第129話ーー震えて眠る

 あれから3日経った。

 膝から下を失った俺は召喚獣たちに次元世界へと担ぎ込まれた後、エリクサーのおかげで回復する事となった。

 まぁ大した怪我じゃないと思うんだよね……よくどこかを欠損するような怪我はしょっちゅうしてるし、主に修行で。ただ今回はそれが爆弾によるものだったというだけで。だからすぐにでも復帰可能だったんだけれど、心配した香織さんたちによって止められてずっと次元世界で過ごしている。


 俺が次元世界で香織さんの看病に癒されている間に、ダンジョン内での外国人勢力の後片付けは終了していた。元世界TOPパーティーのメンバーはそれぞれ動きを封じられて、次元世界の森の中に作られた土壁による牢屋に閉じめられている。これは後日各流派を集めて今回の結末を説明した後に返却するらしい。

 師匠に話を聞いた事をまとめると、金山さんのお母さんが去年夏頃にロシアの父親の元に会いに行ったそうだ。その際にポロッと娘が勇者である香織さんの友人であり一緒にダンジョンへと潜るパーティーメンバーだという事を漏らしてしまったらしい。ロシアの軍人だった父親はそれを聞いてすぐに政府関係者に報告、そして秋に来日して情報収集を始めたらしい。そしてその中で俺の存在を知ったようだ。金山さんを唆し洗脳した上で、スキルスクロールを与え魅了して俺と香織さんを勧誘するように仕組んだが上手くいかなかった。そこで日本の他勢力などを巻き込んで漁夫の利を得ようとしたとか、そんな話だった。きっと俺たちには聞かせられない話や、聞かせたくない話がもっとあるんだろうけれど、教えて貰ったのはこれだけだ。

 これらは隊長である父親は爆発に巻き込まれ死んでしまっていたので、生き残っていた部下などからで聞き出したらしい。香織さんにも同時に説明しているからか、妙にに力を入れていたんだけど、それが逆に怪しかった。

 そんな話の中で唯一救いだったのは、金山さんが洗脳されていたって事だ。本来は香織さんを親友と言い、裏切るなんて出来ないと拒否していたらしい。だがそれでは困る彼らがクスリを使ったり色々口には出せないような事などを施したりする事でコンプレックスなどを刺激して洗脳したという事だろうか。

 まぁ冷静に考えれば、元々心の奥底にはあの態度となる原因があったという事なんだけれど、それでも洗脳されたからああなったとわかっただけでも救いだろうと思う。

 ただそれが本当なのかどうかは永遠にわからない。なぜなら親子3人ともに爆弾によって消え去ってしまったからね。だけどその父が娘に爆弾を背負わせていた事が、裏切れないようにした事なのかもしれないと想像は出来るけど。あとは師匠たちの優しい嘘の可能性も少なくない確率であるかな。まっ、どちらにしろ真実は闇の中だ、死人に口なしだしね。

 ただ妹の方は何も施してはおらず、元々あんな感じだったらしい。イケメンで強い彼氏が欲しい!その彼氏が望むなら、日本を売るとかどうでもいいって感じだったようだ。


 あとダンジョン外……つまり5男さんの事も片付いていた。こちらは俺たちが戦闘している頃に同時に起きていた。

 5男さんはご隠居さんと他数名の兄弟を伴って本部武道場にやってきたそうだ。そして柳生さんに対して、「5男を頭領にすげ替える。横川くんの力があれば、更にアレらを研究し何かわかる事があれば、初代様の願いである日本を……いや、世界さえこの手に収める事が出来る。そのためには信一(師匠)ではダメだ、あれは横川くんに情を持ちすぎている。ついては盟約ある柳生に認めて頂きたい」だなんて言い出した。だがそれを良しとしない柳生さんがハゲヤクザと鬼畜治療師に命じて、全員を取り押さえて地下牢に放り込んだようだ。

 で、秋田さんとか若狭はどうなったかというと、5男さんたちが本部にやってきている間に、監視人員を振り切って中国へと旅立って行ったそうだ、マッドサイエンティストの纐纈さんやその娘である現組長、その配下の数名……その中には若狭の現保護者である伯母さんも含まれている。どうやら5男さんたちに協力すると見せかけていただけで、本命は亡命?だったようだ。かなり前から企んでいたのだろう、研究所からかなりの資料が綺麗に持ち出されていたとの事だ。

 これらは全て分身を通じて柳生さんや近衛の人たちから師匠へと報告され、そして俺たちへと説明があった。


「横川、そろそろ戻ろうか」


 3日経っても新たに俺たちに対して刃を向けて来る者がいない事を確認したのか、師匠が帰る事を提案してきたのだが……


「織田さん、横川くんはあれ程の重症を負ったのですよ?まだここでリハビリをしていた方がいいのでは?」


 止めるのは香織さんだけではないんだよね。香織さんのお父さんまでもが凄い心配してくれているのだ。理由は簡単、膝から下を失った姿を見てしまったのが1つ、そして何故このようになってしまったか……つまり娘である香織さんを庇ってだという事を本人から聞かされて知ってしまった事が原因だ。

 ただね、これぐらいの怪我はしょっちゅうしているんだよね……この場でそんな事言ったら話がもっとややこしくなるから言えないけれど。


「……どうだ?」


 ただの一般人であるお父さんには強く言えないのか、めちゃくちゃ困った表情の師匠が居る。こんな姿は珍しいからしっかり見ておかなきゃだね。


「ふむ、その顔は余裕そうだな。よし、走って帰るぞ」


 しまった、また顔に出てしまったみたいだ。ジロリと俺を見ると大きく頷いて決定を下してしまった。

 くっ……せっかくの休憩が。


「牢屋に人たちはどうするんですか?入口を通さないと行方不明扱いになるのでは?」

「それは話し合いの後決める。今はまだ外に出すわけにはいかん、何をするかわかったものではないからな」

「了解しました」

「あとお前は忘れているようだが、山岡と近松の変化……いや、分身が解けるのはあとそれほどの日数があるわけではないからな。そろそろ帰って端末を入口で通さんと、それこそやつらが行方不明扱いになる」


 確かに忘れていたよ。

 変化の時間制限はないけれど、分身の時間制限はまだあるんだった。

 っという事で、全力疾走で一気に地上へと帰る事となり、そして迎えの車に乗って本部へと戻った。


「よくぞ無事に戻った。横川くんと如月くん、ツラい目にあったな……しっかりと養生してくれ」

「爺さん、俺たちがいない間に色々迷惑を掛けた」

「なんの……まぁ信やお前の兄弟たちの阿呆さには呆れたぐらいじゃわ。己の欲に初代様の名を軽々しく利用しよって」

「すまん……」

「あぁ、お前を攻めておるわけじゃない。ただ他人の力を当てにして欲望を語る暇があるならば、己の修練に励まんといかん。我らも努々その事を忘れんようにしなくてはな」

「うむ、お前たちも忘れるなよ」

「「「「御意」」」」

「ほれ、横川くんや如月くんは部屋に戻って寝なさい」

「ありがとうございます」


 柳生さんも師匠も凄いね。

 もし俺が今回敵になった人たちの立場だったとしたら、もしかしたら他人の力をあてにして夢を見ちゃった可能性もあると思うんだ。

 自分を律する事の大切さを学んだ気がするよ……ただ修練は程々にして欲しいところだけれど。


 部屋へと戻り武装を全て解いた俺は、倒れるようにすぐに寝る事となった。

 次元世界で休んだと言っても、やはりずっとどこかで気を張っていたのだろう。


 そして俺は……うなされる事となった。

 この手で殺した人たちの顔が夢の中で訴えかけてくるんだ。「お前のせいで」と血を流しながら、臓物を撒き散らしながら。手に残る感触が、浴びた血の臭いが鼻につく。


 それは香織さんも同じだったようだ。こちらは金山さん姉妹の顔、炎の中で罵詈雑言を喚いている姿が、ずっと浮かび続けたらしい。更には俺が膝下を失った瞬間もだ。そのせいで香織さんはうどんたちの部屋へと赴いて、毛皮に埋もれるようにして震えて寝ていたらしい。


 もっと他に選択肢はなかったのかと考えてしまう。でも答えは見つからないままに時間だけが過ぎて行く事となった。



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