第9話ーー暗殺案件

 あれから10日経った。

 高校2年の夏休み……予定では如月先輩のパーティーとは無理だとしても、女の子のパーティーとキャッキャ言いながら楽しいダンジョン探索をしているはずだった。


「「おやすみ〜」」

「おい、飯用の火消すぞ」

「ヨコ、先に寝るから4時間経ったら起こしてくれ」

「お先〜」

「なぁ、お前彼女いるの?」


 それが……その予定が……

 男だけの6人でキャンプ張って、嬉し恥ずかし初めての1泊なんてしなきゃいけないんだよ!!


 事の発端はやはりあのクソ忍者だった。

 昨日ダンジョン探索を終えて、訓練施設で制作したり戦闘している所に突然現れたクソ忍者。


「明日からは同じ新人パーティーと合同で探索。行き先は8階層、生産職2人を護衛しながら1泊して帰ってこい」


 なんて突然言い出しやがった。


 そんな事言われても普通さ、そんなパーティー簡単に集めれるわけないと思ってたんだけどさ……

 今日協会に来たら、受付のおっさんに他校の同じ歳の男3人組と引き合わされて、そのまま8階層まで来たって訳。


 今回の宿題は更にハードだ。

 なんせ火遁、闇遁、口寄せ、分身は使用不可なんだ。普通のjobとして活動しろってさ……


「お前の職とスキルは異常だから、早々に周りに知られない方がいい」


 って事らしいんだけど……

 情報収集しまくっている協会関係者に言われたくないよね!

 まぁでも……確かに言われて見ればその通りなんで従っているけどさ。



 そして今は8階層の草原でテントを張って、アマとキムはお客さん扱いなので、早々に俺を見捨てて眠りにつき、3人組の1人と4時間の見張りに着いている。


 今一緒に見張っている奴の名前は伊東くん。これといって特徴のない顔立ちで、盾職である重装歩兵だ。身長以上の青銅の盾を持ち、全身に銅で出来たフルメイルを着込んでいる。攻撃手段は槍で突いていた。

 おやすみ中の他の2人はというと、お伽噺に出てくるようなローブと帽子に、30cm程の指揮棒みたいな杖を持った魔法使いの片山くん。そして革の鎧と腰巻に50cm程の弓を装備した、弓士の弓田くんだ。


 ちなみに俺の装備は、革の鎧と革の腰巻にブーツだ。あと忍刀。

 忍者っぽくない?しょうがない、これもクソ忍者からの指定なんで。

 なぜなら伊東くんたち3人は素直に職名とか教えてくれたけど、俺たちは適当に違う事を言っている。

 クソ忍者曰く、「本当に信頼出来る仲間以外には本当のjobは言うな」と言われたからだ。

 俺は軽業師、アマは薬草家、キムは鉱夫だ。これらは正式に発見されているjobだから、疑問には思わなかったみたいだ。

 まぁもしかしたら彼らも嘘なのかもしれないけれどさ。


 彼らも同じクラスの友人で、3日ほど前に協会でなんかいい依頼がないか探していたら、職員の人に声を掛けられたらしい。

 しかもこれは依頼扱いで、一人当たり2万円出るらしい。ただドロップの権利は、全て俺とアマキムの3人にあるらしいけれどね。

 俺たち?俺たちにはそんな日当みたいなの出ないです。ドロップだけが稼ぎです。

 10階層までのモンスターの魔晶石は、1個当たり100円なので、100個集めても10,000円。それを3人で割ると……うん、考えたらダメだ。


「なぁ聞いてる?彼女いるの?」

「いや居ないよ」

「クラスの誰か紹介してくれよ」

「うーん……そっちこそどうなの?」

「いるけど、飽きてきたんで別れたいんだよね」


 チッ……

 どこにでもいるような普通の顔立ちに、さして面白いわけでもないくせに彼女がいる?

 その上、言うに事欠いて飽きただと!?

 もしかしてこれは……ここで暗殺してしまっていいんじゃないか?

 クソ忍者の本当の宿題は、こいつの殺害かもしれない。

 そう考えると色々辻褄が合う……ここまで本当のスキルを隠し、jobを偽り……


 ってそんな訳ないよね、人を殺したら一発でjobが<殺人犯 Lv1>に変わっちゃうし。


「うちのクラスはビッチしかいない」

「顔は?」

「普通じゃないかな」

「なんだよ、つまんねぇの」


 つまらんのはこっちだわ!


「そういやキムはイケメンだし、アマは頭良さそうだから彼女いるんだろ?」


 んっ?

 それは俺はブサイクで頭悪そうって意味か?

 そういう意味だよな?

 この野郎……やっぱり暗殺しちゃってもいいんじゃないかな?

 言葉による凶器で激しく傷付けてくるから、正当防衛になりそうな気もするし……

 ダメかな?


「いないと思うよ?隠してたらわかんないけど」

「誰かいい女紹介してくんないかな〜」


 彼女で満足しとけよ!

 ってか、どこの誰かは分からないけどこいつの彼女さんに、こんなクズ野郎とは別れた方がいいですよって教えてあげたい。


「そんな事よりゴブリンが5匹だけど、ここから300m程のところをうろついてるけどどうする?」

「えっ?俺見えないけどマジで?」

「うん、こっちの方は向いてないから気付いてないだろうけど」

「じゃあ、もう少し近付いてきたらでいいだろ。それにしてよく見えるな」


 うん、それは俺もそう思う。

 ここ最近視力が良くなっているような気がするんだよね。

 jobレベルや、スキルで遠くが見えるようになるって話を聞くけれど、クソ忍者たち指導員がOKを出すまではステータス確認を禁じられているから出来ないんだよね。

 いや、ダンジョンの中にまで監視はないだろうから見ちゃおうかな〜なんて思ったりもするんだけれど……もしバレたらどんな目に合うかわからないからね。



 そんな感じで、いつまでも続くこいつの女語りをイライラして聞きながら見張り時間を過ごし……交代時間となった。



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