第131話ーーNINJAからjob変更ですか?

 鬼ごっこを知っているだろうか?

 みんな知ってるよね、1人の鬼役が逃げる仲間を追いかけるやつ。

 俺も小さい頃にやった……ダンジョン内で産まれたって事で強制的に鬼役にされた挙句、勝手にみんな帰っちゃって1人寂しくどこにもいない奴らを必死に探してたりしたという悲しい思い出も付いてくるんだけど。まぁその時の公園で初めて香織さんと会って話したりもしたわけだから、それはそれでいい思い出でもあるんだけどね。


 おっと、俺の思い出話は置いといて、鬼ごっこの話だ。次元世界に修行のために入った俺と香織さんを待ち受けていたのは、その鬼ごっこだった。


「最近の手合わせを見ていても、横川くんはまだ人間相手に得物を振るう事に一瞬躊躇が見受けられる。如月くんも同じじゃな。そこでじゃ、気分転換としてみんなで鬼ごっこをしようと思う」


 柳生さんのこの言葉を聞いた時、俺はさすがだと思ったんだ……今回はそんなに酷い修行にならないのかな?なんて安心したりもしちゃったんだ……そんな甘い人ではないのに。


「でだ、各々これを頭・肩・心臓・腹の上にくっつけよ」


 渡してきたのはピンポン玉と両面テープ。嫌な予感を覚えながらに俺と香織さん、そして召喚獣たちは言われるがままに付ける。

 召喚獣たち……うどん・つくね・ハク・あられは人型となっている。ロンはやはり未だに人型とはならないので、柳生さんたち側として今回参加するらしい。


「よし、ではお前たちは鬼だ、逃げよ」

「鬼ごっこって鬼が追いかけるのでは?」

「なぜじゃ、鬼を人が討伐するために追い掛けるのが鬼ごっこであろう」


 確かに言われてみればその通りなのかもしれない。鬼に追われて怯え逃げるなんて、柳生さんには似合わないし。


「このピンポン玉は何ですか?」

「それは討伐証明じゃ、我らがそれを潰したら我らの勝ちということじゃな。これから8時間行う、それまでに全ての玉を失った者には罰を与える」


 やっぱりその為の玉だったのか……

 そして罰ってなんだろうか?めちゃくちゃいい笑顔で罰とか言ってるのが、めちゃくちゃ怖いんだけど。


「我らの玉を全て割れば、お主らの勝ち。誰が割ってくれてもその時点で玉を1つでも残しておる者たちの勝ちじゃ」

「ほら行きなさいな、5分後から私たちは動くからね」

「もちろんスキルは使こうてはならんぞ、では始めじゃっ」


 これ以上は有無を言わせないといった雰囲気に俺たちは事態を悟り、合図と共に飛び出すように森の中へと走り込んだ……少しでも遠くへ、2人から離れるようにと。


 ひたすら遠くへと走っていると、遠くで笛の音が鳴ったのが聞こえてきた。きっと5分の合図なのだろう。

 ここからどうしようか?生い茂る木々の中でそっと息を潜め時が経つのを待つか、それともこちらから打って出てピンポン玉を狙うか……そんな事を考えながらぼんやりとふと空を見上げると、空にロンの姿とその頭の上に弓を構えてこちらを狙う奥様の姿がハッキリと見えたのは。

 直後、風切り音と共に矢が迫ってきたのだ。いつの間に!?そんな事を思いながら矢を弾きつつ更に木々中へと身を隠す。何とか弾いた矢の1つを手に取って見ると、それはやじりは丸くまるで小さなパチンコ玉のようになってはいるが、あの勢いをもってすればかなりの衝撃と痛みを覚える事になるだろう事を想像できた。いや、ヘタをすれば刺さる可能性も考えられる。


 息を整え静かに気配を探ると、そこら中で俺以外があちこちに走り回っているのが感じ取れた。香織さんとうどんは一緒に、つくねは別行動のようだが奥へと走っている、ハクは同じ場所をぐるぐると回っている……これは襲われているようだ。そしてあられは……えっ?屋敷の方へとゆっくりと無防備に歩いているって事は、既に失格になったって事か!?早すぎる!!

 そして肝心の柳生さん夫婦の姿は一切掴めない……いや、正確に言うと奥様の姿は空でロンの上にいるのは目視出来るんだ。だがロンしか気配察知に引っかからない……どうやっているんだ?スキル?いや、本人がスキル使用禁止を言っていたのだから、使用しているとは思えない。だがどうやっても、目を瞑り全身で察知しようとしても見つからないんだ。

 おっと、ハクがゆっくりと真っ直ぐに屋敷に向かい始めた。

 どうなってるんだよ!?まだ開始10分経ってないっていうのに!!

 これ、本当に8時間持つのだろうか……


 問題はこちらが察知出来ないのに、向こうには何故か正確な位置を掴まれている事だ。それにより奇襲のような形となり、更には空と地からの挟み撃ちになる。

 これは普通に迎撃していては必ず負ける……ただでさえふつうに手合わせをしてもボコボコにされるのに、2人掛かりで襲われては手も足も出るわけがない。ではどうするか?気配を探れないようにこちらも工夫するしかないと思うんだ。

 上空からは狙いにくいような枝葉が多く茂っている大木の中程に陣取る。幹に耳を当てれば、まるで呼吸しているかのような水を吸い上げる音が聞こえてくる。そのタイミングに呼吸をゆっくりと合わせる。

 そう、木と同化する事を試みる事にしたのだ。


 俺は木だ……

 この大地に根付く木だ……


 木へと溶け込むように、息をゆっくりと行う。


 葉一つ一つのざわめきを感じる……


 意識を俺自身から切り離すように、まるで木そのものであるように。


 あぁ、香織さんが屋敷と歩いている。

 うどんは……あぁこちも歩いているな。


「これで仕舞いじゃな。なかなかいい試みであったぞ、先程までは居場所が掴めんようになっておった。が、狐や嬢ちゃんの動きに意識を割いたせいで気配が出てもうたの」


 声の方へと目を向けると、柳生さんが俺の横で木刀を構え立ち、近くの木の枝には奥様が弓をこちらに向けて構えて立っていた。

 これは詰んだって事だろう。

 時計を確認してみるとまだ開始30分だった……


「よし、では1度横川くんも戻って罰ゲームじゃ」


 屋敷前まで戻ると、先に失格となった5人が必死に木刀を振り続ける姿がそこにはあった。


「最後である横川くんは素振り1000回でええじゃろ、さっ振るうんじゃ」


 最後であるって言葉が気になって聞いてみたところ、俺が1000回の素振りが終わるまで他のみんなも振り続けるようだ。

 後から聞いてみたところ、先に失格となったあられは素振りを命じられたが、2人の姿が見えない事からサボろうと試みたところ、どこかともなく矢が足元に飛んできたそうだ……


 微妙に普段使っている物よりも重い気がする木刀を、2人が見守る中振り続ける事1000回。しかも姿勢や振り方がなっていないと看做されると、1からやり直させられるという地獄の素振り。それも俺のミスだけではなく誰かがミスれば、1からへと変わる仕様だった。多分合計で7000回以上振っていた気がするんだ……もう、腕がパンパンで重たいんだけど!!


「よし、では再開するぞ。ただ横川くんは特別メニューじゃ」


 また走らされるのかと思ったら、どうやら俺だけ違うらしい。一体何をやらされるのか……怖い。


「横川くんは先ほど己で気付いたな、なぜ我らが簡単に見つける事が出来て、なぜ我らの姿を発見できぬかを」


 あれは柳生さんたちの狩人ごっこではなくて、俺たち自身に気づかせるためだったのか!てっきり楽しんでるんだと思ってたよ……時折笑い声とか聞こえてきていたし。


「古来から言われる気というものがある。気には2つあっての、精神を元とするもの……これは例えば気力とかそういったものじゃの。もう1つは身体に作用するもの、こちらは気功なぞじゃな。今回必要とするのは身体に作用する方じゃ。では気とは何か?昔の陰陽師なぞは霊力と言ったり中国では妖力なのとも呼ばれたりしたが……今は魔力と呼ぶものじゃの」

「えっ?気って魔力なんですか?」

「うむ、そうじゃ。そしてその気……つまり魔力はあらゆる物から発しておる。人、木、石などこの世に存在する全ての物からな。でだ、いわゆる気配を察するとかは、その物から発しておる魔力を感じ取る事を言うんじゃ。では先ほどお主が気配を消そうとした事に戻るが、それはどうしたらいいと思うかの?」

「魔力を抑える事ですか?」

「そうじゃ、人間は修練をせぬ限り誰しもが魔力を垂れ流しておる。それを自分で思うように扱う事で気配を消したり、または相手に圧を与えるほどに放出したりする事が出来る」


 昔からよく気だのなんだのはよく聞いていたけれど、まさか魔力だなんて思わなかったよ。この話を信じるとすると、垂れ流している魔力を制御出来ればスキルでの魔力使用時にも役立つのかな?


「よし、ではわかったところで修練を行う。既に気配を察知する事は出来るようだからな、まぁそんなに掛からんじゃろうて。まずはの目標はかめは〇波を放つ事じゃな」


 は、はいぃっ!?

 うんうんって頷きながら聞いていたらとんでもない事を言い出したよ、この爺さん!!


「よし、ではまずは体内の魔力を感じる事から始めるぞっ!坐禅を組むんじゃっ、精神を統一して己の内を感じろ」


 えっ?

 何そのアバウトな感じ……

 どうしたらいいのかわからないんだけど!?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る