第158話ーー染まっちゃったみたいだ……

「何故お前がこんな所におる」


 買い取りを頼むために協会へと赴き、個室へと案内されて待っていたところ、何故かじいちゃんの息子である協会会長がやって来たので。


「お疲れのところ申しわけございません」


 対面にある椅子にも座らず、その横に立ったまま90度に頭を下げてくる協会会長さん……めちゃくちゃやりにくいんだけど!?どう対応したらいいか分からないし。


「先日の件かな?」

「それもございますが、27時間前に皇居内にて突発型ダンジョンが発生しました」

「被害は?」

「建物及び人的被害はありませんが、場所が場所故に早急な解決を望ましい故にお願いに参りました」


 うーん、明らかに協会会長の方が年齢も上だし、役職もあるんだから威張っててもいいと思うんだけど、じいちゃんばあちゃんはご両親だからって点を考慮して納得は出来るけれど、師匠にめちゃくちゃ気を使って話しているのは何でだろうか?やはり武力からかな?師匠が臍を曲げたら日本の深層開拓は止まっちゃうという理由とか?


「わかりました、直ぐに向かいましょう」

「助かります。迅雷はちょうど東京にてイベントに出ておりましたので、既に招集済みです」

「……こちらの移動の用意も出来ているようですね、では参りましょう」


 師匠がチラリと扉の方を見たから、気にしてみるとちょうど近衛の人が入って来て頷いていた。


 ドロップの売却は後日という事で、そのまま迎えに来ていたマイクロバスに乗り込んで向かう事となった。

 急ぎだから、てっきり噂の協会所有のプライベートジェットとか、もしくは名古屋駅から新幹線に乗って行くのかと思ったんだけど、このまま車で移動するようだ。ただ緊急事態なんだなって実感させられるのは、俺たちの乗るマイクロバスと、近衛の人たちだけが乗っているワゴン車、そして協会会長を含む関係者が乗る車の前後にパトカーが赤色灯を回転させながら先導と追尾をしている点だろうか。信号も全て無視して普通に行き交う一般乗用車の列を割いて通って行く……なんかめちゃくちゃドキドキするよ。高速道路へと進入して、このまま東京へと向かうようだ。


「さて、運転を頼むぞ」

「はっ!」

「横川、我らは万全を期すために休むぞ」


 本来なら協会が用意していた豪華なバスに乗り込むはずだったんだけれど、師匠たちが断ったんだよね。「ドリンクやお食事も用意しております」とかって厚遇ぶりだったのを。ではこちらの車に協会会長もしくは説明係の人が同乗するって話も、「向こうに着いてから聞く、探索から帰ってきたばかりだし内々で済ませたい話もある」なんて断っていたのは、どうやら次元世界へ入るための口実だったみたいだ。

 ただ出てくる前にしっかりと休んだから、きっと到着までの時間は修行のためとかそんな気もするけれど。


「修行をしたそうだが、本当に身体を休めるぞ。こちらに来たのは足を伸ばしたり、1度身体の汚れをしっかりと落としたいからだ」


 俺……どうやら師匠たちの修行バカに染まっちゃってたみたいだ。


「あぁ一太や、先ほど何やら不思議そうな顔をしておったがな。アレが我らに対して丁重なのは、まぁお主が考えていそうな事もあるが……信一はこれでも1流派の当主であるし、あとは先日の件もある」


 じいちゃんにしっかりと顔を見られていたみたいだ。でも疑問が解けてスッキリしたよ。


 それぞれ男女に別れて風呂に入ったり、未だ余りあるドラゴンの肉を食べたりして時間を過ごす事になった。

 鬼畜治療師と召喚獣たちは目を輝かせて、水晶ハウス内に布団を持ち込んで寝ていたよ……固くて寝にくいと思うんだけど、そんな事は一切気にならないどころか、夢の世界である故の事と嬉嬉として受け入れていたみたいだ。

 たださすがに戦闘前……いや、皇居へと行く前だからか、誰もお酒を1滴さえ飲もうとしなかった、ハゲヤクザでさえだ。


 仮眠から目覚めて軽く準備運動の手合わせを行っていると、分身を通じてまもなく到着するとの連絡があったために戻る事となった。


 皇居前には通行止めをする警察官が立ち並び、その向こう側にはテレビカメラが山ほど設置されているようだ。その中をカーテンを閉めたままゆっくりと進んで行く。バス内に付けられているテレビを見たところ、既に迅雷は到着して用意しており、俺たちのバスは協会から迅雷のサポートメンバーだと紹介されているようだ。


「チッ……余計な事を」


 注目が高いだけに、ダンジョンを攻略後にサポートメンバーを紹介して欲しいとかの流れになる事が予想できるらしい。


「横川、スマンがその時は分身たちに変化させて対応してもらうかもしれん」

「誰に変化させるんです?」

「そこだ……近衛……いや、後で考える」


 じゃあ誰にするかって話なんだよね〜

 実在の人物で、しかも口裏を合わせて秘密を守れる人間じゃないとダメだし……だったらその人たちに最初から演じさせればいいわけだし。


「何を悩む必要がある、そんなもの補助要員である我らは死んだ事にすれば良かろう」

「あぁそうか……確かに」


 そりゃそうか、悩む必要なんてなかったようだ。じいちゃんさすがだ。


 そんな事を話していると、バスはダンジョンの入口辺りを大きく覆ったシートの横へと停まった。

 だがすぐに降りるわけじゃない、先にワゴン車に乗って来ている近衛班の人たちがシート内の様子を見て、安全が確保されている事を確認してから俺たちも入る。これはいつもの事なんだけど、身の危険というよりもカメラや盗聴器などの確認の面が強いようだ。


 中には迅雷のメンバーが椅子に座っていたが、師匠の顔を確認した瞬間立ち上がって頭を下げた。次に入った来た協会会長の顔を見ると、スーツ姿や作業着の職員さんたちも頭を下げた。


「楽にしていい、誰か状況説明を」

「協会本部突発型対策班調査部主任の設楽と申します。状況説明などはわたしから説明させて頂きます」


 漫画に出てくるような、七三分けで眼鏡を掛けたスーツ姿のThe公務員って感じの人が直立不動で説明しだした。

 内容はこれまでに既に、協会本部が独自に抱える3B級の6人パーティー1組と12人パーティー2組を発生直後3時間以内に送り込んだが、帰還及び連絡さえ一切ないらしい。内部は洞窟タイプとなっており、30mほど進むと横10m高さ20mほどの木製の扉がある事だけが確認されているようだ。扉の向こう側はダンジョン内にいる者全てが扉内に侵入しないと、真っ暗のままで何も起きないし見えないままだという事も確認されているらしい。


「ふむ、ダンジョン内入口に連絡要員を置けないという事だな」

「はい、その通りで御座います」

「わかった。迅雷の者は用意は出来ているのか?」

「はい、食糧や換えの武器防具まで既に用意しており、いつでも進入可能です」


 迅雷の面々は以前に北ダンジョンで会った時から、かなり顔から身体から全てが引き締まった印象だ。ただイベントに参加していたから?それとも出てきた時の事を考えてか、みんな薄らと化粧をしているっぽいところが気になる。柳生の双子とナル森は……何故か怯えた表情でこちらを見ているんだけれど何でだろう?まぁねっとりした目で見られるよりはいいけれど。

 あと彼らを見るのは少し恥ずかしいんだよね、つい先日に確認してしまった自分の中の驕りを突き付けられているようで。

 あぁヤダヤダ、気にしないようにしておこう。


「……いや、迅雷の面々はここにいろ。中には我らだけで突入する」

「それは……」

「我らが戻り次第、中の様子は細かく教える。お主らの演技力ならばそれも可能だろう、既に30人ものパーティーが帰らぬとなるとそれなりの場所だろう、我らが守ってやれるとはわからん故な」

「かしこまりました」

「うむ、まぁ無事を祈っていてくれ」


 あぁまぁそうか、ここ数ヶ月修行を繰り返したといっても、師匠たちがその目で実力を確認しているわけではないからね、以前の事を考えると連れては行けないか。


「では参るぞ!」


 怯えた目で見られ続けるのもキツいし、ちょうど良かったかも。

 それにしてもなんでだろうな〜

 なんか目が合いそうになるとあからさまに避けられるし。

 突っかかって来られるのも嫌だけど、怯えられるのも……普通にして欲しいよ、全く。


 まぁ、その辺の理由を聞くのは後にしよう、とりあえず気合いを入れないと!

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