新たな剣

 フェズに向かう道中で、ホラインは若旦那に一振りの剣を渡される。


「ホラインさん、どうぞこれをお納めください」

「やや、これは?」

「騎士ならば、剣がなくては困るでしょう」


 その剣、騎士剣とはこしらえが違うものの、並の剣とはが違う。職人が鍛えた鋼の一品物。

 見るからに高価な剣にホラインは、受け取りをためらった。


「かようなものは受け取れぬ。剣ぐらい自分で買おう。私には十本いくらの安物で良い」

「騎士様がケチなことをおっしゃいますな。キャラバンを守りきった報酬です」

「まだ完了していない。帰るまで油断はならぬ」

「それならば前金代わりにお納めください。無事にケブリに帰れたら、そのままあなたに差し上げましょう。この後もキャラバンを守りきる自信がないとは言わせませんよ」


 問答に押し負けたホラインは、剣を手に取る。


「大事に使おう」

「それはまあ結構ですが、抜かずに死ぬのはしてください。剣は剣、使ってなんぼの道具です」


 若旦那の冗談に、そこまで自分はケチではないとホラインは顔をしかめた。



 五日後に何事もなくキャラバンはフェズに着く。

 少しだけ憂鬱になったホラインだが、五日もあれば立ち直る。いつまでもくよくよしてはいられない。

 現実は理想どおりにならないが、目指して行かねば実現せぬ。百人中、九十九くじゅうく人が笑おうとも、極めてみせよう騎士の道。

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