夢から覚めて
白衣の乙女は驚きと失望の目でホラインを見る。
「あなたは違う」
「しょせん私は人間だ。ありものでは退屈し、パンを食わねば生きられぬ。天国の門をくぐるには、まだ早い。あの二人は返してもらう」
宣言と同時に騎士ホラインは目を覚ます。
玄室の入口で、彼はうつ伏せに倒れていた。今まで夢を見ていたのかと、彼は立ち上がり、
老人はホラインのすぐ近くで眠っていた。
「ご老人、息をしておられるか?」
ホラインは老人に呼びかけながら脈を取る。
老人は小声でうめき、目を開けた。
「むむ、おぉ、ここは……」
「大丈夫か」
「ああ、夢を見ておった。死んだ友人と再会する夢。何とも奇妙な夢だった」
「夢は夢。あまり気にせぬ方が良い」
「うむ……そうじゃな……」
まだ心に引っかかるものがある様子の老人だったが、ホラインの言葉を受けて、おもむろに立ち上がる。
改めて二人は辺りを見回した。
祭壇も棺も今は輝きを失っている。近づいてみれば、どちらも石製。きらびやかな金銀に見えたのは幻だった。
いや、そこから夢だったのか。
棺の陰ではダーバイルが眠っていた。
ホラインは彼を持ち上げて、たたき起こす。
「おい起きろ、ダーバイル」
「あっ、旦那……おはようございます」
ダーバイルは決まり悪そうに笑みを浮かべ、惜しげにこぼす。
「あぁ、良い夢を見ていたのになぁ……」
ホラインはニヤリと笑ってたずねた。
「ほう、どんな夢だ?」
「あー、そりゃあ、美女に囲まれて、浴びるように酒を飲む夢ですよ」
うっとりするダーバイルに、ホラインはあきれ顔。
「低俗な」
「いやいや、これぞ男の夢」
「では、ずっと眠ったままでいたかったか?」
「ご冗談。しょせん夢は夢でしょう。酒も女も、そればっかりじゃ飽きますよ。人生にはスパイスが必要だと、昔の偉人は言いました」
そう言いながら、ダーバイルは石の棺を開けてみた。
フタをずらせば、
ダーバイルは驚いて飛び上がる。
「ヒャッ! ええい!」
そのおぞましさに鳥肌を立て、彼は慌てて棺のフタを閉め直す。
石のフタに挟まれて、蟲が潰れる。
「はぁ、嫌なもんを見ちまった。今回は大ハズレ。まあこんな時もあるでしょう」
彼はため息をつきながら、こぼれ出た蟲を踏み殺す。
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