第151話ーー首
「こちらがご注文のお品でございます、間違いないかお確かめ下さいませ」
「あっ、はい」
俺は今珍しく1人だ。
しかもそれはジュエリーショップなんて場所にいる。
ここは鬼畜治療師に紹介して貰った馴染みのお店だ。最初紹介状を書いて貰ってから来たんだけど……栄の一等地にあるこの店の面構えからして一般人には縁のなさそうな感じだし、恐る恐る入ったら入ったで、店員さんの視線が明らかに「何コイツ、お前の来るような場所じゃないんだよ」って感じだし、所々に立っている屈強そうな警備員さんはさりげなく腰に差している警棒みたいなのに手を掛けていたし。「どういったご用件で」なんて近くにいた綺麗な店員さんが明らかにバカにした目をして声を掛けてきたので、そっと紹介状を出しながら「近松さんに……」と言いかけた瞬間、「お世話になっております〜」なんて猫なで声?みたいな感じで揉み手になって奥にある応接室に案内されたのには、もうあからさますぎて笑いそうになった。なんか「このお店は近松様のお陰で成り立っていると言っても過言ではありません」とか言っていたけれど、どんだけあの人は宝石に注ぎ込んでいるんだろうか……少し怖くなったよ。まぁ色んな意味で俺には居心地が悪いというか、場違い感ハンパない事だけは確かだし、それは最初に来た時も今も変わらない。
ちなみにここに来た理由はいつも頑張ってくれている召喚獣たちにたまには宝石の分け前以外に何かプレゼントでもしてやろうと考えたんだ……でも何も思い付かなかったので結局、俺が持っている宝石をアンクレットの先に付けて貰おうと思ったって訳。なぜネックレスではないかはロンのためだ。未だに龍形態のままだからね、首なのが胴体なのかわかんないし。あと指輪ではないのは、なんとなく敷居が高いってのもあるけれど、何より身体のサイズを変えたり獣形態になるので無理だって事だ。アンクレットならば伸縮率の高いモンスター素材の物を使えばその辺はクリア出来るしね。
全員お揃いだけれど、宝石だけはそれぞれのイメージカラーにしてある。それぞれの石の値段はかなり違うみたいだけれど、その辺は全く無視でうどんは黄色、つくねは赤、ハクは薄い青、あられは緑、ロンは濃い青だ。で、さりげなく香織さんの分も用意してある、宝石部分はダイヤモンドだ。召喚獣たちと仲良いし、お揃いなら気に入って受け取って貰えるんじゃないかな〜なんて思ってる。本当は指輪をパカりと……なんて考えもしたけれど、まだハードルは高いよね、受け取り拒否されるのもツラいし。
本部に戻ると香織さんは相変わらずのモフパラ中だった。しかも今日はご両親共に休日らしくて2人ともうどんのしっぽに包まれているし、非番だろうと思われる近衛の人たち数人もハクやつくねの毛を撫でたり、トラたちに囲まれてだらしない顔を晒していた。
ちなみに最近は近衛の人の家に時折トラを派遣している。子供にも動物に触れさせてやりたいっていう、親心からの願い的なのをボソッと漏らされた事があって、じゃあ俺たちが探索に行く時以外の日で、更に希望者の非番の日にトラを派遣する事になったんだよね。それと魔力制御の訓練の賜物なのか、ある程度発現させる時に意識すればサイズを変える事が出来るようになったんだ……まぁ小さくするのは簡単だけど、大きくはほとんど出来ないんだけどね。まぁそういう事なので、大きいトラは怖いという家庭には子猫サイズでお届けしている。そしてめちゃくちゃ好評を得ていて、お礼として時折お菓子を貰ったりするようになった。
ただ師匠は派遣に関してはめちゃくちゃ渋い顔をしている……この事から俺のスキルがバレやすくなるのを恐れて。ただ「絶対に漏らさせません」って真剣に眼差しで言っていたので俺はそれを信じたいと思っている。
正直なところ、師匠たちや近衛の人たち以外で……先日の南ダンジョンでもそうだけれど、嫌な目に会い過ぎて人間不信になりそうな自分もいるんだよね。だから出来れば信用出来る人はとことん信用したいなんて思っている所もあるんだ。
最近は夜寝る時のほとんどを次元世界で過ごしている。だって湿度温度は快適なように自動的になっているし、設備も整っているしね。あとは師匠にも万が一の時のためにと勧められているのも大きい。近衛の人たち的には師匠にも次元世界で就寝して欲しいらしいんだけれど、貸し与えている俺の部屋に毎夜毎夜通うのを知らない人間に見られたら変な誤解を与えるかもしれないって事で断念したようだ……うん、その誤解は俺も困るからやめて欲しい。
「いつもお世話になっているので、俺のセンスなので気に入らないかもしれないけれど良かったら」
次元世界に入ったところで、香織さんと召喚獣たちへと加工して貰ってきたアンクレットをそれぞれに渡した。
「えっ?私までいいの?」
「もちろんです、うどんたちとお揃いなんですよ」
「ありがと、大事にするね」
喜んでくれたみたいだ、少し頬を赤く染めているし。本当に大事そうに手に持ってくれているし……良かった。
「主様!付けて下さいっ!早く早くっ!」
「おおっ!主様から……」
「これまで貰った宝石のどれよりも輝いて見えます」
「宝石といつも一緒にいられるなんて……」
「おおおおおおおっ!!」
うどんたちは予想以上に喜んでくれているようだ。
それぞれが座り込んで片足を俺に突き出して急かしてくるので召喚順に着けてやる……ロンは前足だ。そんな事をしていると……おずおずと香織さんも足を出てきた。
「わ、私にも着けてくれる?」
うどんたちが着けろと言ってきた時は、「主に着けさせるのかよ」って思わずツッコミそうになったけど……グッジョブだ。
まさか香織さん自ら言ってくれるなんて思わなかったよ!!慣れない事だからか顔真っ赤だけど。
めちゃくちゃ緊張する!!
ヤバイ、手が震えて金具が上手く止められない……
こんな事になるんだったら、指輪……はないな、だけどネックレスでも良かったかも!?いや、うん、チラリとロンを見てみるとやはり首なのか胴体なのか判別つかないからダメだ。
「ありがと……デザインとかも一太くんが?」
何とか着け終わったら、愛しそうにアンクレットを撫でながら香織さんが質問してきた。
ここはうんと言いたいところだけれど……
「ゴメンなさい、初めてだしデザインとか全くわからなかったので、石の指定だけであとはお任せにしました」
「初めてなんだ……そっか、石は選んでくれたんだ、ありがと」
「主様!私の石もですか!?」
「うん、一応みんなのイメージカラーにしてみた」
「「「「「おおっ!」」」」」
「あと変化してもいいように、かなりの伸縮性があるようになってるからね」
「スゴい!!」
伸びる事を伝えるや否や、召喚獣たち全員が外へ駆け出して行くと獣形態……しかもフルサイズになって確かめて喜んでいる。
「ここまで喜んでくれるとは……」
「本当……うどんちゃんたち嬉しそう……あっ、私も嬉しいよ」
「良かったです」
最初ジュエリーショップに行った時はどうなるかと思ったけれど、本当に良かった。
そっとアンクレットを撫でるその指に、いつか俺が選んだ指輪を着けてくれるといいんだけどな……
まぁいつかを夢見て、とりあえず今は全てから守れるように力をつけていこう。
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