悪魔の感覚

 長蛇の列がようやく終わり、ホラインはどっと疲れた。

 うたげにも飽きてきたホラインは、カマル・ウェインに早退の断りを入れる。


「さて、私はそろそろ帰る」


 これに対してカマル・ウェインはおどろいた顔。


「何、もうか? あまりにも早すぎる。いったい何が気に入らぬ?」

「気に入らぬわけではない。夜通し遊ぶわけにもいかぬ。ただそれだけのことなのだ」

「一晩や二晩ぐらい、どうということはなかろう」


 カマル・ウェインの口ぶりに、ホラインは眉をひそめた。日に日につとめ、つつましく暮らすべしとは騎士の教え。その心は遊興ゆうきょうに何日もついやす風にはできてはおらぬ。


「いったいいつまでうたげを続ける?」

「二年と少し」


 悪魔の時間の感覚は、人間とは違いすぎる。二年も遊んでいたのでは、人の世などどうなっているかわからぬ。


「人間は忙しい生き物なのだ。二年どころか何日も遊んでおれぬ」

「何とあわれな生き物よ。しかしそれなら止めはすまい。ラビターンによろしくな」

「あいわかった」

「次のうたげは六百年後。また来いよ」


 最後の最後でホラインは大きなため息。六百年に一度では二度と参加できないだろう。そのころにはラビターンも生きているかわからない。



 騎士ホラインは大宮殿を後にして、悪魔の門をまた持ち上げ、トカゲの悪魔の元に向かう。

 トカゲの悪魔はホラインを見るや目を見開いて問う。


「あら、あらら? ラビターン様の代理のお方。いったい何のご用でしょうか?」

「すまないが、元の場所に帰してほしい」

「何か問題が起こりましたか?」


 トカゲの悪魔は怪しんで、声をひそめて問いかける。

 この者もやはり悪魔。生きる時間の流れが違う。

 ホラインは肩をすくめた。


「そうではない。人間は忙しいのだ」


 トカゲの悪魔はわかったようなわからぬような、納得いかない顔をするも、ホラインを乗せて地上に飛び立った。

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