第149話ーーさりげなく自分を仲間に入れないでください

 2時間ほど1人で黙々と潮干狩りをしていたよ。

 ちょっとヤケになって、人が全く居ない事を確認してから分身を山ほど出して台風などのデカい魔法スキルをガンガン使用していたよ。予想通り泥も何もかも遥か上空へと巻き上げてくれるので、分身たちと一緒にドロップとなって落ちてくるモノを拾って遊んだりしていた……うん、ちょっと寂しい。


「ご飯が出来ましたので来てください」


 ってうどんから念話で連絡があったので入ったら、次元世界に備蓄してあるインスタント食品を調理した物が並んでいた。ちなみに以前のような物体Xはもはや過去の話だ。ばあちゃんにかなり厳しく指導されたらしくて、インスタント食品ならば裏に書いてある説明通りに忠実に調理する事を覚えたらしいのだ……あくまでも近くにうどんたちが監視して居ないとダメでもあるが。それでもちょっと寂しい気もするけれど、その過程をずっと見てきたし、何より俺の胃的にも嬉しい事である。


 美味しく頂きながら香織さんのご機嫌を伺うと、それほど怒ってはいないようでほっとした。


「今度同じような事をしたら、絶交するからね」


 と、念押しはされたけどね。

 どうやらハクが一生懸命フォローしてくれたようなので許そうと思う。ついさっきまではドロップの真珠の分け前を少なくしてやろうと思っていたけれど。


 俺自身は転んではいないけれど、香織さんを起こしたりした際に泥まみれになっていたので、ついでに露天風呂に入ってゆっくりと身体の汚れを落としてから、本日は次元世界での就寝となった。

 ただね……いい事なのか悪い事なのか、ここ1年半のずっと探索中及び修行中は3時間から多くて5時間という睡眠時間だったせいか、だいたい4時間もするとバッチリと目が覚めてしまうんだよね。なので分身を全部出して魔力回復しながら自主練をしていたよ。香織さんはまだそこまでではないらしくて、就寝から8時間後に起きてきた。どうやら寝る前にうどんたちとガールズトーク的な話しをしていたらしいので、遅いのはそれもあるんだろうけど。ちなみにその内容はうどんたちには教えて貰えなかった……「絶対に言わないで」と念押しされたらしい。ただ俺の悪口ではないという話らしいから、気にしないでおく事にしよう。


 80階層を覗いて見たけれど、未だに他のシーカーは誰一人としてはいないようなので、大鷲を出して階段まで移動してから帰還する事にした。

 帰り道はゆっくりと進む、適度にモンスターを狩りながら……他のシーカーがいる時は遠回りして会わないようにしながらね。

 やはりたまには違うダンジョンもいいなって思う。海中ではないのに美しいサンゴ礁のような物体があったり、波に侵食されたような奇岩が立ち並ぶ場所があったりと、いつもとは違う風景がそこには広がっていたりするからね……まぁそこには美しくはないモンスターも山ほどいるんだけれど。


 2日ほど掛けて40階層まで戻ってきた。ここまで就寝は次元世界だ、分身を外に見張りとして天井にぶら下げて。周りに人がいない時を狙ってダンジョンに戻るという形をとっている。分身がいるので夜番に困る事はないんだけど、階層が上がるに連れて他のシーカーも多くなるので、香織さんたちが絡まれる可能性を考えると面倒なんだよね。あとたまに俺に向かって暴言を吐いてくるヤツとかがいるのが特に問題だ……うどんたちが殺そうと提案してくるからさ。暴言内容は一様に「ハーレムパーティーかよ、ブサイクが生意気だ」とかだ。違っても「生意気」の部分が「ふざけるな」とか「死ね」に変わる事があるくらい。つまり嫉妬ですよ。

 ……あれ?そういえばうどんたちって、「主様に暴言を吐くなんて」って怒ってくれてはいるけれど、誰も「ブサイクが」って箇所を否定していないような……き、気のせいだよね?イケメンでない事は確かだけれど、決してブサイクでもないよね?


「気にする必要ないよ」


 香織さん、慰めてくれるのは嬉しいんですけど……俺は否定の言葉が聞きたいんです!!


「人の善し悪しは顔じゃ決まらないからね」


 いや、うん、その言葉も嬉しい、嬉しいんだけど嬉しいんだけれど……

 おい、うどんたちはなんで目を逸らした!?

 誰か何とか言ってくれ!!

 ここ、結構重要ですよ!?

 主に俺の精神的な意味だけだけれど……


「冗談冗談……私はブサイクじゃないと思うよ」


 香織さんに遊ばれていたようだ、クスクス笑っているし……

 まぁでもこんな冗談を言ってくれるようになっただけ、仲良くなったって事だよね?

 あと何気に「」って箇所が重要だと思うし。


「人間の基準がわからないので何とも……」


 おいいいっ!!

 ほっとしたところでなんでお前たちは落とすような事を言うんだよっ!!

 と、とりあえず香織さんの言葉を信じよう……あと帰ったらお肌の手入れとか、美容院に行って眉毛の手入れとかを教えて貰おう、うん。


 30階層まで来たけれど、ナンパの頻度が更に上がってきた気がする。だから香織さんたちには次元世界で過ごして貰うという提案をしたんだけれど却下された。


「これまでは一般探索者とはほとんど絡まないようにしていたけれど、あんたたちはどっからどう見ても美人の集団だし、坊主は一見どことなく頼りなさそうに見えるから声を掛けられたりしつこくされるだろう……私も若い時に経験があるからわかるよ。で、それが面倒だと言って坊主の世界に守られているばかりじゃあダメだ。特に香織、あんたは守られて生きるんじゃなくて、守れるようになりたいんだろ?だったら、隠れるんじゃなくて自分自身で断ったり躱すすべを覚えな」


 なんて事を鬼畜治療師に注意されていたらしいのだ。

 ちなみに鬼畜治療師の言葉だけれど、あられが口調から声色までそっくりな感じで真似して話してくれた……しかも姿こそ変えていないけれど、杖を持って話す特徴まで完璧だったよ、そっくり過ぎてちょっと引くくらいに。あられにこんな特技があるなんて初めて知ったよ。俺も変化で化けれるけれど、触ったりしないとダメだし、仕草とかはもっと観察しないとそっくりには出来ないからね。


 で、香織さん自身が断りまくっているんだけど……


「無理です」


 うん、これはいい。


「迷惑です」


 これもいい。


「彼氏と一緒なので無理です」


 振りだけとわかっていても、ちょっとニマニマしてしまう俺がいたりする。「利用してごめんね」とか後でこっそり言われたけど、全然問題ないどころか最高でした。



「ないですね……普通に無理だし迷惑です。邪魔なのでどいて貰えますか?」


 合わせ技だね、冷たい目が少し怖いけどしょうがない。


「キモイ」


 なんか俺が言われているわけじゃないのに、心にくるものがあるよ……


 まぁそんな事ばかりを言っていたら、逆ギレする輩が出てくるのも事実なんです。


「勘違いするなよブサイクがっ」


 なんてセリフを残して去って行くヤツがいたり……この辺りのヤツらは分身をそっと影に潜ませて、香織さんが感知出来ないところで影蛇などでサクッと痛めつけときました。


 目をギラつかせて襲いかかってくる者がいたり……この辺りはその場でサクッと返り討ちにして起きました。なんたって正当防衛になるので躊躇いなくね。まぁ問題は手加減が難しいところだったくらいだ。この中には行きに追ってきた自称有名シーカーパーティーも含まれている。どうやら帰りを待ち伏せしていたみたいだ。


 12階層まで戻ってきた時だった、通路中に罠が張り巡らされていた……まぁ壁や天井はがら空きなので通る事に関しては全く問題ないんだけどね。それに罠自体もトラバサミとか踏んだら毒針が出るような単純なものばかりだし。ただ問題は来る時はなかったにもかかわらずあるという事だ。そして一般的には死角になるだろう場所に必死に息を押し殺して潜む4人。もう少し奥では通行止めらしき事をして他のシーカーの足止めをしている者がいるし、後ろから付けてきていた1人がじっとこちらの様子を観察しているようなので、こちらも仲間だろう。後ろの男をよく見てみると、行きに付けてきていたオッサンパーティーの1人のようだ。こちらはどうやらナンパではなく、強盗的なものだったらしい……まぁあわよくば香織さんたちをって考えもあるだろうけど。


 さてどうするか……

 サクッと抜けて知らん顔して通り過ぎるか、それとも罠にハマった振りをして襲いかかってきたら返り討ちにするか、もしくは通り抜けて隠れているヤツらをとっちめるか。

 コソコソと話し合った結果、サクッと通り抜けつつ魔力をかなり多めに身体に覆って全力で威圧しながら通り過ぎる事にしました。


 結果……

 隠れているオッサンパーティーどころか、足止め役やら他のシーカーパーティーまでもが失神してしまいました。もちろん後ろで見張っていた人も含めて。


 普段師匠たち相手だと全く通用しないのでわからなかったけど、威圧の威力はかなり上がっているみたいだ。


 関係ないシーカーたちだけは離れたところに引き摺って行って起こしておいたけれど、オッサンたちはそのまんまにした。モンスターに襲われる前に親切な人が助けてくれるといいよね。ただ協会へと報告するために端末は奪ってきたけど。


 そこからはもういい加減面倒だったので、軽く威圧しながら一気に全力疾走で地上へと帰還する事となった。


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