第11話重いと思い
「キャッ!」
一瞬悲鳴がした。なんとか掴めた彼女の腰は柔らかく、俺の腕の中へと引き寄せられた。そのまま後ろへ倒れこむ。鈍い音ともに背中に痛みが走る。
一瞬意識が飛びそうな感覚を味わった。三隅百合の重みとともに、腕が俺の顔面を捉え、鼻に激痛が走った。
目の前が一回転した様に空から公道の今まで眺めて人たちの足元が見えて目を閉じた。
目の前が一瞬暗くなり、頬を叩かれる音で目を覚ました。
「大丈夫?」
叫びながら頬を叩く三隅。
パチパチと拍手が鳴る中、俺は目を開けた。それでも俺の頬を叩く三隅。彼女は少し動揺を隠せない様で慌てていた。
「痛い」
三隅の叩く腕を取り言う。ようやく三隅は俺が生きている事を確認できたかの様に安堵な表情で俺の腕を取った。引き上げようとするが、腰に激痛が走り立つことができない。
「一分待って」
三隅にそう告げると、拍手をしていた人たちが一様に見飽きたのか、それぞれただの通行人へと変わる。痛みが少し引いた感じがしたので自分の意思で地面に手をつけて立ち上がる。
「大丈夫?」
そう声をかける三隅に俺は睨みを利かせた。
「大丈夫ちゃうわぁ。アホ! こっちが聞きたいわ。お前の方こそ大丈夫なんか?」
「ごめん」
「ごめんちゃうし。どういうつもりやってん!」
俺は怒りに任せて三隅の頬に向けて手を挙げようとした。その行動に瞳をずらし俯き加減になる三隅。その姿を見てその場で腕を下げた。
「怒ってるよね………」
「当たり前。お前何やってんの? 落ちたらどうすんの?」
「………」
その言葉に三隅は黙り込んだ。
「言えないわけ? 何で」
「怒鳴んないでよ。助けてくれた」
「本当にぶとうか?」
また睨みを利かすと三隅は口を詰むんだ。俯いて俺の挙げた腕のシャツの袖を親指と人差し指で軽く握って再度謝る三隅がいる。その直後だった。小さな小さな泣きそうな声で俺に語りかけようとする三隅の姿。いや三隅さんか…。
「来ないと思ったから」
その言葉に俺は返す言葉なかった。三隅さんが言うには、店に客として現れた時、電話番号のメモを渡し、お礼がしたいと言った日から数日間、ずっと俺からの連絡を待ち続けた事を小さな呟く声で聞かされた。
その時の三隅さんの目には、涙らしきものが浮かぶ。それ見た俺は俯向くしかできずにいた。しばらくの沈黙。
何も言えない振りかぶった俺の腕はゆっくりと降ろされていた。小さく握る三隅さんの指は俺のシャツを掴んだままだった。
「ごめん……」
唐突に出た言葉だ。深い意味などない。ただ謝りたかった。それほどまでの感情が俺にあるとは知らずにいたからだ。
ただ神戸で追ってから逃しただけの俺に対し、そこまで想われる資格など無いと思っていたからだ。
「こっちこそごめん。やっぱり迷惑?」
それは休憩時間に告白を受けた言葉のことだ。ちょっとめんどくさい女だと思う。ただ行かなかっただけなのに、死のうと飛び込もうとする彼女のその心情が俺にはまだ理解できない。
だから、端的に聞くことしたが、三隅さんが先に口に出した。
「これで二回目だね」
俺は端的に首を横に振った。暗くなる一方の空に向けて目を逸らした。それでも三隅さんは続けた。
「助けられたの」
俺は小さく頷いた。
「もうしないから」
俯きながら俺は小さく言う。
「当たり前だ。今度やったら本当にぶつ!」
「わかった」
俯いた彼女の顔が俺に近づく。俺はそのままの状態で彼女の唇を受け入れた。四条大橋のど真ん中。人通りも多いこの場所で、暗がりとは言え堂々とキスをした。小さな唇を俺は押し返した。
「もう一回……」
促す百合に対して今度はこちらから顔を近づける。人目憚らぬこの場所で俺たちは十代のカップルの様に熱い口づけをした。
周りの視線など微塵にも入ってこない。いつの間にか陽は落ち、街灯の灯が眩しく感じられた時手を取りゆっくりと歩き出した。
百合が俺を好きと言う本当の理由が知りたかった。助けたと言う事実はあるにせよ。それだけでは心もとない情けない男だとも思えた。
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