の就職先はシーカーよりも動物園や水族館、猫カフェなどがほとんどらしい。
さてなぜテイムの話をしたかというと、首長竜をテイムしようと臨んだ人がかなりいたためだ。
もしテイム出来たなら、有名にもなれるし探索者協会なのか観光協会なのかはわからないけれど、固定給料が貰える事にもなるってのがあるのだろう。
ただ首長竜はそんなに甘くなかった。優雅に泳いでいるので危険性はないと踏んだのか、無防備に近くに寄った人間は尽く襲われて大怪我を負ったり死ぬ者も出たらしい。それでもこの3ヶ月間に諦めずかなりの人たちが挑んだようだが、1人として成功しなかったそうだ。
テイマーたちは個人やどこかの企業付きだったりしたらしいが、どちらにしろ自業自得だとは思うのだが、重症死者が出た事や養殖業の被害が甚大という事もあり、ようやく首長竜を討伐する事が決断された。
だが首長竜は湖の底が深い場所にいるために、シーカーたちは船上での戦いを強いられる事となる。慣れない場所での戦闘、そして首長竜の強さにより、こちらも尽く失敗に終わったらしい。死人がまた増えたのもあるが、討伐のために使用した船舶の損害もかなりの金額になってしまって、どうしようもなくなったという事で協会本部へと泣きつき……俺たちへとお鉢が回ってきたというわけなんだけど……
最初は何回か師匠は断ったんだよね。理由はあまりにも衆人監視の中では無理だって事だ。琵琶湖湖岸の色んな場所で未だにテレビ局や一般人もカメラを構えて首長竜を撮影しているんだよね、日夜問わず。あとこれだけ被害が出ているというのに、「可愛いのに可哀想だ」って論調があったりもするから、撮影されてそれがテレビやSNSなどで顔写真などを拡散されると面倒くさい事になるからね。
でもこれ以上被害を出すわけにはいかないという事で、仕方なく頷いたという経緯だったりする。
「では行ってきます」
「ああ、一応気を付けろよ」
「はい」
深夜にこっそりと首長竜がよく現れる場所から1番遠い湖岸からの進水です。
今回の行動人員は珍しく俺とロンだけだ。しかも俺は近衛の1人に変化している……まぁみんな次元世界にいるし、師匠は湖畔にはいるんだけどね。
理由は顔バレを防ぐためなのと、俺に水中行動なんてスキルが今更生えてしまったためだ。ロンはというと、龍と竜で会話出来ないかと思ってのセレクトだ。水の中だから本当はハクの方が得意なんだろうけどね。
ロンがいるとはいえほぼ1人での行動は、かなり久しぶり……いや、1人行動なんてほぼ初めてじゃないか?
寂しい……寂しすぎる。
湖の透明度がそれほど高くない事もあるが、夜なのもあるので視界は悪いために魔力による気配察知をしながら走る。
水中では水上歩行スキルは適用されない。そのために湖底を歩くのにも魔力を平面に纏わせながらとなるんだけど……色んなゴミが山ほど沈んでいて大変だ。
不法投棄ダメ絶対!
もっと自然を大切にする事を訴えていきたいね。
そんなこんなで走る事10分ほど。
ようやく首長竜が優雅に泳いでいるのが、約200m先の頭上に見えた。
「よし、ロンはそっと近づいて話とか聞いてみて」
「お任せ下さい!」
これまであんまりロンだけに頼るって事はなかったからね、めちゃくちゃ張り切ってウネウネしているよ。
フルサイズの半分ほどの大きさにまで一気に姿を変え、「ヒャッホー」とか奇声を上げながら特攻して行った……
今ふと思ったんだけど、これって俺は来る必要ってあったのかな?
……ま、まぁ水中行動のスキル上げついでだと思おう、うん。
見ているとロンが近付くと首長竜も水中へと移動してきて……戦闘にはならずに何やら頭を付き合わせている。
これはもしかしたら会話が出来ているのかな?
「主様、お話終わりました〜」
念話が飛んできたので見てみると、2匹でこちらへとゆっくりと泳いでくる所だった。
「会話可能だったの?」
「はい、それでですね……」
ロンが聞き出した事によると、首長竜が現れたのはやはりダンジョンで、最初のうちはダンジョンに入り込んでくる魚などを捕食して食べていたが、それでは足りなくなったために外へと出てきたらしい。
その問題のダンジョンは1番深いところにあるとの事で案内して貰う事となったのだが、行って見たところ固定型ダンジョンで、中は1階層だけらしい。
問題はここまでロンが心を通わせたモンスターを討伐するかどうかである。
そしてもし討伐したとしても、また新たなモンスターが出て来る事は確実な事だ。
これは俺では判断出来ない案件のため、師匠へと分身を通じて即相談した。師匠は師匠ですぐに探索者協会の人たちと話し合い、結果……一全のテイムスキル所持者にテイムさせるという事になった。その人のテイムを首長竜に受けてもらい、このままダンジョン付近に暮らさせると決まった。もしまた新たな首長竜が出現した際の事はその時また考える事になったようだ。飼育費……つまり餌代などは全て探索者協会と滋賀県や観光協会が持つらしい。更に協力費として一全とテイマーの両方に、安くない金額が毎月支払われる事に決まったそうだ。
相手は県などの官庁だというのによくこんな夜中に迅速に決定したなと思っていたら、どうやら事前にこうなる事を予測して手を打ってあったらしい。しかもテイマーの人も現地入りして、もしもの時のために待機していたよ。
その辺の事……つまりテイムを受け入れて言う事を聞くようにと説得して貰い、それの了承を得たところで漁船に乗ったテイマーがやって来て、テイムが無事終わったのを水中から見届けた。
やっぱり俺って必要なかったような……
分身による伝言役しかしてないし……
水中スキルも上がってないし、水の中は汚いし、身体は臭くなるし……何もいい事がなかったよ。
大活躍のロンだけはめちゃくちゃ機嫌が良かったけど……
まぁいいか……
首長竜可愛かったし。
ロンの顔が怖いだけに、並んだ姿はより可愛く見えたんだよね……まぁ、ロンには口が裂けても言えないけれどさ。
後日、世界中で湖の大捜索が始まった。
もしかしたら自国にもダンジョンが発生している事を恐れてだ。
その結果、いくつかの場所で湖内にモンスターらしき影を発見されたようだ。
世界のあちこちや日本でも、全ての湖を防壁で囲むべきだとか、では川はどうするのか、そこに暮らす人々の生活はどうするのかなどと喧喧囂囂とテレビなどでやっていた。
そして次に問題となったのは、もしかして海にもダンジョンが存在するのか?である。
もしあったら誰がどうやって潜るのか?海の安全は守られるのか?と戦々恐々となっているようだ。
まぁ地上にしかない方が不思議だとは思うんだけどね。一説には人の多くいるところにダンジョンは出来やすいとかって言われているけれど、今回の琵琶湖の件でわからなくなってしまった。
浅瀬であり、今回のように階層が少なかったら問題ないと思うんだけど、もし多階層だったらお手上げだよね……そうならない事を祈るばかりだ。
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