第164話ーーニホンゴワカリマスカー?
ようやく200階層ボス部屋内で次元世界へと進入して休憩している。
未だ200階層まで中国人パーティーが着いてきているんだよね……帰るって言ったのに。
だから彼らが入って来れないボス部屋内での次元世界ってわけだ。
これは師匠たちもそうなんだけど、俺たちは次元世界に慣れてしまったせいで、探索中にちゃんとした風呂とかが恋しくなってしまうようになってしまった。本来なら数ヶ月お風呂に入れない事なんてざらなはずなんだけどね。
ちなみに鬼畜治療師と召喚獣たちは、わざわざ自分たちで水晶ハウスの中に湯船を持ち込んで、そこにわざわざ魔法で湯を沸かして入るという無駄な事をしている。全く意味が理解できない……これには師匠たちどころか香織さんまで呆れた表情をしていたよ。
あっそうそう、水晶ついでで思い出したけれど、例の小鳥の事だ。5つあったわけだけど、分け方は師匠とハゲヤクザ、鬼畜治療師に各1つづつ。じいちゃんばあちゃんの2人で1つ。もう1つは俺と香織さんにって形になった。まぁ置いてあるのは次元世界なんだけどね。
そんな事よりも、アレとんでもない事になっている。
餌はホームセンターで買ってきた自動餌やり器を設置してやるようにしてあるので、俺たちは放ったらかしにしていられるわけなんだけど、今日入って久しぶりに見てみたら小指の先程の小さな卵を産んでいた。その卵が問題だった、なぜなら宝石だったからだ。しかも水晶の鳥が水晶を食べて産んだのは、水晶の卵ではなくサファイアやルビーだった。カットはされていないが、ツルンとした卵型の宝石だ。
これには鬼畜治療師や召喚獣たちは大喜びだ。規定の日数なのか、それとも餌の量で産むのかわからないために、まずはと召喚獣たちがこぞって無理やり餌を大量に食わせようとしているので、可哀想過ぎて止めたよ。鬼畜治療師も違う場所で同じような事をしていたらしく、じいちゃんたちに止められてた……宝石に関しては鬼畜治療師も召喚獣たちも同レベルの思考能力になる事がよくわかった事件だった。
まぁ兎にも角にも、やはりどう考えても世間に出したら大騒ぎになるって事で、絶対に家には持ち帰るなと鬼畜治療師は念押しされていた。金の卵を産むニワトリの話とかよくあるけれど、リアルバージョンだもんね。
「さて外に出るぞ。出はするが201階層すぐの所で待ち受ける。こちらの警告を無視して追ってくるのならば、そのように対応するしかない」
あぁやっぱり殺すのね……
確かにさすがに度が過ぎるもんね、ここまで追ってくるのは。
「だがそれは我らだけで行うから、お前たちはこの世界に戻れ」
「いいんですか?」
「いいと言うよりも、アレらの相手をするのにはお前たちを気にしている余裕はないからな」
「はい……」
最近の手合わせでは、致命傷になるような一太刀こそ当てる事は出来ないにしても、それなりに当てる事が出来るようになって来たから大丈夫かと思ったけれどまだまだ足を引っ張ってしまうようだ。
じゃあ分身を山ほど出してとも思ったんだけど、好戦的な人たちだからね……ごちゃごちゃして戦いにくいから嫌らしい。
という事で、分身を先行させつつ201階層へと進入して約20日ほど待ってみたけれど、200階層の扉が開く事はなかった。念の為に香織さんやうどんたちも分身で変化させていたんだけどね。
向こうも待ち伏せされる事を考慮して、引いたんだろうというのが師匠たちの見解だ。ただ今度は帰る時……つまり1階層へと転移した場所が危険となるために、帰りは地道に走って帰る予定となる事が決定もした。
「つまらんのう……ところで一太よ、隠し部屋を発見したとは本当か?」
そうなんだよね、待っている間暇だったから分身たちと走り回っていたら見つけてしまったんだよ……
だけど今回は迅雷の面々を積んでいるし、まさか入らないよね?
「よし行こうぞっ!」
「ええっ!?今回はダメなんじゃないの?とんでもない階層だったりしたら発表出来ないし」
まさか即決して行こうとか言い出すとは思わなかったよ。
じいちゃんのバトルジャンキーっぷりは堂に入っているよね。
「うむ、今回ばかりは珍しく横川の言う通りだ爺さん。目的は迅雷をある程度の階層まで連れて行って実績を作る事だ」
おおっ!
さすが師匠です!!
もっと言ってやって下さい!!
……珍しくってところが気になるけどさ。
「信一よ、よく考えてみろ。例えもしお主らの行った7800階層だとしよう。その時は一太の転移でここに戻ってくれば良いだけではないか?」
「ふむ……確かに」
「ふむ……確かに」じゃないよ!!
何簡単に丸め込まれようとしてるのさ!!
ヤバい、この人たち同類だったよ。
「もしかしたら隠し部屋の時は転移出来ないかもしれませんよ?」
「それも確かにありえるな……」
「じゃがのぅ……」
そんな言い合いをしていた時だった、もう開く事はないと判断していた200階層の扉がギシリと音をたてながら少しづつ開き始めたのだ。
途端に走る緊張感と、吹き上がる魔力。
俺はすぐさま次元世界を開き、香織さんと召喚獣たちを入れた後に数体の分身を透明化させると共に天井へと引っ付ける。
もちろん迅雷を象った分身たちや、香織さんと召喚獣たちの分身はそのま置いてある。
「ご武運を」
「うむ」
出していた残りの分身の約150体は消そうかと迷った挙句、師匠たちの影へと潜ませる事にした。
影の中なら邪魔にはならないし、でももしかしたら何かの役に立つかもしれないからね。
俺は次元世界という安全な場所にいるというのに、思わず息を殺して201階層の様子を探り見る。
すると、扉から入ってきたのは4名ではなく20名になっていた。例の追ってきていた4名もいるので16名が追加された形だ。
そして何よりも驚いたのは、その16名は先日テレビで見た若狭たちのようなギョロっとした目と大きな身体をしていたのだ。
もしかして若狭や秋田さんがいるのかと分身を通じて確認してみたが、2人はどうやらいないようだ。ただ先日テレビで見た時に、一全から抜け亡命した人間の顔写真を全て確認したんだけれど、その内の2名ほどの顔が確認できたので、師匠たちへと影に潜ませた分身にそっと顔だけ出させて報告した。
20名は階段を降りては来たが、そこでこちはの様子を伺うように整列している。
両者森の木々を挟んで150mほどの距離を保ったままに対峙する事15分。
痺れを切らしたのは相手側のようだ。例の元一全の2人がこちらへと歩いて来ている。
「そこで止まれっ!先程まで着いてきた者たちの仲間だな?何用か伺おう」
2人が半分の距離を詰めて来たところで、師匠がよく通る声を上げた。
「オ館様、お久シブリでゴザイマす」
「何用かと聞いている」
「オヒサシブリデスカラコエヲカケタンデサヨ」
「お主たちに我らは用はないっ」
元一全……抜忍でいいか。抜忍の言葉は丁寧なんだけど何かおかしい。まるで外国人が覚えたての日本語を話しているような、イントネーションがおかしいし、カタコトのように聞こえる。それに言葉こそ丁寧のようだけど、どこか嘲りを含んでいるようにも聞こえるし、顔もニヤけているようだ。
「ソンナにジャ険にしないデクダさいよ」
「モシカシテワレラガコワイノデスカ」
「試してみるか?」
師匠から突き刺すような殺気が漏れ始めている……
ただその視線の先は抜忍の2人ではなく、未だ他の14人と共にいる4人の中国人のようだ。
その中国人4人組へと目をやると、じりじりとほんの少しづつ重心を移動させているようで、一瞬動いた視線の先は200階層へと戻る階段の方向のようだった。
これには師匠たちも気が付いたみたいで、「実験体の対人実戦投入実験か……」とボソリと呟いた。
あの4人組は逃しては行けない気がする……
「師匠、あの16人は分身たちに相手をさせて下さい。あと4人組は一瞬でも影牢で足止めすれば追いつけますか?」
「ククク……追い付いてみせようか」
「では先に100体ほどを木々の影を伝わらせて4人組の前方に配置します」
「あぁ頼む」
相手には決して聞こえないような小声で会話を済ませ、慎重にひっそりと準備を整える。
「行くぞっ!」
師匠が声を上げるのと、向こう側が動き出すのは同時だった。
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