貴婦人との出会い

カイエへの道にて

 はるか遠い昔のこと。神々の時代が終わり、神と英雄の時代が終わり、そして私たち人間の時代が訪れた。

 悪魔も竜もまたはるか遠い昔の物語になろうとしていた頃に、一人の旅の騎士がいた。町から町へ、夢と冒険を探して歩く、流浪の騎士。その名も冒険騎士ホライン・ゲーシニ。

 大そう腕の立つ若者で、王都ベレトの騎士団では収まらないと、その身一つで冒険に明け暮れる。



 騎士ホラインは大陸の西にある大国マリのカイエに続く野道のみちにて、脱輪した馬車を見つけた。

 外れた車輪が道ばたに転がっており、馬車にあるべき馬がいない。積み荷も全部下ろしてある。

 そのかたわらでは、中年の男女と娘の三人が、疲れた顔で座り込んでいる。ホラインが近づくと、男がのっそり立ち上がり、女二人を守るように前に出る。


 ホラインは紳士的に事情を聞いた。


「どうなされた。お困りなら助けになろう」

「馬車の修理ができるのか?」

「いや、やったことは無いのだが。まあ試しにやらせてくれ」


 ホラインは外れた車輪を左手に持ち、右手一つで車を持ち上げ、力技ではめ直す。人並み外れた怪力を見せつけられ、三人は声も出ない。


「これでどうだ、走れるか?」


 ホラインはそう問うも、馬車を引く肝心かなめの馬がいない。三人の困った顔で、ホラインは馬がいないと遅れて気づく。


「馬はどうした?」

「ええ、それが……。脱輪に驚いて暴れ回り、逃げたので……」


 ホラインは少し思案し、こう告げた。


「では、私が馬車を引こう」


 中年の男は首を横に振る。


「とんでもない。そこまでお世話になるわけには……」

「構わぬよ。力仕事は得意なのだ」

「いえ、しかし、あなたはもしや騎士様では」


 ホラインの態度から、男は彼に騎士の気風きふうを感じていた。


「もし騎士だったら、どうだと言うのだ。かような場所で、わざわざ馬車を引いてくれる力持ちが通りかかるのを待つとでも?」

「すみません。お願いします」


 男はすぐに考え直し、改めて依頼する。


「任せておけ」


 騎士ホラインは快く引き受けた。

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