第8話ーー見えそうで見えない
ダンジョンの壁を蹴り3匹のゴブリンの一番後ろへと着地した俺は刀を首筋へと振るう。
俺の行動にやっと視線が追いついた他2匹のゴブリン、まずは1匹の顔を左手で殴り飛ばす。
「火遁、火球!」
右手で持つ刀の切っ先を向け、殴られた事で頭を後ろへと反らせながらヨタヨタしているゴブリンへと火球を飛ばしつつも、錆びの浮き上がった汚い剣を振り上げて襲いくるゴブリンを避けるように後ろへと跳び、そしてまた壁を蹴り後ろへと回り込み首筋へと刀を滑らせる。
「ほい、お疲れ〜」
「よくやった」
3匹を討伐したところで、ほっと息を吐いているとアマとキムがドロップアイテムを拾いながら歩いてきた。
「少しは手伝えよ」
「ポーション代金払えばな」
「刀代分」
「……詐欺じゃねぇか!?」
訓練施設での地獄の3日間は昨日終わり、本日は名古屋北ダンジョンでの探索だ。
指導員となったクソ忍者と、刃引きされた刀で対戦指導を受けていた俺。そこには優しさなんて欠片もなく、生産施設から漏れ聞こえてくる笑い声や楽しそうな声をバックにガンガン殴られ、蹴飛ばされ、斬り付けられていた。
ねぇ、中古とはいえ鉄の手甲にヒビが入る程の攻撃をしてくるって訓練なの?
ねぇ、初日にアバラが数本折れるとか本気なの?
ねぇ、体力が尽き怪我の痛みで蹲る子供を蹴り飛ばすって鬼なの?
ねぇ、毎回食事や水に毒や痺れ薬入れてくるって人としてどうなの?
言いたいことは山ほどあるけれど、まぁそんな感じの3日間だった。
当初はスキル全てを見せることなく、体術や刀剣術を磨こうなんて思ってました。そんな風に考えていた時間もありました。
だが、そんな事言ってられないよね!
クソ忍者をぶっ殺してやろうと火球を飛ばし、影潜りを使い隠れたり、飛び跳ねながら襲いかかってました……まぁ傷一つ付けられなかったんだけどさ。
「俺はまだ10%の力も出てない」
とか言われたんだけどさっ!
問題はクソ忍者だけじゃないって事だ。
怪我をする度に、毒や痺れ状態になる度に、アマが作ったクソまずくて余り効かないポーションを飲まされ続ける事数百回。
得物も同じだ、キムが作った不格好な刀を練習にと渡され、折れる事数十本、その為に怪我する事数十回。
そう、2人の実験台にもされていたのだ。
2人の言うポーション代金とか刀代金ってのはその事だろう。
詐欺だ!
詐欺でしかないっ!
まぁ2人とも笑ってるから冗談なんだろうけど……冗談だよね??
「宿題の薬草は3階層にしかないから、早く行こうぜ」
「うむ、鉱石もそこにある」
「俺はあと83個の魔晶石だな」
それぞれの指導員から宿題を与えられているんだよね。
忙しい人達なので本人達に提出するのではなく、協会に渡すんだけれど、その話は窓口に伝言されているらしい。
明日からは朝協会窓口に顔を出すと、その日の宿題を言い渡される事がわかっている。だからサボる事もズルをする事も許されないって訳だ。
アマとキムの2人はダンジョン探索後に訓練施設でポーションや刀を作製しての提出もある。俺は2人が作っている間、手の空いている協会所属の戦闘訓練教官との模擬戦らしい……しかもあのクソ忍者の弟子だってさ……
「行くか……」
「おうっ!後な1匹位ならこちらに回してくれてもいいぞ?あくまでもトドメを刺すくらいしか出来んが。なんたって俺は非力な生産職だからな」
「うむ、俺は愚鈍な生産職だもんな」
「……すまんかった」
俺が力と知力がFFFだった事に対し、アマは力がFで、体力がFF。キムは知力がFFFで、敏捷がFだったのだ。
それを見た俺が思わず、「非力で愚鈍な生産職共よ、俺に着いてこい」なんて言ったのを根に持ってやがる。
「いた、またゴブリン3匹」
「頼む」
「気を付けてな」
「火遁、火球!闇遁、影潜り」
火球を飛ばし、その影に潜り一気に接敵する。これはこの階層の壁天井が自然発光している為に出来る手法だ。
着弾と同時に地上へと出て斬り付け、すぐさま横を通り後ろへと回り込み斬り付ける。1匹の剣を持つ手首を切り落とし、アマとキムの方向へ蹴り飛ばす……2人の言葉通りにトドメを刺させてあげよう……仕返しじゃないよ?これは優しさである、うん。
残った2匹は確実に息の根を止めるために、首などの急所を刺し、斬り付ける。
2匹から出たのは、魔晶石2つとゴブリンの肉と言われる一塊500g程の肉だった。
「肉出たぞー」
「なんか言ってから蹴飛ばせよ」
「うむ、焦ったわ」
「トドメご苦労」
思惑通り焦ってくれたみたいだ、これでいい。出来ればその様子を見たかったけど、それどころじゃなかったから仕方ない、また今度にしよう。
ドロップ品を2人のリュックに詰めて、また地図を見ながら下層へと繋がる階段を目指し歩き出す。
そしてモンスターを見つけ次第殺すのを繰り返す。
1階層は近所に住む主婦層や、定年退職した老人層が小遣い稼ぎにモンスターを倒しに来るから、比較的モンスターが少ない。
協会情報によると、1階層は約2万坪ある洞窟型迷路だ。広いせいでモンスターにも人にも会わない。だから無駄話に花が咲くのも仕方がない事だろう……
「なぁ、お前のその影潜りってさ、入っている時って周りはどう見えるんだ?」
「あーわかりやすく言うと、その影の真ん中の地面に立っている感じだ」
「確実に真ん中なのか?」
「そうそう」
「じゃあ、微妙に女の子のスカートの中とか見れない感じ?」
「そうなんだよ!見えそうで見えないというか……男心をくすぐる感じなんだよ」
「既に実行済みとか……」
「やはり犯罪者jobだな」
「くっ!貴様らはめたな!誘導尋問だっ!」
嵌められた!
違うんだ、真面目で技術を磨く事に余念のない俺は、孤児院でちょっと職員の先生の影で試してみただけなんだ!
「ちょっと聞いてくれ……」
「言い訳はいいから変態、2匹来たぞ」
「ゴブリンのケツでも見て我慢しろ」
「くそっ!火遁、火球っ!」
倒した後説明しようとしたら、こんな時に限って直ぐに近くにモンスターがいる事が判明する……
俺の話を聞いてくれっ!
影は光の当たり具合で大きさを変える事に気がついたのはだいぶ後だった……
それでよく知力FFFだなって?うるさいわ!
色んな柄が見えるようになったのは内緒です。
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