第154話ーー泳ぐな危険
もう2度と南ダンジョンに潜る事なんてないだろうって思っていたのにも拘わらず、大捕物の3日後から潜って既に5日目だ。
なぜかというと、関わっていた職員が多すぎるために支部を一時的に閉鎖して協会内のパソコンから書類、小さなメモの一つ一つまで調べる事になったらしい。まぁ再雇用職員まで関わっているんだから、根はかなり深いだろうとは思ったけど、現時点で判明している関係者はシーカーを含めて100人をゆうに越しているようだ。更には南支部と取引のある企業などにも捜査の手は及んでいるらしい。こちらはドロップの査定を故意に安くしてシーカーから買取、企業からバックマージンを職員たちが得ていたとの話だった。大体が相場から2割ほど叩かれており、経験の浅いシーカーなどだと5割での買取とかもあったようだし。だから依頼品しか出さなかった俺たちは大正解だったらしい。
で、閉鎖しての調査から新たな人員を配置したりの目安が最短でも約1ヶ月は掛かると見込んでいるようなんだけれど、その間ダンジョンのモンスターを一切狩らないのも問題になる。そこで俺たちに白羽の矢が……ってわけだ。
ここまでくまなくダンジョン内を香織さんと召喚獣たちを連れて走り回って、他のシーカーたちの目に止まるように動き回った。目的はオッサンやタトゥーパーティーのようなヤツがいる可能性を考慮してだ。「大量の真珠が取れた」とか「やっぱりお金持ち歩くのは怖いって、貯金しようよ」とか小芝居を繰り返しながら……これに関しては俺は結構上手く演じれたと思う、香織さんや召喚獣たちはまるで棒読みの学芸会並だったけれど。
で、俺の迫真の演技力に騙されて襲いかかってきたのは2組11名だ。他にただのナンパ野郎たちは1組4名だった。
多すぎるよ……腐りすぎだよ、南支部。
そいつらは気絶させたり眠らせたりした後に、分身に担がせてダンジョン入口近くまで運んだ。入口前には近衛の人が俺との連絡のために2名ほど交代交代に待機してくれているので、分身を通じて罪状を連絡して引き取って貰う形だ。
そして今100階層まで来ていて、各階層に分身を約3体づつ配置しており、延々と狩り続けさせている。
ちなみに今回俺たちは嫌な目には確かにあったけれど、直接的な損害はないに等しいので詫び金的な物は貰っていない。ただその代わりにこれまで被害にあった人たちにお金をちゃんと返す事や、謝罪をして貰う事を約束して貰った。ただ、あとこの1ヶ月の間で俺たちが得るドロップは全て俺たちの物になる……まぁ当然と言ったら当然なんだけどね。
これから1ヶ月……近衛の人たちから連絡があるまではダンジョン内での修行となる。じいちゃんばあちゃんも次元世界に入って同行してきている。やはり修行はダンジョン内の方が効率がいいからね。ただ俺はだいたい10日前後毎に分身からドロップを回収しつつ入口まで走り、生鮮食品を貰ってくるって仕事が追加としてあるけれどね……分身の入れ替えも必要だし、インスタント食品ばかりだと健康に悪いし。
この100階層は一面が潮の流れのない海になっている。とこどころに奇岩が飛び石のように並んでいる。モンスターはサメとかシャチとかの獰猛な肉食魚がメインで、岩や空の上にはペンギンや鳥が飛んでいる。通常のシーカーたちは岩へとロープを打ち込んだり、折り畳みハシゴを掛けたり、もしくは土魔法で岩と岩の間を埋め尽くして渡ったりするらしい。決して水の中には入らない事が鉄則との話だった。
だけど俺たちにその鉄則が通用されるわけなんて当然ない。それどころか積極的潜って戦う事を強要されている。
「一太よ、まだたったの15分しか経っておらんぞ?」
ただ単純な水中での無呼吸の世界記録は現時点で40分なんだそうだ。ただじっとして潜っているだけなのに40分だというのに、それを迫り来るモンスターと素手で戦わせておいて「たったの」はおかしいと思うんだ……
「最低目標は1時間じゃな」
1時間って……
それってもはや人じゃないと思うんだ。絶対にエラ呼吸とかしてるはず!!
だけどそう言えないんだよね……だってじいちゃんばあちゃんが普通に潜っているから。
そしてなぜか召喚獣たちも普通に潜っていられるんだよね……本人たちも出来る事に首を傾げていたけれど、出来ている。
あと香織さんは水棲スキルなるものが合って、自動的に身体の周りを空気の膜が張られるようで魔力制御の修行をしている。
「ほれ、香織ばかり見とらんと潜って修練じゃっ!!」
なぜ水上歩行はあるのに、水遁で潜水の術とかはないんだよ!!
あってもおかしくないよね!?
いや、水棲スキルなんて物が存在するんだから、もしかしたら生える可能性は否めない。聞けば香織さんは小学6年生まではスイミングスクールに通っていたらしいし、きっとその事が関係してるに違いない。
……んっ?それだと最低でも7年くらいは潜ってないと生えないのか?いや、ダンジョン内だからきっとすぐに生えてくれると信じよう!!
その前に皮がふやけて大変な事になりそうだけど……
………………
…………
……
3週間経ったけれど、一向に水棲スキルなんて生えやしない。
ただ連続潜水戦闘時間は40分にまでは伸びたよ。
コツとしてはこれも結局魔力だった。魔力で肺機能を強化するというのかな、そんな感じだ。ただ息を止めているのと、戦闘を繰り返すのではまた話は違うので、そこを今後どうやってクリアしていくのかが課題だ。あと泳ぎながらというか、水中に漂いながら戦うのはかなり難しいので、足に魔力を集める際に地面にくっ付くようなイメージを持つ必要もある。
「まだまだ全身に無駄な動きが多いから、不必要に酸素を必要とするんじゃ」
そうは言われても、水中での戦闘どころか行動さえ初めてだしね。更に水中って地上より動きにくいから余分な体力も必要とするし。
まぁじいちゃんの言う通り、ただひたすら修行を繰り返して覚えるしかないんだろうね。
あとこのダンジョンにでの修行が始まってから、地上での活動時間の際には英会話の勉強をする事となった。なぜなら師匠から「どうも横川の知力が目には見えんが落ちている気がするからついでに勉強させてやってくれ」なんて言われてきたらしいのだ。多分先日の時戻しスキルの話をした時の事を言っているんだろう……
もうね、頭が痛いのが酸素不足なのか知恵熱なのかわからないよ……
………………
…………
……
更に3週間が経った。
ようやく1時間は潜って戦闘していられるようになった。ただやっぱり水棲スキルは生えていない。
だけど閉鎖の解除が明後日に決まったとの連絡を受けたので、この修行も終わりだ。
「これからは一太の次元世界でも水中での修行を足そうかの。サメの代わりに儂らと手合わせじゃ。目標の2時間にはまだまだ足りんからの」
ちょっと!?
目標が倍になってませんか!?
もうぶよぶよになりたくないんですけど!!
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