人も悪魔も
さて、それからは騒動などなかったかのごとく、うたげのやり直し。
カマル・ウェインはホラインに話しかける。
「人間の騎士、ホラインと言ったかな? ラビターンはどうしているか」
「それなりに元気にやっておるようだ」
「お前はどこでラビターンと知り合った?」
「山の中の古城にて」
「しかしあの邪悪を煮つめたような悪魔が、よく人に代理を任せたものだなあ」
「人には人の……いや、悪魔にも悪魔のわけがあるのだろう」
ラビターンがまさか人の策にはまり、悪魔から人間になったなどとは思うまい。当人もそんなことは知られたくないだろうと、ホラインはおもんばかって言葉をにごす。
テーブルの上には豪華な料理があるが、ホラインは一つも手をつけようとしない。材料が何かもよくわからぬのだ。口に入れるのは怖すぎる。
ホラインが突っ立っていると、ダランディードが声をかける。
「先ほどは失礼した」
「とりあえず、剣を戻してくれないか」
ホラインはスギの棒をダランディードに見せつけた。
ダランディードは苦笑い。
「これはうっかり。剣は騎士の命と言う。大変すまぬことをした」
彼が指をスギの棒にスッと向けると、たちまち棒は元の鋼の剣に戻る。
「やれ魔法とはわからぬものだ」
「フハハハハ、人間ごときに魔法の妙はわかるまい」
得意になって高笑いするダランディードをホラインはにらみつける。
ダランディードは身をすくめ、そそくさと立ち去った。
その後に悪魔たちがぞろぞろと列をなしてホラインにあいさつをする。
「初めまして。アテクシはカヌン・アルハジャの悪魔侯爵」
「みどもはキタブ・シャイターンの大伯爵」
「それがしはカヌン・アルハジャの軍団長」
ラビターンとはここまでの大物だったか。ホラインは舌を巻く。
まだまだ列は終わらない。人も悪魔も社交界に変わりはなしか。
しかしまあ誰も彼も肩書ばかり。それも高位のものしかない。騎士にすぎない自分はもしや場違いではとホラインは思う。
堅苦しいのが苦手な彼は、もうそろそろ帰りたくなってきた。これならまだ乱闘騒ぎがマシかもしれぬ。
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